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71、ヘアージュエリーの導き
しおりを挟む「ちょっと……大丈夫?! ティーナ。ってティーナ!!」
ケイの何度かの呼び声でティーナはやっと現実に引き戻された。
「ごめん、えっと…何だっけ? 聞いてなかったわ」
「もう……。気持ち悪いの治った?? 震えは止まったみたいだけど」
少し安心したケイの声を聞いて、ティーナは改めて今の状況に驚く。
不思議と先程までの吐き気も震えも止まっていた。男性からの接触は苦手だったはずだが、さきほどのコーディンの間のお客様には抱き上げられても大丈夫だった。むしろ……安心するのが嘘みたいだ。
男性の腕の中が安心すると感じる自分が信じられない。どう贔屓目に見ても男の中の男という体型で、凄く迫力満点かつ恐そうな見た目の男性だった。
しっかりと顔は見えなかったが、間違いなく厳つい感じのお兄さんと推測できた。にしてはアンバランスな甘い声。あの声の所為でティーナの腰が現在若干抜けている。
「しかし、コーディンの間のお客様。意外だわ……貴族の方って聞いていたから、小さくて細くて、煌びやかで、私達一般人と自分達とでは違う生き物。って思っている人が来るって、思っていたけど…優しいのね……」
「ケイ…。あの方達……騎士だと思う。……私を抱き上げてくれた方も、お連れの方も。あんな…服の上からでも分かるくらいの肉体美は騎士でないと、ならないわよ……」
「それは思った。凄い筋肉よね!! 人って片腕だけで持ち上がるもんなの? あの人の腕はどうなってるのよ……見た目は怖そうな人だけど、中身は違うのね!! さすがボルタージュ騎士!! 軍服姿を見たかったわぁ~」
「もう、ケイったら!!」
二人の声にシモンの声がかぶる。
「ティーナ、大丈夫か?」
「支配人!! 本当に申し訳ございません!!私…」
「嫌、私も休憩なしで働かせていたし、ティーナが一番動いていたのは分かっていたんだが、君目当てのお客様が多かったからね、無理をさせた。すまない」
「支配人…本当に申し訳ございませんでした」
「うん。後、先ほどのコーディンの間のお客様が帰りに君に会いたいと言われていた。甘さたっぷりで……あの声は腰にくるね……。君を好きみたいだけど…。ティーナ、知り合いかい? 以前、ミダにお客で来てて、君を好きになったとか?」
「いいえ。初めてお会い致しました。支配人、ミダで働いていて……私、騎士のお客様は初めて見ますよ?? あんな美術彫像みたいな身体の人、一度見たら忘れません」
「嫌……まぁ……そうだな……」
疑問がたくさん残るが、先方が怒ってないのだ。ミダとすればそれで良し、だった。
休憩が終わり、店内に戻る。また仕事を再開していたら、支配人から呼ばれる。コーディンの間のお客様が帰られるとの事で急いで入り口に向かった。
入り口からまた甘い声が聞こえる。
「走らないでください、転ばれたら大変です」
甘い声で、胸がドキドキする……側に行くと背が高い。見上げないといけないわ…と思いながら、まずは謝る。
「先ほどは申し訳ございません、抱きとめていただいたおかげで、怪我もしませんでした。本当にありがとうございます」
「いいえ、ティーナ様に怪我がなく良かったです。倒れられたのに、仕事に戻って大丈夫ですか? 心にある事はおっしゃってください。貴女はすぐ本心を隠そうとなさるから……」
ヴィルヘルムの言いように、支配人とティーナは開いた口が塞がらない。そしてお連れの方は目が飛び出ている。かなり驚いていた……。
「あの…お客様……様づけは止めてください。私、一般人ですし、お客様は騎士様ですよね? おかしいです……」
「気にしないでください。これは私の癖なので、ミダの食事は最高でした。また、ティーナ様に会いに来ます。素敵な癒しをありがとうございます」
