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49、エルティーナの昨夜の夢について

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「……うぅ…ん…」

 エルティーナの甘い声でラズラは目を覚ました。ゆっくり頭を移動させ右隣に目をむける。穏やかな寝息をたてるエルティーナの柔らかい頬には、くっきりと涙の跡がみえる……。

「可愛い可愛いエルティーナ。貴女の魂は、何故そんなに綺麗なのかしら…」


 ラズラは今まで、そしてこれからも、心臓が動かなくなるその時まで、自分を偽って生きていく。
 ボルタージュの方達をスチラ国の全国民を……騙しながら生きていく。スチラ王族の血をひいていないラズラが女王になる。

 エルティーナと会って、懺悔みたいに話をした。
 話をしながら、私は自分の生い立ちを馬鹿馬鹿しく「嘘みたいな物語でしょ」と話した。そんな私に貴女は、笑う事もなく、泣くわけでもなく、あの時一番欲しかった言葉を私にくれた。

『ええ。凄い物語だわ。でも決して嘘じゃない。今も生きている本当の物語だわ』

 そうなの。この物語は遊びで造った物語ではない、私が生きてきた過去と生きていく未来の実話だから。目をそらさないでみてくれる貴女は私の心を軽くしてくれた。

 本当に嬉しかった。

「…エルティーナ。貴女に何かあったら、私は権力を使うから、スチラ国の全ての権力を使い貴女を助けてあげるわ。だから、幸せになってね、私の大切な二人目の友人」

 感動していたが、エルティーナの寝顔を見ていたら何やら思考が脱線してきた。

(「レオン様とアレン様がお好きなスチラの王女様とエルティーナの三人で話をしたら、盛り上がるだろうな~。
 でも…エルティーナはいいとして王女様には酷かな?? レオン様はイメージ通りだけど。アレン様はかなり過激で恐い人だから…ね。イメージがつぶれるから…嫌かな。
 レオン様の首を跡が残るほど絞めるだなんて…。見た目は高潔な神でも、中身は凶悪な猛獣よ」)

 アレンの姿を思い浮かべ、エルティーナの昔話に思いを馳せる。


(「アレン様が、十一年前にエルティーナに会っていたなんて…。
 八歳のエルティーナより弱い腕力って…。エルティーナが抱きしめれるくらい細い身体って…。
 今のお姿を知っているだけに、全く想像が出来ないわ。でも…エルティーナに再会するまでの四年間はアレン様にとって地獄だったはず。
 ほぼ身体が出来上がっている歳で、さらに病持ちのハンデから、今のあの肉体をつくるまで……どれほど、どれほど、過酷で辛い日々を過ごしたのだろうか……。本当に…強靭な精神力だわ。
 スチラ国に帰るまでに、ヘアージュエリーをエルティーナに教えてあげようかな。魂を縛る効力があるって言い伝えられているから、普通は怖くて造らないけど……。でも是非とも二人には縛られてほしいな。今世でダメでも来世には……ね。いつか……エルティーナとアレン様のお話を書きたいわね……。
 きっと…ボルタージュ王国に語り継がれる永遠の恋物語になると思うわ」)


 思案していたラズラに、起きたてのエルティーナは意識がふわふわになりながらも挨拶をしてきた。

「…ラズラ様…おはよう…ございます。…もう起きていたのですね」

「おはよう、エルティーナ。しばらく、貴女の寝顔を見ていたのよ。変な寝言をたくさん話していたわよ。驚いたわ」

「嘘!? 私、そんなに変な寝言を話してましたか!? どのような言葉ですか!? 教えてくださいませ!!」

 眠気ふっとぶ言動に挙動不審。エルティーナは寝言なんて言ってない…はず。ラズラの嘘である…と願いたい。

 真っ赤な顔をして、瞳を潤ませながら必死に話す姿が面白くて。ラズラはまたエルティーナを揶揄う。止めてくれるグリケットがいない為、ラズラの独壇場となってしまう。

 純粋なエルティーナを揶揄うのは、申し訳ないが楽しくて仕方がないのだ。ラズラはわざとらしく、布団を持ち上げて顔を半分隠す。目線をエルティーナからはずし、恥じらってみる。

「言えないわ。だって恥ずかしいもの。エルティーナの見てる夢って、とても恥ずかしいわ」

「違います! 違いますわ!! いつもはあんな夢、見ないわ!! 寝る前に、たくさんアレンとの昔話をしたから、みただけ。
 だからいつもじゃないです!!」

 全身を赤く染め上げ、必死に弁解するエルティーナに、ラズラはぽかーんと口を開く。

(「ち、ちょっと。どんな、夢をみてたのよ………。エルティーナって見かけによらずエッチなのね……。新たな一面発見だわ」)

