ある、王国の物語。『白銀の騎士と王女 』

うさぎくま

文字の大きさ
上 下
58 / 72

58、フリゲルン伯爵の誘い

しおりを挟む



◇◆◇◆◇◆◇◆


 えーっと。どういう状態だ、コレ。


「やあ、ルーなんちゃら君。全然お店に来てくれないから、持って来てあげたよ~」
「……何を」


 何故ココに変態が。


「これこれ~」
「あ、板チョコ」
「いたちょ……違うけど、うんそう」


 わざわざ板チョコを配達しに来てくれたのか?
 ディオンと一緒に?


「どうも」
「ね~、それタダであげるから僕と話そうよぉ」
「嫌です」
「ルーカス、仕事があるんだろ。早く兄貴のとこへ戻れ」


 いや、ほんとに何しに来たの。お二人さん。
 変態はニヤニヤ笑ってるし、ディオンは顔の治安が悪すぎるし。


「じゃあ、俺はこれでーーーーわっ」


 そのままフィン兄の仕事部屋に戻ろうとしたら、目の前に変態が居た。
 ナニコレ、デジャブ。


「せっかく来たのに、それは酷くない?」
「ワープ使ったんですか」
「うん」
「……マナの無駄使い」
「何か言ったぁ?」
「いえ、何も。あの、そこ退いて下さい」
「イヤ。僕と遊ぶ約束するなら、良いよ~」


 小学生かコイツは。
 ディオンにどうするか聞こう。
そう思って振り向こうとしたら、人にぶつかった。
……真後ろに立つなよー!


「いてっ」
「悪い、大丈夫か」
「ディオン……もしかして、お前もワープを」
「歩いただけだ」


 ですよね。食い気味で答えなくても良いんじゃないかい。さっきの今だったから、もしかしたらって思ったんだよ。だって、あの変態があんなに簡単に使うから。


「あの人、何しに来たの。てかディオン、仕事は?」
第3騎士団オレたちに喧嘩売るだけ売っといて、ルーカスに土産渡すってほざきやがった」
「??」
「だから、見張りに来た」
「あー、なるほど。さっぱり分からん。よし、なら土産はもらったから、用は済んだな」
「ああ。邪魔して悪かった。兄貴によろしく」
「おう」


 ディオンが連れて帰ってくれるなら一安心、と思ったが、そうは上手くいかなかった。


「だ~か~らぁ、僕と遊ぼうよ。ルーなんちゃら」
「ルーカスです」
「ルーカスくん、遊ぼ。何処が良い?
あっ、僕の職場見学する~?」
「おい、近づくな。嫌がってるだろ」


 ぎゅうっと、隠す様にディオンに抱きしめられる。
うーん。いっそ、このまま運んでもらえば安全なんじゃないか?
 ふわっと香る、石鹸の匂いが俺をダラけさせる。
 そーいや、今日はまだハグしてなかったな。
 屋敷では、わりと今みたいにディオンが抱き着いてくる事が多い。俺のサイズ感がちょうど良いっぽい。
 常に人肌を求めるなんて、可愛い奴め。
 だからか、最近はディオンの匂いで落ち着く様になってしまった。
同じ石鹸なのに、何でこうも違うんだろう。俺も、こんな風に香ってるんかな。


「別にいいじゃん。おーい、ルーカスくん。コッチ見て。何、眠たいのぉ? 僕が抱っこしてあげようか」
「要らないです。俺戻らなきゃいけないんで」
「ふ~ん。つまんないのー。
じゃあ、王様に言っちゃおうかなぁ」


 何を?!


「ルーカスくんが欲しがってるから、薬の材料ありませんっ、て」
「言ってないんですけど!」
「王様どう思うかな~。王妃様のお気に入りだしねぇ。モンフォール伯爵が呼び出されちゃうかな?」


 このヤロウ、なんてセコイ奴なんだ。
 そんなしょうもない理由で、モンフォール家に迷惑かけられるか、馬鹿野郎!


「ルーカス、無視してればいい。陛下は戯言に耳を貸すほど暇じゃない」
「あ、そっか」
「やだな~。僕が作らなければ、手に入らないんだから同じ事だよぉ」


 チョコ作ってんの、変態おまえかー!!
 まさか、こんな小学生がダダこねたみたいな理由で脅される日が来ようとはっ。
 人生って分からない。


「職場見学するんで、もう関わらないでもらえます?」
「ん~明日迎えに行くから、親睦を深めていこうね~」
「え、聞いてました? 関わらないでって言ったんですけど」
「じゃあねー。あ、副団長はお留守番ね。ルーカスくんだけの招待だから」
「あ゛あ?」


 え、本当にあっさり帰るじゃん。
 なんなんだよ、調子狂うなー。


「……ディオンは、帰らなくて大丈夫か?」
「そんなに早く帰って欲しいのか」


 おい、仕事中だろ。
 フィン兄に怒られるぞ。


「言い方に棘があるな。
とにかく、俺戻らなきゃ。サボりは良くないし」
「……今晩一緒に寝るぞ」
「はいはい。甘んじて抱き枕役を引き受けてやるよ」
「約束したからな」
「へーへー」


 ちょいちょい、構ってちゃんモード発動するけど、大丈夫なんだろうか。
 モンフォールの次男は情けないとか噂されてたら、どうしよう。
俺のせい?





ーーーー
ーーー

 
「ルゥ、この書類を経理に。これは、情報処理に持って行ってくれ」
「はい」
「終わったら、食堂の前で待ってなさい。遅くなったが、一緒に昼食をとろう」
「はいっ」
 


 メーシっ、飯、飯!
 腹減ってたんだよー。第1騎士団の食堂はどんな感じだろ。建物と一緒で、食事も豪華だったりして。
……そんなわけねーか。ちんたら、高級食材なんて食ってる暇ないよな。普通。

 まずは、経理だ。たしか、2階だったっけ。





「失礼します」
「あー、団長の! ご苦労様です」


 うわ、爽やかっ。
 書類に追われてるはずなのに、全然疲れが見えない。

 次、情報処理。



「失礼します」
「……え~っと、ルーカス殿。はい、確かにお預かりしました。あ、お茶飲みます?」
「いえ、大丈夫です」


 経理に比べて静かな雰囲気だが、それでも爽やかだ。
というか、余裕を感じる。


 やべぇ、第3騎士団みんなが可哀想に思えてきた。この違いは、何だ。
 1人1人のスペックの違いか、回ってくる仕事の違いか。
ーー謎だな。
 帰ったら、ディオンに聞こう。







しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...