ヴィルヘルムはそう言って、ティーナの手をすくい上げ、手の甲に触れるか触れないかぐらいのキスを落とす。
「……………」「………………」
呆気にとられているティーナ達に見送られながら彼らは帰っていく。
「ヴィルヘルム様……ほんと、気持ち悪いです。なんですかあの話し方に、その甘ったるい声、止めてください。鳥肌が止まらないです」
「ラメール、煩いぞ。締められたいか?」
「…………すみません」
(いつものヴィルヘルム様に戻った……あれはエルティーナ様仕様か…いつもとのギャップがあり過ぎて吐きそうです………)
***
ヴィルヘルムはティーナに会うため、二日後またミダに訪れた。
「申し訳ございません。ティーナは今日休みをとっておりまして……何かお伝え致しましょうか」
「いや、いい。また来る」
ヴィルヘルムは支配人と軽く話した後、すぐにミダの店を出た。
「残念ですね。もう、まどろっこしいことせずに、王子だとバラしたらいかがですか? はっきり言って、その姿は恐怖ですよ。
軍服と違い、普通の服装は身体のラインが出やすいので、ヴィルヘルム様のその絞り込んだ肉体が圧巻すぎて……。
いつもは麗しい顔面と煌びやかな髪のお陰で恐くないですが……それが隠れている今の状態って、本気で恐怖を感じます。ほらっ、ちらほら子供が泣いてますよ……」
「それがどうした。諦めろ」
「ヴィルヘルム様って、あの物語の騎士まんまですね……白銀の騎士は、王女かそうじゃない人間か、という区分しかないって。どんだけ心狭いんですか……」
ヴィルヘルムとラメールはしばらく黙ったまま、馬を繋いでいる馬屋まで行く。そこは人集りができていて……。
「何かあるのか?」
「何ですかね……あっ今日は、舞台があるんですよ!! 例の『白銀の騎士と王女』です。なかなかチケットが取れなくて、凄い人気らしいですよ……観に行きますか?
なんでもその舞台役者らは十年に一度、代変わりするらしいですが、今の白銀の騎士を演じている俳優は本物に似ている!! と評判で乙女達から崇拝されているらしいです。
もしかしたら、ティーナ様がいらっしゃるかもですよ?? 夢みる年頃ですし」
「行ってみる」
「清々しいですね、そのエルティーナ様第一主義は。では行きましょう!」
ヴィルヘルム達が会場に着いた時には、もう舞台は終わっていて、乙女達は泣きながら舞台をうっとり観ていた。そこに目当ての人物もいたのだ。
「エル様……」
「どこですか? どこですか? この人集りで何故分かるんですか? ヴィルヘルム様、怖いですよ……」
美しい舞台は幕を閉じた。
(なんて素敵なお話なの。幸せそうだわ、王女様。いいなぁ……私もあんな風にダンスを踊りたい。抱き合って口付けをして、素敵……いつまでも幸せに暮らすのね…)
「ティーナ!! ティーナ!! 呼ばれているわよ!!」
「あっ!! 早く行かなくちゃ!!」
「もう……ティーナは浸りすぎよ……いよいよね!! ブチューとかましてきな!! 後でどんな感じだったか、教えてよ!!」
「もう…、ケイったら、でも話したいから聞いてね!!」
ティーナは、白銀の騎士様との甘い触れ合いを胸に抱き舞台上に上がる。
「あっティーナ様、俺も分かりました。うん? 舞台に上がってる? 何故??」
ラメールの疑問は舞台上の司会者らしき男に消される。
「さぁ!! お待ちかね、今日の〝運命の乙女〟三人は彼女達です!! 白銀の騎士様との甘い触れ合いを是非、堪能して下さいませ!! さぁ一番目の方から、どうぞ~」
少し年配の女性が……「口付けで……」と話すと、白銀の騎士の俳優は甘い笑顔で「かしこまりました」と言った後、彼女の腰に手を置き唇を合わす。
舞台席は、悲鳴と黄色声援でうるさかった。
次はスレンダー美人。年の頃は二十と少しといったとこだろう。そのスレンダー美人も「口付けで……」と話し、同じ様に白銀の騎士様と唇をつけ合わせる。
「さぁラストです!!」司会者の能天気な言葉に怒りが湧く。