 エルティーナはまだ必死に弁解している。


「ラズラ様! 忘れて、忘れてください!! だって。だって。あれは違うんです! 変態みたいですけど、願望とかではなくて。
 ただ、今だったら……って思ってしまって。本当にいつもじゃないんです!!」

(「あれは違う? 変態? 願望? 今だったら? この言葉たち。そして昨日の話から推測すると……うむ………」)

「あぁ、なるほど。昔、アレン様を押し倒して襲った事を、今の姿の貴女達で妄想したわけね。なかなかやるわね」

「あっ……倒れた」

 エルティーナは茹ってしまい失神した…。

「…今…起きたとこなのに。純真無垢な子ほど、エッチなのかしら……」

 ラズラはベッドに再度倒れたエルティーナをしげしげ見つめ、着替えを頼むため、エルティーナ付きの侍女をベルで呼んだ。

 顔を赤くして寝ている(失神している)エルティーナをナシル以下侍女達が胡乱な目でみている。ラズラはひたすら知らないフリをする。流石に内容は話せないからだ……。

 二人して、身支度が終わる頃、エルティーナはラズラに可愛く頬を膨らませて抗議をした。

「ラズラ様は、意地悪だわ!」

「何を言うのよ。私は夢の内容までは問うてないわ。エルティーナが勝手に話したのよ」

 涙目のエルティーナに、ラズラは微笑む。

「意地悪したくなるのよ、エルティーナは。反応が可愛くて。意地悪をするのは、大好きだからよ。一国の主になる私が、心を開いて話せる人なんて、エルティーナくらいなの。私の二人目の大切な友人だわ」

「……二人目?」

「一人目は、私の最初の読者よ」

「……っ……ラズラ様、私で良ければ、意地悪してください!! これでも私、打たれ強いんです!! じゃん、じゃん、どうぞです!!」

「あははははは、ありがとう!! 大好きよエルティーナ」

「私も、ラズラ様が大好きです!!!」

 二人で告白をしていると、ナシルが二人の間にすっと入ってくる。

「支度は終わりました。グリケット様、アレン様がお待ちです」

「「今、まいります」」

 エルティーナの声とラズラの声が綺麗にかぶる。二人は見つめ合い、小さく吹き出す。ナシルが二人に「行儀が悪いですよ」と注意をする。心地よい空気が部屋を満たしていく。…幸せな朝だった。




「お待たせ、アレン!」

「お待たせ致しました、グリケット様」

「おはようございます。エルティーナ様」

「おはよう、ラズ」

 四人は、朝食を取るためグラハの間に歩いて行く。


「ラズ。楽しかったかい? エルティーナを泣かせたりしてないかい?」

「もちろんですわ。一緒に手をつないで寝ました。子供みたいですけど、嬉しかったわ。人の体温は、私にとってとても安心します」

「そうか。では、これからは私が手をつないであげるよ、ラズ」

 グリケットのいきなりの甘い言葉にラズは面食らう。その後「ありがとうございます」と笑う。

 エルティーナはラズラの顔を今とても、綺麗だと思った。何故だかわからないが嬉しくてたまらなかった。
 そんな嬉しそうなエルティーナをみて、アレンは優しく艶やかに微笑む。


「エルティーナ様も、楽しかったようで良かったですね」

「えっ! …あっ……楽しかったわ、もちろん!!」

 たどたどしく答えるエルティーナに、アレンは疑問を感じ、そして先ほどからあまり瞳を合わせてくれない事に不安を感じる。

「……エルティーナ様?」

「な、何かしら」

「…何故…先ほどから目線をはずすのですか? 何か、私に……不満がおありですか?」


(「はぁぁぁぁ~。エルティーナの馬鹿。こういう所が子供なのよね……。さっきの夢が恥ずかしいのだろうけど。貴女の恥ずかしい心内なんて、カスよカス。アレン様があまりにも可哀想でしょう。
 エルティーナ、ごめんなさいね。私はアレン様の味方なのよ。こればっかりは、スルー出来ません。先に謝ります。ごめんね。バラします」)


