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17、夢が現実

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「ダリア、気をしっかりもって、大丈夫よ。叫んでごめんなさい。大丈夫だから」


 何が大丈夫なのか?どう考えてもダリアが引き起こした顛末。
 駆け込んできたミミルがいち早く気づく。


「結界!? うわっ、それも超強力な結界じゃない!? ダリアが作ったの!?」

「ごめんなさい。私、夢だって、思って、夢だって。寝る前に会いたいと思いましたけど、まさか、それだけで、違うの、違う」


 ダリアのまわりには、元は涙だった宝石が転がり増え続けていく。


「えっ、まさか、人一人呼び寄せたって事?」


 フェア王国は性行為をどこでしてもいい(人様の迷惑にかからないのであれば)と容認している。これは子孫を残す為であり、互いが求め合うから成り立つ。

 間違っても知らない人を連れ込んで、性行為をしてはならない。その考えは根底にしっかりある。

 ダリアは勝手にフェリックスを連れてきた。フェリックスの了承は勿論とってない。

 騒ぎを聞きつけてエティエンヌフューベルが入ってきた事で、ダリアの不安定な精神状態が、一気に崩れ落ちる。


「ダリア、呼んだのはフェリックスだな。確認をとってくる」

「イヤァァァ、待って、お父様、行かないでください!!」


 ダリアは力が入らない足を必死に動かし、エティエンヌフューベルにすがり付く。

 溢れる涙は床を宝石で埋め尽くす。


 確認されたら終わりだ。もう一生フェリックス様と会えなくなる。これは妖精族が一番嫌悪する陵辱と変わらない。


(いや、いや、いや、会えなくなるなんて、いや)



 美しい見目をもつ妖精族はたびたび襲われそうになる。恐怖になればいくら魔力があっても抵抗できない。抵抗しない相手に性行為を強要するのは、死をもって償うべきだと。

 ダリアはフェリックスを同意なく連れてきた。

 でも知らなかった。無意識のうちに結界を張ってフェリックスを転移させたなんて、ダリアでも信じられない。

 今、やれと言われても出来ないからだ。


「ごめんなさい、お父様ぁ、ごめんなさい」

「ダリア?」

 溢れでる涙に視界が奪われていく。ダリアの瞳からは止めどなくぼたぼたと涙が溢れ、凄い量の宝石となって床を転がっていく。


「行かないで!! お父様ごめんなさい、ごめんなさい。謝るから、なんでも言う事聞くから、言わないで!!
 フェリックス様に言わないで、嫌われるわ!!軽蔑されるわ!!」


 泣き喚く娘に驚愕のエティエンヌフューベルは、オロオロしだす。全く責めているわけでもなく、本当にただの確認のつもりだが、ダリアは違う。

 エティエンヌフューベルの足にすがり付きながら、泣き喚く。


「ダリアっ、違う、確認を」


「お父様、許してください!! 確認はいや、嫌われるわ、嫌われたら、私は生きていけない!!
 許してください、許してください、静かにするから、沢山罰も受けるから、絶対に嫌、嫌、フェリックス様に言わないでください!!!
 フェリックス様に嫌われたら、生きていけない、イヤァァァァァぁぁぁーーーー!!!」



 普段クールな娘のとち狂った謝罪にエティエンヌフューベルは、信じられない気持ちになっていた。


「ミミル、一度沈める」

「了解、パパ」


「イヤァァァァァぁぁ、お願い、お父様、行かないで、行かないでください、嫌われる、軽蔑される、いや、ごめんなさい、ごめんなさい、
 お願いします、お願いします、フェリックス様に言わないでぇぇぇぇー!!!」

 地震だ。床の揺れが始まったところで、間一髪。


 プスッ!! 

 ミミルは魔力で練った針をダリアの首にぶっ刺した。泣き喚くダリアはクテンと静かになった。


「地震こわっ」ミミルはブルッと震えた。

 ミミルは倒れたダリアをエティエンヌフューベルに渡す。危なげなく抱えて、ベッドの上に乗せ寝かす。


「パパ、見てこれ。凄い量の宝石」

「こらは…ちょっと異常だな」

「ダリアって静かな子だと思っていたけど、かなり情熱的なタイプだったのね。色々びっくりだわ。まだ続く異世界は非常識」


 凛音はダリアの涙に濡れた顔を拭いて、服を着せていた。


「凛音、情熱的ですますか」

「あら、エティエンヌフューベル様だって地震を引き起こしたわよ。その後も耐久レースみたいな性行為だったし。ダリアはエティエンヌフューベル様にそっくりよ」

「私はここまで酷くない」

「そうかしら…」


 凛音はジトーと言いたげな視線をエティエンヌフューベルに投げる。


「ダリアは任す」

「パパ!! シェルバー王国には私が行くからね。また地震起こされちゃ困るし。
 将来有望な人材を引き抜く予定だから、王にも挨拶行っとく。パパが関わるのはあまりだから、ここは妖精族じゃない私が行ってくるわ!!」