「ちょっと、ヴィルヘルム様、まさかティーナ様、あれするつもりなんじゃ」
ラメールの声はヴィルヘルムには聞こえてなかった。
(エル様……違います……その男は、違います)
ヴィルヘルムの身体は無意識に動く。その行動が彼女の気持ちを踏みにじる事になると分かっていても、堪えられなかったのだ。
「……私も、口付けで……」
(胸が破裂しそう。目の前に白銀の騎士様がいるのよ。やっと、やっと、口付けが出来るのよ。ずっと羨ましかった。遊びでいいの…私も貴方と口付けをしたかったの…)
ティーナがゆっくりと瞳を閉じる。今まさに、ティーナが長く夢にみた、口付けを受ける。
しかし、ティーナにやってきたのは甘い口付けではなく抱擁だった。
「えっ!?」
瞳を開いた先には、白銀の騎士様がいて。ティーナ同様に驚いている。
「悪い子だね…彼氏の前で口付けはダメだよ。でもせっかくだから握手ね」
麗しい銀髪と白い軍服の美男子は、ティーナの手を取って握手をする。
「待って、違うわ、握手じゃなくて。口付けがいいの!! 待って!!」
ティーナの声は、会場の大声援でかき消された。後ろからまだティーナを抱きしめている男性を涙を溜めた瞳で睨みつける。
「お客様!! 何をするんですか!? どうして邪魔をするんですか!? 貴方なんて、大嫌いよ!! 離して!!」
ティーナは涙を流しながらヴィルヘルムから離れる。そして会場から走り出す。
近くにきていたケイも、今起こったハプニングを理解できず、でも泣きじゃくるティーナをそのままにできず、追いかけて行った。
呆然としているヴィルヘルムにラメールは大きな溜め息をつきながら、背中を叩く。
「……ヴィルヘルム様、…気持ちは分かりますけど。あれは無しですよ。彼女、絶対傷ついてますよ。あんな軽いキスも許せないんですか……? 貴方って人は……」
ヴィルヘルムの腕の中に先ほどまでいた温かい温もりは、拒絶をし離れていった。
「エル様は、まだアレンを好きなのか? まだアレンに惹かれているのか? ……止めたことは後悔してないが、辛いな……」
***
舞台が終わり、ティーナの日常は戻ってきた。宝物になるはずだった白銀の騎士様との大切な甘い触れ合いは、ティーナには訪れなかった。
「……ティーナ、お客様がお待ちだ…いきなさい」
支配人シモンの心配げな声が朝のミダの室内に響く。
「行きません。知りません。忙しいので」
「ティーナ……」
ケイが服を引っ張り呼んでくる。でもティーナはそれを無視し、皿を片付けに行こうとする。そして新たなティーナを呼ぶ声が…。
甘く優しいこの声を今、一番聞きたくない。悔しくて、腹立たしくて、鼻の奥が痛くなる。泣きそうになるのを堪えながら、甘い声の人を無視する。
「ティーナ様、昨日の事は申し訳ございません」
「何が申し訳ございません。なんですか!? その呼び方も止めて下さいって言いましたよね!?」
顔を見ようともせず、ヴィルヘルムから離れようとするティーナに思わず手を伸ばしてしまう。
柔らかな腕に触れるだけでヴィルヘルムの気持ちは喜びで満たされる。しかし、それはティーナの泣き声でかき消された。
「離して下さい!! どうして邪魔ばかりするんですか!?」
ここはミダの店内。朝の時間帯、お客様も多い。スタッフも全員いる。そう分かっていても、叫んでしまう。
ティーナのたった一つの楽しみを奪った。やっと、やっと、白銀の騎士様と口付けができるはずだったのに。 初めて大好きな人と口付けができるはずだったのに。返して、返して、返して!!! ティーナの悲しさは怒りに変わっていく。
「ティーナ様、私は………」
この後に及んでまだ〝ティーナ様〟呼びをするこの黒髪の男の人に、ティーナは爆発する。
「ふざけないで!! 帰って!! 貴方の顔は見たくない!! 嫌いよ、大嫌い!!! やっと、夢が叶うはずだったのに!! 白銀の騎士様との口付け、本当に夢だったのに!!!
