サキュバス捜査官の事件簿

双月ねむる

文字の大きさ
上 下
1 / 11

サキュバス、日本上陸

しおりを挟む
 ――あれ? サムライは? 戦闘バトルメイドは? 魔法少女はどこ? 日本ヤポーニャでは人口の半分が異能持ちなんじゃなかったの?

 タチアナ・シャポワロフは面食らって周囲をきょろきょろ見回した。

 インターポール本部のあるリヨンから約十四時間のフライトを経て、東京ヘブンゲート空港に降り立ったのはお昼過ぎだ。リヨンとの時差は七時間。普通の人間なら・・・・・・・体の調子がおかしくなるところだが、もちろんタチアナには影響はない。

 生まれて初めて訪れる未知なる国――日本。
 出発前に、日本については、アニメやゲームなどの二次元コンテンツで十分に予習してきた。楽しそうな国だな、とわくわくしていた。

 ところが、実際に見る日本の景色は、拍子抜けするほど普通だ。想像していたものと全然違う。

 ここは江東区陽洲あかす、東京湾の最後の埋立地。
 別名「高天原たかまがはらヘブン」――世界的に有名な、アジア屈指のカジノリゾート島だ。
 巨大カジノを中心にショッピングモール、美術館、ホテル、レストラン、劇場、テーマパーク、スポーツ施設などが展開する。豊かで華やかな街だ。

 でも、キラキラしたリゾート地など、世界のどこにでもある。
 タチアナが期待していたのは、伝統的な寺や神社をバックに、魔法少女が飛び回る世界だったのに。

 タチアナはすぐに、街並みに対する興味を失った。金の匂いをさせた俗物が金をばらまいている街など、何も面白くはない。さっさと目的地である高天原警察署へ向かうとしよう。

(あーあ、でも、おなかすいちゃったな。仕事の前に軽く食べていこうか)

 十四時間のフライト中、たった一人しか・・・・食べていない。タチアナにしては我慢したほうだ。
 タチアナは、今度は獲物を探す目で、周囲を見回した。

 周囲の人々は誰もタチアナには注意を払わない。今のタチアナは、野暮ったいシャツワンピを着た「ダサい娘」だ。鮮やかな金髪はニットキャップに収められているし、グラマラスなボディラインはだぼっとしたシャツワンピに隠れている。美しい青い瞳も、サングラスの奥だ。
 タチアナが瞳や肌を露出すると、その分だけ、周囲の男を魅了してしまう。
 無駄に魅力を振りまくのは、控えなければならなかった。

 もちろん、食事・・の時は別だが。

 いいカモが来た。よどんだ顔をした、いかにもチンピラという風体の二人組だ。
 おとなしそうな学生風の青年に、二人がかりで因縁をつけ、そのまま強引に路地へ引きずり込んだ。

 カツアゲの現行犯だ。こんなに簡単に犯罪現場に遭遇できるなんて、この地区の治安は相当悪そうだ。

 タチアナは鼻歌まじりで路地に入っていった。
 チンピラ二人が青年を殴っているところだった。

「お兄さんたち。男同士でぶつかり合うより……あたしと遊ばなぁい?」

 タチアナは男たちに向かって、シャツワンピの前を広げてみせた。
 大事なところをビキニで申し訳程度に隠しただけの、凹凸の激しいグラマラスな肢体があらわになった。日光を受けて輝く、しみ一つない真っ白な肌。たわわな乳房、くびれたウエスト、引きしまった腰、適度なボリュームのある太腿。

 「ぐもぶっ」というような声を発し、男たちの顔が赤黒く染まった。彼らは一瞬で〈魅了〉された。眼力を使うまでもなかった。

 タチアナは鮮やかな手際で、チンピラ二人を裸に剥いた。

「いっただっきま~す♪ あらぁ、年齢の割に元気がないわね? 不摂生でアッチもしょぼくれちゃってるんじゃない? だからって容赦しないわよ。その精、全部吸い取ってあ・げ・る。……んー、おいしい。悪くないわ♡」
「ひあっ、いやっ、ああっ、勘弁してください。そんなっ……そんなところまでっ……ああっ、ああああーーーーーっ!」
「ガタガタ言わないで、全部よこしなさいよ。こんな美人に相手してもらえるなんて、今日があんたの人生の絶頂よ」
「ああっ、無理っ、お願い、勘弁……あっ、あっ、あああああーーーーーーーっ!」

 十分後。コートの前を直したタチアナは、何事もなかったような顔で路地を出た。後に残るのは、地面に転がる裸のチンピラたちと――壮絶な光景に腰を抜かしたカツアゲの被害者だ。
 たっぷり養分を摂取したタチアナの頬は、つやつやと輝いていた。

 タチアナ・シャポワロフは、ロシア生まれのサキュバスだ。外見年齢は二十歳前後(実年齢はヒ・ミ・ツ)。顔もスタイルも完璧だ。本気を出せば、道行く男を一人残らず一瞬で虜にできるし、精を吸い取って命を奪うこともできる。
 けれども今の彼女は、国際刑事警察機構インターポール超科学捜査研究所に属する捜査官だ。人間と共存し、人間社会の秩序を守るために働いている。

 人間界で生きるサキュバスには、規則が課されている。
 男の精を吸い取るとしても、殺してはならない。半月ぐらい寝込んだら回復できる程度に、手加減しなくてはならない。

(要するに、殺しちゃう寸前で止めればいいのよね? 楽勝楽勝♪)

 タチアナはまじめなサキュバスだった。規則はちゃんと守るのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...