上 下
3 / 26

2、二年ぶりの再会

しおりを挟む

 
 シェルバー王国の街スータに到着し、だだっ広く広がる大草原を抜け、どこまでも続く舗装も何もされていない土の道。

 一応、母の護衛も兼ねているダリアは、かなり至近距離で歩く。



「……ダリア、あのね、近いわ」

「お母様を守る為にはこれくらいがベストです。お父様ならもっと近いですわ」

「エティエンヌフューベル様と一緒にしなくていいわよ」


 何故かダリアから離れたがる母にピタリとくっつき、少しの会話をしながら歩けばすぐに目的地へ着いた。

 どこにでもある普通の一軒家。されどダリアからすれば、もう飛び上がりたいほどの素敵が詰まった家だ。

 カラン カラン。と呼び鈴を鳴らせば、すぐに扉が開く。



「待っていたわ!!!」

「ルル!!!」


 硬く抱き合う凛音とルルを微笑ましく見る男性はハクリだ。元プレイボーイらしい柔和で優しい雰囲気のハクリは、ダリアの尊敬するフェリックスを彷彿とさせ、ウットリ見てしまう。

 何度もいうが。ダリアはウットリ見ているつもりであっても、ハクリには無表情で見つめらているとしか見えない。

 ダリアの表情筋は何故か死んでいるので、楽しいが皆に伝わらない。しかしフェリックスは稀代の色男だからこそ、ダリアの感情を汲んでくれる。

 ソワソワしながら部屋の中をチラチラ見るが、フェリックスはいないようだ。



(今日も、フェリックス様は不在なのね…もうニ年もお会いしてないわ…。避けられている?いえ、避けられるほど交流もないし…)


 寂しくて胸が痛いが、それも顔には出ない為、ダリアの気持ちはいつもスルーされる。


「久しぶり、凛音」

「ハクリさん、お久しぶりです!」

「流石というか、凛音は全く歳をとらないね。あれから26年もたつのに、まるであの時のままだ。いや若干若返ってるよね?」

「私はもう妖精族みたいなものですから。だってこんな大きな子供がいるのよ?」

「凛音は凄いわよ、だって妖精族は一人っ子が多いのに、4人産んだのでしょう? ちょっと色々、恐いわ」

「やだ、4人くらいっ!! 出来るならまだ欲しいわよ」

 ふん!!と鼻息荒く答えた母にハクリ様とルル様は、きっと、いえドン引きしている。


「………そ、頑張ってね」とハクリが。

「………うん、過去の記録を塗り替えたらいいわよ、凛音」とルルが。


 そう、下2人は少し歳が離れているから、ダリアとそこまで関わりがない。無表情が怖いのかあまり、近づいてこないのだ。
 抱き上げようとしたら、ギャン泣きされた。


(羽根を毟ったりは、お父様にしかしないのに。失礼しちゃうわ)

 ルル様が作られたという大変美味しいケーキと紅茶を頂き、会話は盛り上がる。

 口数少ないダリアはいつも、モクモクと食べ、スゥと紅茶を嗜む。


「……美味しいかしら?」


 会話に一切入らないダリアを気にかけてくれるルル様。流石フェリックス様の母君、素晴らしく素敵です。

 沢山の賛辞を脳内で贈るも、凛音、ルル、ハクリには、無表情で隙無く機械人形のようにダリアは見える。
 静かに食べるダリアは、うるさい自分達に機嫌を悪くしているのでは?と思っているのだ。



「とても美味しいです」

 話が終了した。

「…ダリア、帰ろうか?」

「まだ大丈夫ですよ。お父様はしばらく、のたうち回っている事です。迎えはまだまだ先になります」

「…妖精王が、のたうち回って、えっ?」


 ハクリが先を聞きたくないような、それでも聞きたいような、不思議な表情を浮かべ訪ねてくる。


「はい、なかなか、なかなか、いつまでたってもお母様と離れないので、ルル様、ハクリ様をお待たせするのは失礼かと思い。
 お父様の玉袋を潰れない程度に握りしめてきました。しばらく激痛で歩けないと思いますから、迎えはまだ先ですわ」


 シーーーーン。静まりかえる室内と、ハクリにいたっては軽く股間をガードしている。

 皆が硬直してもダリアの心は、たった一つを求める。

(まだ、待ちたい!!今日こそは一目だけでも、フェリックス様にお会いしたい!!!)

