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サキュバス、日本上陸
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――あれ? サムライは? 戦闘メイドは? 魔法少女はどこ? 日本では人口の半分が異能持ちなんじゃなかったの?
タチアナ・シャポワロフは面食らって周囲をきょろきょろ見回した。
インターポール本部のあるリヨンから約十四時間のフライトを経て、東京ヘブンゲート空港に降り立ったのはお昼過ぎだ。リヨンとの時差は七時間。普通の人間なら体の調子がおかしくなるところだが、もちろんタチアナには影響はない。
生まれて初めて訪れる未知なる国――日本。
出発前に、日本については、アニメやゲームなどの二次元コンテンツで十分に予習してきた。楽しそうな国だな、とわくわくしていた。
ところが、実際に見る日本の景色は、拍子抜けするほど普通だ。想像していたものと全然違う。
ここは江東区陽洲、東京湾の最後の埋立地。
別名「高天原ヘブン」――世界的に有名な、アジア屈指のカジノリゾート島だ。
巨大カジノを中心にショッピングモール、美術館、ホテル、レストラン、劇場、テーマパーク、スポーツ施設などが展開する。豊かで華やかな街だ。
でも、キラキラしたリゾート地など、世界のどこにでもある。
タチアナが期待していたのは、伝統的な寺や神社をバックに、魔法少女が飛び回る世界だったのに。
タチアナはすぐに、街並みに対する興味を失った。金の匂いをさせた俗物が金をばらまいている街など、何も面白くはない。さっさと目的地である高天原警察署へ向かうとしよう。
(あーあ、でも、おなかすいちゃったな。仕事の前に軽く食べていこうか)
十四時間のフライト中、たった一人しか食べていない。タチアナにしては我慢したほうだ。
タチアナは、今度は獲物を探す目で、周囲を見回した。
周囲の人々は誰もタチアナには注意を払わない。今のタチアナは、野暮ったいシャツワンピを着た「ダサい娘」だ。鮮やかな金髪はニットキャップに収められているし、グラマラスなボディラインはだぼっとしたシャツワンピに隠れている。美しい青い瞳も、サングラスの奥だ。
タチアナが瞳や肌を露出すると、その分だけ、周囲の男を魅了してしまう。
無駄に魅力を振りまくのは、控えなければならなかった。
もちろん、食事の時は別だが。
いいカモが来た。よどんだ顔をした、いかにもチンピラという風体の二人組だ。
おとなしそうな学生風の青年に、二人がかりで因縁をつけ、そのまま強引に路地へ引きずり込んだ。
カツアゲの現行犯だ。こんなに簡単に犯罪現場に遭遇できるなんて、この地区の治安は相当悪そうだ。
タチアナは鼻歌まじりで路地に入っていった。
チンピラ二人が青年を殴っているところだった。
「お兄さんたち。男同士でぶつかり合うより……あたしと遊ばなぁい?」
タチアナは男たちに向かって、シャツワンピの前を広げてみせた。
大事なところをビキニで申し訳程度に隠しただけの、凹凸の激しいグラマラスな肢体があらわになった。日光を受けて輝く、しみ一つない真っ白な肌。たわわな乳房、くびれたウエスト、引きしまった腰、適度なボリュームのある太腿。
「ぐもぶっ」というような声を発し、男たちの顔が赤黒く染まった。彼らは一瞬で〈魅了〉された。眼力を使うまでもなかった。
タチアナは鮮やかな手際で、チンピラ二人を裸に剥いた。
「いっただっきま~す♪ あらぁ、年齢の割に元気がないわね? 不摂生でアッチもしょぼくれちゃってるんじゃない? だからって容赦しないわよ。その精、全部吸い取ってあ・げ・る。……んー、おいしい。悪くないわ♡」
「ひあっ、いやっ、ああっ、勘弁してください。そんなっ……そんなところまでっ……ああっ、ああああーーーーーっ!」
「ガタガタ言わないで、全部よこしなさいよ。こんな美人に相手してもらえるなんて、今日があんたの人生の絶頂よ」
「ああっ、無理っ、お願い、勘弁……あっ、あっ、あああああーーーーーーーっ!」
十分後。コートの前を直したタチアナは、何事もなかったような顔で路地を出た。後に残るのは、地面に転がる裸のチンピラたちと――壮絶な光景に腰を抜かしたカツアゲの被害者だ。
たっぷり養分を摂取したタチアナの頬は、つやつやと輝いていた。
タチアナ・シャポワロフは、ロシア生まれのサキュバスだ。外見年齢は二十歳前後(実年齢はヒ・ミ・ツ)。顔もスタイルも完璧だ。本気を出せば、道行く男を一人残らず一瞬で虜にできるし、精を吸い取って命を奪うこともできる。
けれども今の彼女は、国際刑事警察機構超科学捜査研究所に属する捜査官だ。人間と共存し、人間社会の秩序を守るために働いている。
人間界で生きるサキュバスには、規則が課されている。
男の精を吸い取るとしても、殺してはならない。半月ぐらい寝込んだら回復できる程度に、手加減しなくてはならない。
