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困難なミッション
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「あたしはインターポール超科学捜査研究所のタチアナ・シャポワロフ捜査官よ。わざわざ銃を持ってお出迎え、ってことは……超科学捜査研究所がどんな所か知ってる、と考えてもいいのかしら?」
署長はうなずいた。
「〈人ならざる者〉を集めて、〈怪異〉による悪行に立ち向かっている部署だな。きみについてのデータもすべて入手している」
「そぉなの? じゃあ、鉛玉じゃあたしを殺せない、ってこともわかってるはずよね。あたしをコロすには、もっとデカいタマが必要なんだけど……あら失礼。お子様にはまだ早い話だったかな」
タチアナの軽口を、少年は真顔で無視した。睨み据えてくる視線は揺らがない。
「この陽州――高天原ヘブンは、カジノと歓楽施設のせいで、人間の欲望や負の感情が溜まりやすい場所だ。天国とは程遠い。だから日本のどこよりも〈怪異〉の発生件数が多い。我々は、退魔師やエクソシストと呼ばれる専門家と連携し、常に助言を受けられる体制を整えている。結論から言うと、この銃に込められた弾丸は、専門家に製作を依頼した特別製だ。この銃は、きみを殺せる」
(あんたがその弾丸を、あたしに当てられれば、の話だけどね)
人間の中で生きる〈魔物〉として、タチアナはそういう敵意にはなれっこになっていた。〈魔物〉の存在を知った人間は、恐怖をあらわにして逃げ腰になるか、警戒して敵意をむき出しにするかのどちらかだ。サキュバスは人間の男を捕食する存在だから、警戒されるのも当然ではある。
「ねえ。銃を向ける相手、間違ってるわよ。あんたら警察とあたしたちは、手を組んで悪党に立ち向かう仲間でしょ? 警戒したくなる気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着いて、仕事の話に戻りましょうよ」
タチアナは不敵に笑ってみせた。
タチアナがこの極東の小国までわざわざやって来たのは、国際的な殺し屋を捕えるためだ。
特殊な能力を悪用し、高い金をとって人間界の要人を殺す〈魔物〉。非常にたちの悪い犯罪者だ。
人間の暗黒街に深く潜り込んでいるそういった犯罪者を捕らえるには、地元の警察と協力する必要がある。
タチアナが日本に到着する前に、インターポール本部から、すでに警視庁に正式な協力要請が行われているはずだ。
この高天原署にも連絡は届いているだろう。
だからタチアナはずばりと本題に入った。
「あたしが追っているのは、裏の世界で『ダークカメレオン』と呼ばれている殺し屋なの。その存在は百年近く前から囁かれている……金さえ出せば、どんな厳しい警戒でもかいくぐって要人を仕留める腕利きの暗殺者だと。……かつて、R国の指導者Pや、N国の独裁者Kも、『ダークカメレオン』が暗殺したと言われてるわ。もちろんPやKは替え玉を立ててたから、彼らが暗殺されたことは表沙汰にはならなかったんだけど」
「『ダークカメレオン』については、こちらにも資料がある。奴の実績を説明してもらう必要はない」
九曜署長がそっけなく言った。
二人はテーブルを挟んで差し向かいに座っていた。最初のとげとげしい雰囲気が嘘のように、おだやかで実務的な空気が流れている。
相手の鋭い視線を受けているうちに、タチアナは、「子供」を相手に仕事の話をする違和感をまったく感じなくなっていた。
「その『マスカレード』が、日本の有力者を暗殺するために、数か月前から東京に潜伏しているという情報をつかんだのよ。潜伏場所はどうやら、この高天原ヘブンらしい。日本のどこよりも外国人の出入りが多いこの島では、よそ者は目立ちにくいものね。というわけで、『ダークカメレオン』を捕えるために高天原署の協力を要請します」
「奴のターゲットが誰なのかは、わかっているのか?」
署長の質問に痛いところを突かれ、タチアナは渋い表情になってしまった。
「いいえ。非常に有力な人物だとしか」
「あいまいだな。まあ、いちばんのお偉方から始めて、上から順にしらみつぶしに当たっていくか」
「『ダークカメレオン』は、被害者に最大の苦痛を与える方法でなぶり殺しにするのが好きらしい。だから、ターゲットの性格や生活を身近でしばらく観察する傾向があるの。『どんな方法で殺してやろうか』と吟味しながら獲物を観察するのが、快感なんじゃない? それが、唯一こっちのつけ目と言えるわね。ここ数か月で急接近してきた不自然な人物をピックアップしていけば、その中に必ず『ダークカメレオン』が混じっている。あんたの言う通り、上から順に、かたっぱしからお偉方に聞き込みをしていくわ」
「膨大な人数をチェックすることになる。大変な作業になることは間違いないな。……『ダークカメレオン』は、人相はおろか、性別年齢さえ不明だと聞いているが?」