 エティエンヌフューベルにはいい迷惑だ。


 無表情で座るダリアにも話をふるが、基本的に無表情の為話が終わる。でもやはり久しぶりに会うと話が盛り上がる盛り上がる。

 あたりが暗くなっても、まだ四人(実際は三人しか話していない)は懐かしい会話から最新情報まで、熱く語り合っていた。



 ***


 夜道を歩きながら、舌打ちが出る。


「臭っ、なんだあの香水。犬族の癖してよくあんな臭い香水をつけるな。最悪…」


 フェリックスは自身にまとわりついた香水の香りに、苛立ちを感じていた。
 今日は早く家には帰れない。次に彼女…いや女でも男でもないが、見た目は女性にしか見えない為、女性だ。

 その彼女に会えば自分はどうなるか分からない。

 誰でもいいと誘ったのが悪かった。皆が国一番の美人だというから会った。まぁまぁ良い体だから一晩相手をするつもりだったが、一晩は無理だった。

 相手が満足だと思ったくらいで、早々に離れた。


「何が美人だ、何が良い体だ、あの程度で偉そうに。美人と名乗るならダリアくらい、」

 思わず無意識で比べて撃沈する。


「…馬鹿か俺は、ダリアは特別だ。美しいに決まっている」

 今日は凛音様が来る日だ。その日はいつもダリアも一緒だ。絶対に会ってはいけない。手の届かない妖精族に恋をするのは毛の生え揃わないガキであるし、イタイ妄想だ。


 カラン カラン。

「ただいま。帰っ、…」

 香水の香りに鼻がやられて気づかなかった。一気に体温が上がる。
 こちらを静かに見る絶世の美女に、魂を引き抜かれた。


「あら、おかえりなさい。今日は遅かったのね。フェリックス、匂い凄いわよ…、全くいつも女の子を取っ替え引っ換え、誰に似たんだか」

 フェリックスに嫌味を放ちながら、キッ!!とハクリを睨む。


「えっ、とルル。今は僕、関係ないよね?」

「フェリックスくん、おかえりなさい」


 凛音はハクリとルルの夫婦喧嘩勃発するのを防ぐ為に、わざと明るく会話に乱入した。

 そして、ダリアはというと、心は喜びに踊り狂っていた。


(カッコいいです!素敵です!フェリックス様、最高です!!)



 フェリックスは父ハクリと同じく王宮騎士。シェルバー王国騎士団の制服が大変似合っている。

 フェリックスのシルバーに輝く肩まである髪に、とろりとした濃い金色の瞳をより美しくみせる黒を基調とした服。
 金の刺繍や金のカフス、帯剣しているサーベルの鞘も彼の魅力を最大限に引き出していた。

 ダリアは大興奮だが、皆から見れば相変わらずの無表情だったが…。

 それでも行動と会話をしてみるのは、大変な進歩だろう。ダリアはさっさと椅子から立ち上がり尊敬するフェリックスに挨拶をするのだ。


「フェリックス様、おかえりなさいませ。お久しぶりですね。今日は大変美味しいケーキと紅茶を頂きました」


 振り返るだけでダリアの巨乳はたふんたふんと、揺れる。二年ぶり…なのだが、これは強烈。色気が凄い、ここまでくると目の保養を通り越して目の毒だ。

 妖精族の二年はここまで変わるのか!?フェリックスはわざわざ抱きたくもない女を抱いて遊び、時間を潰した自分が馬鹿馬鹿しく思えてならない。

(惚れない訳ないか、これじゃぁ、仕方ない)一生分の目の保養をさせて貰えたと思ったらいいと、開き直った。


「凛音様、ダリア、お久しぶりです。香水の匂いは、申し訳ないです。俺も自分が臭いですから、すぐに落としてまいります、失礼致しますね」


 フェリックスは柔らかく微笑んだ後、シャワーを浴びに奥の部屋に入っていく。

 もちろん戻る気はない。シャワーが終わればそのまま二階の自室に上がるつもりだった。





 シャワー室でフェリックスは脱力感に襲われていた。


「はぁぁぁ、まじでアレ何?」

 ボソッと出る言葉に、意味のない苛立ちを感じる。


(タイプとかない。男でダリアに見惚れない奴は玉無しだな。
 しばらく自慰には困らないよ。けしからん程デカいし、柔らかそうな胸…俺のデカさでも挟めそうだった……。
 でも、ダリアは男になりたいんだったな。男かぁ…勿体無い…男になるんだよなぁ…ぁぁ、勿体無い…)