 任しときな!という頼れるミミルに、エティエンヌフューベルも凛音も笑い合う。
 外ではエルヴィンも心配そうだが、妹だとしても寝室に足を踏み入れるのは躊躇するのだ。


「ほら、エルヴィンも行くぞ。ダリアの精神状態が落ちついてから話をしてもらう」

「父さん……僕のせいでも、あるかも…」

「ほら、いくぞ」


 エティエンヌフューベルはエルヴィンを連れて、部屋を出ていった。

 眠るダリアの姿は普通に無表情だ。

「ねぇママ。これ付けたのフェリックスだよね?」



 胸に散らばるキスマークの痕。異常だ異常。もの凄い執着心をバシバシ感じる。


「…そうだと思うわ」

「嫌われるから、軽蔑されるから、ってダリアは泣き喚いたけど、お互い様じゃないかな? あっちもたいがい本気よね、これ」


 ミミルはダリアの豊満な胸を指で突きながら、凛音に意見を求める。


「フェリックスくんは、当たりだと思う。まさかねって思う事は、あるから」

「両想いなのに、面倒臭い子達だわ」

「貴女もよ、ミミル」



 凛音はミミルの鼻をギュゥゥと摘む。摘まれた鼻をぷいと鳴らす。


「エルヴィンを嫌いになった?」

「好きだもん、大好きだもん。美味しいもん」

「なら謝りなさい。ミミルが思ってるほど好かれているとはエルヴィンは思ってないの。そういう子だと理解してるはずよ?」

「…分かってるもん」

「仲直りしなさいね。エルヴィンはミミルだけ。エティエンヌフューベル様には私だけ。こんな愛されて不満?」

 恥ずかしいのを誤魔化すために、眠るダリアを抱きしめる。


「不満じゃないわ。幸せ過ぎて恐いくらい」

「そうね、私も幸せ過ぎて恐いかな」


 凛音はミミルとダリアを上から優しく抱きしめた。


「ねえ、ママ。一番情熱的なのは、やっぱりダリアよね!!」

「そうね、ダークホースよ」

「ダークホース? またママの意味不明語彙きた」


 室内は異世界人、狼獣人、妖精族と全く違う種族で家族の笑い声が聞こえていた。




 ***


「フェリックス!! フェリックス!! いないの!?」

 呼ばれて目が覚める。

「フェリックス! ご飯よ!!」


 階段の下から声を張り上げているのだろう。獣人は声がでかい。
 それに輪をかけて狼獣人は声が太く響くのだ。心地よい眠りから強制的に叩き起こされたようで、憂鬱になる。


「いるよ!!」

 身体は寝たままだが、返事をしなければ母の呼ぶ声はやまない。


「もう、いるなら返事をしなさいよ…、ぶつぶつ」

 文句までは聞こえない。リビングに戻ったのだろう。



(母さんはなぜいつも声が大きいんだ、全く)


 身体を起こすと、自分の姿に凍りつく。トラウザーズは全開まで広げられており、インナーサポーターパンツからは見事に隠すべき部位が全部出ている。

 自分で自慰をする時でも、こんなにトラウザーズ全開にはしない。ましてや服をしっかり着用したまま、大事な場所は全て出して寝るなどと緊張感のかけらもない。

 プラス、あの夢。


「やばい、夢で自慰するとか、勘弁してくれ」

 顔を覆い溜め息が溢れる。己の戒めのように自慰をやめていたのに、まさかあんなイタイ願望が入りまくった夢を見て、無意識のうちに自慰をするなんて人として羞恥しかない。


「股間丸出しで、寝ながら自慰してる姿は千年の恋も覚めるな…」


 何か拭くものをと探そうとし、ふと気づく。いやに股間が綺麗だ。トラウザーズは湿っているが、飛び散った精液の残骸もなく。股間周りはベタつき感もなくスッキリとしている。

(自慰はしたが、射精まではしてないのか? 夢ではダリアに咥えてもら……)

「やめろ、やめろ、思い出すな俺!」


 最高にいい夢だが、夢だから楽しいのだ。夢から覚めた時の辛さは計り知れない。

 フェリックスは痛む頭を叩きながら、仕事着の上着、トラウザーズとインナーサポーターパンツを脱ぎ、上下家着のラフなタイプに着替え直す。


 そこでまた面倒に巻き込まれるとは思いもしなかった。



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