……ずっと、ずっと、遊びでいいって思ってた!! たくさんいる恋人との中を引き裂こうなんて思ってないのよ!! ただ、キスがしたいだけ、それ以上は何も望んでないのに。貴方はそれを奪った! 返して! 返して!! 返してよ!!! 私の夢を返して!!!」
ミダの店内は静まり返っている。
ティーナの明るい笑顔に優しい気遣いに、癒しを求めて朝から訪れていた常連客も、初めて見るティーナの怒りを込めた叫び声に呆然としている。
勿論ティーナを注意すべき支配人シモンもケイも、サンダー達他の従業員も皆、呆然。
ティーナのこの言葉には、ヴィルヘルムも黙っていられない。あの舞台に立っていた男は只の人。ティーナが望んでいる白銀の騎士ではない。
好きな男がいるなら、応援するつもりだったし、ティーナが喜びそうな贈り物をして身を引くつもりだった。
(だが、あれはない!! 白銀の騎士は私だし、何故私がいるのにあの男と口付けをする!? 冗談じゃない!!)
「ティーナ様、あの男は白銀の騎士ではない。舞台に立つだけのただの男だ。似ても似つかない。白銀の騎士の生まれ変わりは…」
ヴィルヘルムの台詞は最後まで言えなかった。
「知ってるわよ!! 白銀の騎士様の生まれ変わりはヴィルヘルム王子様でしょう!? 馬鹿にしないで!! で、その王子様は、ホルメン国の王女様と結婚するんでしょ!! 何がいいたいのよ!! 本物がどうかじゃないの!!
……偽物でもいいの、思い出を取らないで。本当じゃないから幸せなの……あのお話は全て嘘だもの……あんな風に、愛してもらった事なんてなかった……。ダンスを踊って、抱き合って、口付けをして、愛を囁いてもらって、同じベットで朝…目が覚める。
全部〝嘘〟だから幸せなのよ……素敵な〝嘘〟を奪わないで……」
「……ティーナ……?……」
皆が疑問に思う。前半は分かるが、後半は意味が分からない。気でも触れたかと思っていたら。
目の前のあり得ない光景に、接客のスペシャリストであるミダのスタッフ全員がトレイを落とす。
痴話喧嘩にしては重く感じる二人の動向を、食事をせずに見ていたミダのお客様達も、持っていたスプーンやらフォークを落とす。飲んでいたジュースを口からこぼす人もいた……。
(嘘じゃない、実際は触れてない。だが、想像はしていた!! 私は、いつもエル様だけを見てきた!!)
ヴィルヘルムはティーナの目の前で、黒い鬘を取り、樹脂で作られたマスクも顔から剥がした。
黒く重い鬘の中からは、朝の光をもっともっと眩しく美しくした、輝くような黄金の髪が背中に流れる。
人の皮膚そっくりのゴツゴツとしたマスクの下には、教会の壁画に描かれた神様のごとく美しい顔面が現れる。
黄金に波打つ髪、神がかった美貌、鍛え上げられた肉体は美術彫像のような姿。全員の時を止めた美しい人は、とても苦しそうで。
最上級の輝きを秘めるエメラルドの瞳は、懇願するようにティーナを見つめている。
「白銀の騎士は私です。今も昔も私は貴女だけを愛している。私は貴女だけの騎士だ。私を思いながら、違う男と口付けをしないでほしい。
あの物語も……嘘じゃない。病が理由で貴女には触れなかったが、あの物語のようにいつも想像はしていた……。
メルタージュ家の屋敷で出会った時から、ベットの上で吐血する私を優しく抱きしめてくれたあの時から、私は貴女を一人の女性として愛している。
貴女に……エル様に会うためだけに私は騎士になったのです……」
ヴィルヘルムの心からの叫びは、ティーナの心を揺さぶり、遠い魂の記憶を蘇らせる。
心を揺さぶられたティーナの瞳には、涙が溢れ続ける。
呆然としながら、目の前の美しい人を見て、何故かティーナの口から出た言葉は。
「アレン…の……馬鹿………」
ティーナは机に押し倒される。
身体中で抱きしめられ、美しい人からは何度も何度も「エル様……」と聞こえる。
私の名前ではないのに、ティーナと呼ばれるより嬉しくて、その呼び名を聞くたび、美しく切ない記憶に色がつき甘く蘇る。
メルタージュ家のお屋敷。
隠し通路を通って出た先で出会った美しい天使の男の子。
