ある、王国の物語。『白銀の騎士と王女 』

うさぎくま

文字の大きさ
上 下
10 / 72

10、アレンの想い

しおりを挟む

「フルール。君はいつも、友人に囲まれているね」
 キャットは、先ほどまでの光景を思い出し苦笑い…。

「あらっ。女性は群れるものですから。私は一人でもいいのですが…集まってくるんですの。そう! 言うなれば私は最高級の生肉よ」

「……そこは、花の蜜でいいんじゃないかな………フルール……」

「ダメ。私が花の蜜なら、何、あのケバケバしい方達が、蝶?? 馬鹿いわないで。例えでも許せないわ!」

 フルールの容姿は中より上で中肉中背、突起して目立つ訳ではないが、その普通の中、一際目を引くのはストロベリーブロンドの髪。
 美しい容姿こそ武器になるの!!と公言する彼女の容姿は、誰よりも派手である。自前の髪色もだが、ドレスもフリルたっぷりの濃いピンク。
 はじめてフルールに会った時、キャットは若干ひいていたのに…すでになれている自分が笑えると感じていた。
 たまに、フルールがシックなドレスを着ていると、物足りなく感じる始末…。慣れはこわいと、しみじみ思っていると…。

 ぐんっっっ!!! 身体のバランスが崩され転倒しそうになる。そして直後に痛みがプラスされた。
「…っ痛い。何!???」あまりの痛さに身体が痺れていく。


「…あ、兄上???」

 左手首を掴んでいる人物に目を向けた。

「…フルール。少し弟を借りる」

 あまりに簡潔すぎる台詞に、フルールも唖然。

「…ええ…どうぞ…」

 今の兄上に、しっかり返答ができるあたり、流石フルールだと惚れ直した。



 腕を掴まれ、アレンに引っ張られるキャットは痛さに悲鳴をあげそうだった。

(「痛い、痛い、痛い」)

 庭園の、先ほどまで兄上がいた場所に行くのだとは分かる。あそこは、広間から死角になっているから話しやすい。

(「兄上!! 腕がちぎれそうなんですけど!!」)

 言っても、聞こえないだろうと我慢するが、冗談なく痛い。
 痛すぎてキャットは意識がトリップする。

 …あぁぁぁ…常にベッドの上…、骨と皮だけだった兄上が、これだとは誰が思う??
 高い身長。長い手足。軍服の上からでも分かる極限まで絞り込まれた肉体。広い肩幅。厚い胸板。
 今だ…信じられない…。

 やっと、放してくれた時にはキャットの腕は鬱血していた。

「兄上は、馬鹿力……ですね……」
「…あっ…腕…すまない」
「……(えっ??気づいてなかったのか)」
 キャットはまたも絶句する。

 赤くなった腕をさすりながら、用件を聞くため兄の方に意識を向けた。
 視界に入った兄の姿は、見たことがないほど辛そうな表情を浮かべていて、よくない状況をどうしても思い描いてしまう。


「…キャット。今すぐ、エルティーナ様をフリゲルン伯爵から離してほしい。…頼む」

「エルティーナ様? ……ってちょと! 兄上!!」

 壁に背を預け座り込むアレンに、飄々としていても、かなり前から兄上は限界だったんだと知った。

「……頼む……。これ以上は、無理だ。我慢…できない……」


 レオン殿下のもう…潮時だ…という言葉が否応なくキャットの脳内に響く…。
 エルティーナの護衛をはずれた時点で、それはアレンとエルティーナの決別を意味している。
 キャットは今までの我慢が最高潮に達し、とうとう爆発してしまう。

「……こんな茶番っ……ふざけています!!
 そもそも兄上が、エルティーナ様と結婚すればいいのでは!!?
 兄上の本気をぶつけて、断る女性がこの世に存在すると思えない!!
 何故、エルティーナ様に手を出さないんですか!?エルティーナ様が兄上を好きなのは、誰が見てもわかります!!
 十一年前だって……。
 まぁ…あのぽやっとふわふわエルティーナ様ですから、今の好きという想いが男女間での好きではないかもしれません。ですがその好きを、兄上の求める好きに変えていけばいいのでは!?
 エルティーナ様が何も知らないのであれば、兄上が手取り足取り全てお教えればいいですよね!! 違いますか!?」

 キャットは、苛立たしくて。今まで言わなかった…言えなかった事をアレンにぶつけた。


「…それだけは、出来ない」

「何故!? 何が、何が出来ないというのですか!?」

「…キャット…私の病は…治っていない」

「えっ…?」

「昔よりは大分減ったが…まだ吐血はある。今。この場で。心臓が止まっても、何も不思議じゃない…。
 口付けもしたい…。身体だって繋げたい…。もう一度…触れたい…。だが、踏め込めばもう戻れない。
 後…数年しか生きれない私と結婚してなんになる?
 …離れるべきだろう…でも…今更離れられない……。
 声が…聞きたいから。
 顔が…みたいから。
 名を呼ばれたいから…。
 ただ…そばにいたい…」

「兄上……」

「行ってくれ。…頼む」

「分かりました。行ってきます」

 キャットの姿が遠くなって。アレンは、息を吐く。優しい弟だと…。十一年前の事も、レオンや妻のフルールにも黙っている…。

 たくさん疑問に思っていても、今まで一度もふれてこなかった、優しい弟。
 アレンは溜まっていた気持ちを吐き、だいぶ楽になった…。

 ダンスを一緒に踊りたいと言った時の事も…。エルティーナにあれほど冷たい態度をとるつもりではなかったアレンだが…。
 あんな至近距離で、柔らかそうに上下に揺れる胸と、小さくふくれた桃色の頂きを見せられたら…身体が一気に反応して…かなり股間がやばい状態だった。
 軍服が厚手のトラウザーズで良かったと、心から思ったのだ…。

 エルティーナが結婚しても、アレンは、側にいるつもりだ…どんな事をしてでも…。



 星広がる空をみて。瞳をとじる。

「…(エル様)……愛しております…」

 決して口に出せない想いを込め、少しだけ…ほんの少しだけ声にのせる。

 心地よく、優しい風が、アレンの美しい銀髪を撫で続けていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

処理中です...