(要するに、殺しちゃう寸前で止めればいいのよね? 楽勝楽勝♪)
タチアナはまじめなサキュバスだった。規則はちゃんと守るのだ。
タチアナ・シャポワロフは面食らって周囲をきょろきょろ見回した。
インターポール本部のあるリヨンから約十四時間のフライトを経て、東京ヘブンゲート空港に降り立ったのはお昼過ぎだ。リヨンとの時差は七時間。普通の人間なら体の調子がおかしくなるところだが、もちろんタチアナには影響はない。
生まれて初めて訪れる未知なる国――日本。
出発前に、日本については、アニメやゲームなどの二次元コンテンツで十分に予習してきた。楽しそうな国だな、とわくわくしていた。
ところが、実際に見る日本の景色は、拍子抜けするほど普通だ。想像していたものと全然違う。
ここは江東区陽洲、東京湾の最後の埋立地。
別名「高天原ヘブン」――世界的に有名な、アジア屈指のカジノリゾート島だ。
巨大カジノを中心にショッピングモール、美術館、ホテル、レストラン、劇場、テーマパーク、スポーツ施設などが展開する。豊かで華やかな街だ。
でも、キラキラしたリゾート地など、世界のどこにでもある。
タチアナが期待していたのは、伝統的な寺や神社をバックに、魔法少女が飛び回る世界だったのに。
タチアナはすぐに、街並みに対する興味を失った。金の匂いをさせた俗物が金をばらまいている街など、何も面白くはない。さっさと目的地である高天原警察署へ向かうとしよう。
(あーあ、でも、おなかすいちゃったな。仕事の前に軽く食べていこうか)
十四時間のフライト中、たった一人しか食べていない。タチアナにしては我慢したほうだ。
タチアナは、今度は獲物を探す目で、周囲を見回した。
周囲の人々は誰もタチアナには注意を払わない。今のタチアナは、野暮ったいシャツワンピを着た「ダサい娘」だ。鮮やかな金髪はニットキャップに収められているし、グラマラスなボディラインはだぼっとしたシャツワンピに隠れている。美しい青い瞳も、サングラスの奥だ。
タチアナが瞳や肌を露出すると、その分だけ、周囲の男を魅了してしまう。
無駄に魅力を振りまくのは、控えなければならなかった。
もちろん、食事の時は別だが。
いいカモが来た。よどんだ顔をした、いかにもチンピラという風体の二人組だ。
おとなしそうな学生風の青年に、二人がかりで因縁をつけ、そのまま強引に路地へ引きずり込んだ。
カツアゲの現行犯だ。こんなに簡単に犯罪現場に遭遇できるなんて、この地区の治安は相当悪そうだ。
タチアナは鼻歌まじりで路地に入っていった。
チンピラ二人が青年を殴っているところだった。
「お兄さんたち。男同士でぶつかり合うより……あたしと遊ばなぁい?」
タチアナは男たちに向かって、シャツワンピの前を広げてみせた。
大事なところをビキニで申し訳程度に隠しただけの、凹凸の激しいグラマラスな肢体があらわになった。日光を受けて輝く、しみ一つない真っ白な肌。たわわな乳房、くびれたウエスト、引きしまった腰、適度なボリュームのある太腿。
「ぐもぶっ」というような声を発し、男たちの顔が赤黒く染まった。彼らは一瞬で〈魅了〉された。眼力を使うまでもなかった。
タチアナは鮮やかな手際で、チンピラ二人を裸に剥いた。
「いっただっきま~す♪ あらぁ、年齢の割に元気がないわね? 不摂生でアッチもしょぼくれちゃってるんじゃない? だからって容赦しないわよ。その精、全部吸い取ってあ・げ・る。……んー、おいしい。悪くないわ♡」
「ひあっ、いやっ、ああっ、勘弁してください。そんなっ……そんなところまでっ……ああっ、ああああーーーーーっ!」
「ガタガタ言わないで、全部よこしなさいよ。こんな美人に相手してもらえるなんて、今日があんたの人生の絶頂よ」
「ああっ、無理っ、お願い、勘弁……あっ、あっ、あああああーーーーーーーっ!」
十分後。コートの前を直したタチアナは、何事もなかったような顔で路地を出た。後に残るのは、地面に転がる裸のチンピラたちと――壮絶な光景に腰を抜かしたカツアゲの被害者だ。
たっぷり養分を摂取したタチアナの頬は、つやつやと輝いていた。
タチアナ・シャポワロフは、ロシア生まれのサキュバスだ。外見年齢は二十歳前後(実年齢はヒ・ミ・ツ)。顔もスタイルも完璧だ。本気を出せば、道行く男を一人残らず一瞬で虜にできるし、精を吸い取って命を奪うこともできる。
けれども今の彼女は、国際刑事警察機構超科学捜査研究所に属する捜査官だ。人間と共存し、人間社会の秩序を守るために働いている。
人間界で生きるサキュバスには、規則が課されている。
男の精を吸い取るとしても、殺してはならない。半月ぐらい寝込んだら回復できる程度に、手加減しなくてはならない。
(要するに、殺しちゃう寸前で止めればいいのよね? 楽勝楽勝♪)
タチアナはまじめなサキュバスだった。規則はちゃんと守るのだ。
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