大好きな庭園で運命の再会を果たして、私だけの護衛騎士になった。
甘く切ない時を過ごして。
遊びでいいの、口付けをしてほしい。
お父様にも、お母様にも、お兄様にも、言わないから。
遊びでいいの、抱いてほしい。
分かった。もう言わないから…せめて、貴方とダンスを踊りたい。
嫌いにならないで。もう我が儘は言わないから。
たくさん泣いて、たくさん笑った、初めての友達が出来て。
アレンを想いヘアージュエリーを作った。
今世で無理でも、来世では私を好きになってほしいと願って………。
殺されたあの夜。
アレンから貰ったミダのチョコレート。我慢しないで食べれば良かったわ…。って最後まで、後悔したの…。
(あれほど長く一緒にいたのに、こんなふうに抱きしめられたのは初めてだわ)
「……お屋敷で会った事、覚えてたのに。忘れていた振りをした罰よ……ミダのチョコレート全部買ってくれたら、許してあげるわ、アレン!!」
「……エル様、勿論です。ただ、一度にたくさん食べると身体に悪いので。ひと齧りづつ、口にしたら如何でしょうか? 残りは私が食べますのでご安心を」
「…アレンに私の食べ掛けを渡すなんて、行儀悪いし……汚いわ…齧ったらその…チョコレートに…唾液がつくし。それをアレンが食べる必要はないわよ……」
「…エル様。唾液は別に汚くはないです。口付けをしたら普通に付きますし」
「ふふふっ……アレン、変わってないわ」
「エル様も……」
二人は笑い合い、自然に唇は重なる。
「口付けって柔らかいのね……とっても甘いわ…」
ティーナの感想は口付けに飲み込まれる。ヴィルヘルムは角度をかえて唇の柔らかさを堪能し、舌を優しく絡ます。
室内には二人の口付けの甘い水音が響きわたっている。
「「「「「「えっと…」」」」」」
段々濃厚になる口付けを。今にも次の段階に行きそうな二人を、何処で止めたらいいのか……目線は外すのか?? 嫌、超絶麗しいし見ていいのか??
皆の問題を解決する。二人の濃厚なラブシーンをブチ破る救世主が店内に入ってくる。
「失礼します。えっと…我が主は………。
ギャァーーーーーァーーー、ヴィルヘルム様、何をしているんですか!?
嫌ぁーーー待って下さい、ストップ ストップ!! 我慢出来ないからって、襲っちゃダメです!! いくら貴方でも、犯罪ですよ! 犯罪!!」
「……ラメール。煩い」
「ティーナ様!!! 大丈夫ですか??」
「……えっと…あっ お客様…ぁ…」トロンとした顔と声でラメールに返事をするティーナに絶句。
「………分かりました。色々聞きたい事はありますが、一先ずは王宮に帰りますよ。ティーナ様も一緒で構わないですから。
支配人、ティーナ様をしばし借ります。馬の用意もしております。ヴィルヘルム様、さっさと動いて下さい」
呆れかえったラメールにヴィルヘルムは涼しげに返答する。
「馬では帰れない」
「はぁ!? ヴィルヘルム様、馬鹿言わないで下さい!!」
「がっつり下半身が反応しているから、この状態で馬には乗れない」
神がかった彫刻のように麗しい美貌の、伝説の白銀の騎士の生まれ変わりの王子様が放つ、男を感じる生々しい発言は。
ミダの支配人、ミダのスタッフ、ミダにいるお客様、ラメール、そしてティーナを真っ赤に爆発させる。
「……くっ…分かりました!! 馬車を用意しますから、一先ず離れて下さい。あなた達、ここでおっ始めるつもりですか!?」
「ラメール、煩い」
真っ赤になりながらも、ティーナは嬉しくて堪らない。大好きなアレンと早く…と思うけど、それを悟られたくなくて。誤魔化す為にヴィルヘルムに向かって意地悪を言う。
「………アレンの…エッチ」
「気づくのが遅いですよ、エル様。レオンにも言われましたが…私は変態です。今更です。いつもエル様を見ては、貴女には言えないような事を、ずっと考えておりましたから。
やっと貴女を抱けるのです。初めてお会いした時の続きを……したいです」
「ふふふっ、アレンが開き直ってるわ……生まれ変わってもアレンは美しいわね……目がチカチカするわ!!