「そうよ。『ダークカメレオン』はシェイプシフターなの。どんな人間にも化けることができる。でも、シェイプシフターだけが反応する特殊なガスを使えば、見分けることは可能よ。そいつにガスを浴びせられる距離まで近づくことができれば、ね」
署長はうなずいた。
「〈人ならざる者〉を集めて、〈怪異〉による悪行に立ち向かっている部署だな。きみについてのデータもすべて入手している」
「そぉなの? じゃあ、鉛玉じゃあたしを殺せない、ってこともわかってるはずよね。あたしをコロすには、もっとデカいタマが必要なんだけど……あら失礼。お子様にはまだ早い話だったかな」
タチアナの軽口を、少年は真顔で無視した。睨み据えてくる視線は揺らがない。
「この陽州――高天原ヘブンは、カジノと歓楽施設のせいで、人間の欲望や負の感情が溜まりやすい場所だ。天国とは程遠い。だから日本のどこよりも〈怪異〉の発生件数が多い。我々は、退魔師やエクソシストと呼ばれる専門家と連携し、常に助言を受けられる体制を整えている。結論から言うと、この銃に込められた弾丸は、専門家に製作を依頼した特別製だ。この銃は、きみを殺せる」
(あんたがその弾丸を、あたしに当てられれば、の話だけどね)
人間の中で生きる〈魔物〉として、タチアナはそういう敵意にはなれっこになっていた。〈魔物〉の存在を知った人間は、恐怖をあらわにして逃げ腰になるか、警戒して敵意をむき出しにするかのどちらかだ。サキュバスは人間の男を捕食する存在だから、警戒されるのも当然ではある。
「ねえ。銃を向ける相手、間違ってるわよ。あんたら警察とあたしたちは、手を組んで悪党に立ち向かう仲間でしょ? 警戒したくなる気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着いて、仕事の話に戻りましょうよ」
タチアナは不敵に笑ってみせた。
タチアナがこの極東の小国までわざわざやって来たのは、国際的な殺し屋を捕えるためだ。
特殊な能力を悪用し、高い金をとって人間界の要人を殺す〈魔物〉。非常にたちの悪い犯罪者だ。
人間の暗黒街に深く潜り込んでいるそういった犯罪者を捕らえるには、地元の警察と協力する必要がある。
タチアナが日本に到着する前に、インターポール本部から、すでに警視庁に正式な協力要請が行われているはずだ。
この高天原署にも連絡は届いているだろう。
だからタチアナはずばりと本題に入った。
「あたしが追っているのは、裏の世界で『ダークカメレオン』と呼ばれている殺し屋なの。その存在は百年近く前から囁かれている……金さえ出せば、どんな厳しい警戒でもかいくぐって要人を仕留める腕利きの暗殺者だと。……かつて、R国の指導者Pや、N国の独裁者Kも、『ダークカメレオン』が暗殺したと言われてるわ。もちろんPやKは替え玉を立ててたから、彼らが暗殺されたことは表沙汰にはならなかったんだけど」
「『ダークカメレオン』については、こちらにも資料がある。奴の実績を説明してもらう必要はない」
九曜署長がそっけなく言った。
二人はテーブルを挟んで差し向かいに座っていた。最初のとげとげしい雰囲気が嘘のように、おだやかで実務的な空気が流れている。
相手の鋭い視線を受けているうちに、タチアナは、「子供」を相手に仕事の話をする違和感をまったく感じなくなっていた。
「その『マスカレード』が、日本の有力者を暗殺するために、数か月前から東京に潜伏しているという情報をつかんだのよ。潜伏場所はどうやら、この高天原ヘブンらしい。日本のどこよりも外国人の出入りが多いこの島では、よそ者は目立ちにくいものね。というわけで、『ダークカメレオン』を捕えるために高天原署の協力を要請します」
「奴のターゲットが誰なのかは、わかっているのか?」
署長の質問に痛いところを突かれ、タチアナは渋い表情になってしまった。
「いいえ。非常に有力な人物だとしか」
「あいまいだな。まあ、いちばんのお偉方から始めて、上から順にしらみつぶしに当たっていくか」
「『ダークカメレオン』は、被害者に最大の苦痛を与える方法でなぶり殺しにするのが好きらしい。だから、ターゲットの性格や生活を身近でしばらく観察する傾向があるの。『どんな方法で殺してやろうか』と吟味しながら獲物を観察するのが、快感なんじゃない? それが、唯一こっちのつけ目と言えるわね。ここ数か月で急接近してきた不自然な人物をピックアップしていけば、その中に必ず『ダークカメレオン』が混じっている。あんたの言う通り、上から順に、かたっぱしからお偉方に聞き込みをしていくわ」
「膨大な人数をチェックすることになる。大変な作業になることは間違いないな。……『ダークカメレオン』は、人相はおろか、性別年齢さえ不明だと聞いているが?」
「そうよ。『ダークカメレオン』はシェイプシフターなの。どんな人間にも化けることができる。でも、シェイプシフターだけが反応する特殊なガスを使えば、見分けることは可能よ。そいつにガスを浴びせられる距離まで近づくことができれば、ね」
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