「ぁ、勃った…」


 フェリックスは悪いと思いながらも、ダリアの鈴の鳴るような声に、真っ白な肌、そして手から溢れそうなタワワな胸部を思い出して、イキリ勃った男根を握りしめ上下にストロークさせ、射精を促す。


「はっ、はっ、はっ、…………ンッ………」

 ビュクッビュクッビュクッ……ビジュ…ビュクッ


「…絶対にさっきより出たな」

 煩くて臭い香水女を忘れ、絶世の美女をオカズに出来てスッキリしたフェリックスは、適当に下半身だけタオルで拭き、上半身は裸体のままトラウザーズだけ履いて風呂場を出た。

 扉を開けて硬直する。



「…ダリア?」

 先程までオカズにした、絶世の美女が立っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】触手に犯された少年聖女を見て興奮した俺はヒトとして獣人として最低です

アマンダ
恋愛
獣人騎士のアルは、護衛対象である少年と共に、ダンジョンでエロモンスターに捕まってしまう。ヌルヌルの触手が与える快楽から逃れようと顔を上げると、顔を赤らめ恥じらう少年の痴態が――――。 連載中の『世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜』のR18ver.となります。おなじく『男のフリした聖女は触手にアンアン喘がされ、ついでに想い人の獣人騎士も後ろでアンアンしています。』の続編・ヒーロー視点となっています。 本編は読まなくてもわかるようになってますがヒロイン視点を先に読んでから、お読みいただくのが作者のおすすめです! ヒーロー本人はBLだと思ってますが、残念、BLではありません。

社畜魔法使いは獣人彼氏に甘やかされる

山吹花月
恋愛
仕事の後は獣人彼氏といちゃ甘スキンシップ。 我慢できなくなった獣人彼氏にとろとろに甘やかされる。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

獣人彼氏とまどろむ朝にらぶえっち

山吹花月
恋愛
猫獣人の彼といちゃ甘寝起き朝えっち。 ふさふさ猫耳、尻尾、喉ごろごろ。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません

冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件 異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。 ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。 「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」 でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。 それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか! ―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】 そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。 ●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。 ●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。 ●11/12番外編もすべて完結しました! ●ノーチェブックス様より書籍化します!

絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい

なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。 ※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

【本編完結/R18】獣騎士様!私を食べてくださいっ!

天羽
恋愛
閲覧ありがとうございます。 天羽(ソラハネ)です。宜しくお願い致します。 【本編20話完結】 獣騎士団団長(狼獣人)×赤い瞳を持つ娘(人間) 「おおかみさんはあたしをたべるの?」 赤い瞳は魔女の瞳。 その噂のせいで、物心つく前から孤児院で生活する少女……レイラはいつも1人ぼっちだった。 そんなレイラに手を差し伸べてくれたたった1人の存在は……狼獣人で王国獣騎士団のグラン・ジークスだった。 ーー年月が経ち成長したレイラはいつの間にかグランに特別な感情を抱いていた。 「いつになったら私を食べてくれるの?」 直球に思いを伝えてもはぐらかされる毎日……それなのに変わらずグランは優しくレイラを甘やかし、恋心は大きく募っていくばかりーーー。 そんなある日、グランに関する噂を耳にしてーーー。 レイラ(18歳) ・ルビー色の瞳、白い肌 ・胸まである長いブラウンの髪 ・身長は小さく華奢だが、大きめな胸 ・グランが大好きで(性的に)食べて欲しいと思っている グラン・ジークス(35歳) ・狼獣人(獣耳と尻尾が特徴) ・ダークグレーの髪と瞳、屈強な体躯 ・獣騎士団団長 剣術と体術で右に出る者はいない ・強面で冷たい口調だがレイラには優しい ・レイラを溺愛し、自覚は無いがかなりの過保護 ※R18作品です ※2月22日22:00 更新20話で完結致しました。 ※その後のお話を不定期で更新致します。是非お気に入り登録お願い致します! ▷▶▷誤字脱字ありましたら教えて頂けますと幸いです。 ▷▶▷話の流れや登場人物の行動に対しての批判的なコメントはお控え下さい。(かなり落ち込むので……)

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

処理中です...