大好きなアレンと大好きなお兄様を足した感じ!! 何を言われても嫌な気がしないわ………不思議ね。
………アレン……………。
私、今でも最期の時を夢に見るのよ。……襲われる夢。早くアレンに上書きしてほしいわ……恐くて堪らないの。いつもその夢を見た次の日は吐き気が止まらなくて……早く私をアレンでいっぱいにしてほしい。もう、あの夢を見ないくらいに………」
ヴィルヘルムの苦しそうな顔を見て、ティーナは頑張って微笑む。
「エル様……お守りできなく、申し訳ございませんでした……」
「ううん。それはいいの、それは仕方ないもの。今からたくさん愛してくれたらいいわ!! アレン、大好き!!
っとじゃなくて、ヴィルヘルム様だったわねっ」
「アレンと呼んで下さい。そう私を呼ぶのは、貴女だけですので……」
「分かったわ! ではアレンも私の事はティーナ様じゃなくて、エル様って呼んでね!!」
ティーナは満面の笑みでヴィルヘルムに抱きつく。好きな人に抱きつける喜びを噛みしめながら………。
ヴィルヘルムは腕の中にティーナを囲い込み、その柔らかい身体を全身で感じる……。
長い時を繋ぎ。その紡がれた思いはヘアージュエリーの導きで……。
二人の〝恋〟は今やっと、始まるのだ。
「………エル様、愛しております。……今までも、そしてこれからも、永遠に……貴女だけを………」
二人は見つめ合い、もう一度ゆっくりと唇を合わせた。
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初めまして。ベリカフェで大ファンになり、Yahoo検索から、と記載されていたので此方も拝見しました。本当に愛してる作品です。我慢しても涙が出て笑いが出て…切なくて甘くて…そして性については表現が官能でエッチではなく、エロス。肉体美から家具やドレスにしても色々と知識がある作者様。その世界に私がまるで居るみたいな錯覚になります。愛し過ぎて数え切れない程読んでます。私のしおりにはうさぎくま様の作品しか入ってません。私は主婦ですが…エル様、レオ様、アレン様に恋してます。またうさぎくま様の作品楽しみに待ってます。
さめ姫様
こんにちは。感想ありがとうございます!! ベリカフェから来てくださったのですね。感謝です。とても有り難く思います。
こちらの作品は、処女作なので。他とは違い入れ込みが違うのと、まだまだ拙い文章で頑張って書いたものでした(>_<)
この作品に感想を頂くのは久しぶりで、あまりに褒めて頂けるので、感想メッセージを読みながら小躍り致しました笑 嬉しかったです。
一応ハッピーエンドですが、ちょっと悲恋要素が多くあまり受けは良くないと思い書いていたので、最後まで読んで頂けて。エル達を気に入ってくださり光栄です!!
これからも感動を届けられるような、作品書いていきます。
追伸
久しぶりに私も最初から目を通し、誤字脱字を沢山驚くほど発見しました。少しづつ直してまいります。読みにくい中、読んでくださりありがとうございます。
本当に感想ありがとうございます。
うさぎくま
こんばんは、
生まれ変わって
やっと、巡り会えてよかったです。
2人の物語は、最高です。
何回読んでも感動と悲しみとワクワクを
感じさせる内容です。
永遠に続くものがたりですね。
ふじこですか様
こんばんは! 感想ありがとうございます。そして最後まで読んで頂きありがとうございます!!
物語を最高といって頂き光栄です。心に響く物語をまた書いていこうと思います。
これからも、読んで頂けると嬉しいです!本当にありがとうございました。
うさぎくま
今晩は
お疲れ様でした(o^^o)
中々の長編でしたね!
手直ししながら、丁寧に描かれていて、また、話の筋はあまり変えないで、よく描き切ってくれました!
また 他の作品も、楽しみにしています
妖精王のお話しあれも好きですね(笑)
これからも 応援しています(o^^o)
待ってますよ〜*\(^o^)/*
みかん様
こんばんは! 感想メッセージありがとうございます!!
新しいのを…と思いましたが、みかん様のリクエストなので、ちょっと本格的に妖精王の話を書こうと思います。
あれはちょっとギャグっぽいので、読みやすいかと思います!!
お楽しみにお待ち下さいませ。
うさぎくま