「もう、エルティーナったら。昨夜に見た夢が恥ずかしいからって、そんな態度は駄目よ」

「っラズラ様!! な、何を言うんですかっ!!」

 エルティーナはラズラがまだ、何も言ってないのに真っ赤である。

(「可哀想だけど、私は今だけ悪魔になるわ!ごめんなさいね。エルティーナ!!」)心の中でもう一度謝まる。


「…夢? …ですか?」

 アレンの疑問の声を聞いて、ラズラは口にする。悪いと思いながらも、実はエルティーナの反応よりもアレン様の反応が見たい!! と邪道な事を考えていた。

「そうなんです。エルティーナったら、アレン様とエッチな事をしている夢を見たんですって! それで、アレン様の顔を見るのが恥ずかしいのよね?」

「っラズラ様ぁーーー!!!」

 エルティーナは叫びながら、ラズラの口を塞ぐ。そして、訳のわからないことを叫んでいる。

(「嫌…塞いでも全て話した後だけど。やっぱり、エルティーナは馬鹿ね。まぁそこが可愛いんだけど」)

 ラズラの口を塞いで、涙声で必死に叫んでいるエルティーナにはアレンは見えていない。

(「うおぉぉぁぁ~ 照れてるわ~ 嬉しそう~ 赤くなってる~。硬質系美貌のアレン様でも照れるのね。肌の色が白い分、目立つわね。きゃ!!
 いやぁ~ いい事したわ。顔が緩むわ。エルティーナには悪いけど癖になりそう。本当にアレン様が嬉しそうだから。
 …しかし…エルティーナは煩いわね。もう、これくらいはアレン様にサービスしてあげてよ。あんなに、嬉しそうな顔してるんだから見たらいいのに。まぁ 見れないか…。私に向かって叫んでいるものね…」)


「………えっ……(…今、なんて)…」

 アレンは、ラズラが発した言葉を反芻する。口が緩むのを隠す為に手のひらで口もとを隠す。
 喚いているエルティーナを見て、ラズラが冗談を言ったわけではないのが分かり、顔が熱くなる。エルティーナを見てられなくて、視線を外した。

(「やばい。これは嬉しすぎる。本当に嬉しいな。少しは異性として意識をしてくれているのか……? あぁ、エル様の反応が可愛らしすぎる」)


 グリケットは今の状況に唖然としていた。見たこともない、アレンの照れまくっている表情と態度にまず驚き、ラズラになにか叫んでいるエルティーナの夢の内容に驚愕する。

 エルティーナは、アレンの事を甘やかす父や兄のようにしか思っていないのだと感じていた。エルティーナの態度は、ずっと妹みたいだったからだ。アレンの事を異性として、男性として、見ていたとは信じられない。

 今までの態度は全て、演技だったのか!?純真無垢だと、思っていた姪はなかなかの狸だった……。
 まだ何か叫んでいるエルティーナを茫然と眺める事しかできなかった、あまりにも衝撃的すぎて……。



「……エルティーナ様」

 アレンの呼びかけにエルティーナは叫ぶのを止める。しかしラズラにしがみついていて、アレンの方を見ないし、返事もしない。

 アレンは、エルティーナとラズラのすぐ横まで歩いていく。
 革グローブに被われた大きな手をエルティーナの頬に添える……。そして男の色気がたっぷり入った声色で、エルティーナの瞳を見つめながらゆっくりと話し出す。

「……夢にまで、見て頂けるなんて光栄です…エルティーナ様に、早くお会いしたいな。という私の気持ちが見せた夢です……きっと。
 …ご迷惑をおかけ致しまして、申し訳ございません」

 アレンの甘く蠱惑的な声に、ラズラ、エルティーナ共に腰が抜けた。

 グリケットは、ラズラを抱え、アレンは、エルティーナを抱える。魂が抜けている、エルティーナを柔らかく腕の中に拘束する。

「エルティーナ様、このまま抱いていきますね。早くグラハの間に行きましょう」

 まだ続くアレンの甘い蠱惑的な声に、一言も発せないエルティーナ。
 アレンのいつもより強く感じる甘い香りを身体に感じ軽く昇天していた。


「ラズ、君は本当に色々やらかすね」

「グリケット様、私、腰が抜ける経験は初めてですわ! アレン様の声はやばいですわ!」

「……ラズ……」
「…ごめんなさい。重くないですか?」
「重くないよ。見てはいけないものを見た気分だよ。本当に。はぁ~ 知りたくなかったよ……」
「グリケット様。純真無垢の子ほどエッチなんですよ!!」

「知りたくないよ。そんなこと……」

 可愛い姪の女の部分を知って落ち込んでいるグリケットに、ラズラは腰が抜けて抱き上げられている状況を思いきり楽しんでいた。



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