狼獣人の彼を落とすまで

うさぎくま

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1、妖精王の子

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 はじめまして、私は妖精族の王、エティエンヌフューベルの三番目の子供、現在はまだ両性具有のダリアと申します。年齢は17歳。少し皆様と違う私です。



 妖精は両性具有で生まれ落ちます。両性具有の間は大人になっても全長三十センチほどで、九等身から十等身ほどのプロポーション。

 美しい肢体と容姿の人達がほぼ。生涯唯一の伴侶を見つけ、その方と体液の交換をした後に、性別が確定し身体が作り変わります。

 妖精同士ならばどちらかが女性になり、どちらかが男性となる。そして当然身長はどちらも30センチほど。
 妖精族の男女共に好む服は、白くたっぷりとしたシルクやサテン生地のワンピースをウエストで縛る形ですので、並ぶと大変可愛らしい女性二人にしか見えません。

 妖精族と他種族ならば、他種族に合わせて身体は変化する。妖精は女性体をとるのが当然だと思う節があり、他種族を伴侶に選ぶ場合は男性ばかり。

 なので、妖精族にはこの世界基準の男性骨格を持つ男は長い歴史がある妖精族で一人もいませんでした。


 それを覆したのが私ダリアの父である、妖精王エティエンヌフューベルです。


 異世界人の母 凛音は女性だった。なので自ずと妖精族でありながら男を選びました。
 妖精族初のこの世界基準の身長を持つ男性となった父エティエンヌフューベルは…話が長くなるから、それはまた別の機会に…。色々あるので、また聞いてください。

 その二人の子供として生まれたのが、私、ダリア。

 妖精族の平均身長は30センチだが、母が他種族だから? 異世界人だから? 私は両性具有の身であるが、一般的な大きさで生まれ、現在170センチという長身美女(股間さえみなければ女に見える)となっておりました。



「ダリア!! 今からルルさんに会いにいくのだけど、一緒に行くかしら?」

 ルルさん(狼種)はお母様の親友。その旦那様はハクリさん(チワワ種)
 お父様とお母様の離れ離れ大事件に巻き込まれ、死ぬ思いまでされたお二人。早い話が命の恩人なのです。


「行くわ。もちろん行くわ。今すぐ?」

「そうよ、忙しいなら無理しないで」

「お母様、行くわ」


 無表情で迫ってくる私に、母は仰け反っている。お母様からのお声がけをどれほど待ちわびたか!! 久しぶりに会える。久しぶりに会える……気がする…いえ、会えるはず!!

 まだ生まれたての赤ん坊の頃から、私は彼に重度な尊敬の念を抱いている。

(いつか、一緒に戦ってみたい!! いつか一緒にお酒などを呑み交わしたい!!)


 ダリアは恋をまだ知らない。肉欲も知らずあまりにもはやく訪れた初恋を尊敬とはき違えたまま、時はたってゆく。

 17歳になって、誰もが振り返る美貌をもってしても、ダリアの心は少年のように純粋だった。

 ダリアが会いたいと、強く強く願う相手。そう実は彼こそがダリアの生涯唯一の伴侶だった。
 ハクリとルルの息子であるフェリックスは当然知りもしない真実。





「一緒に行けないなんておかしい。片時も離したくない」

「もう、私はすでにエティエンヌフューベル様色に染まっています。引き離されはしません」

「シェルバー王国は凛音が好きな犬族が沢山いるから心配だ」

「私が愛しているのは貴方だけ、私の身も心もエティエンヌフューベル様だけです」


 硬く抱き合う両親。どこ行くでもこれをする。

 ミミルお姉様が魔法陣を作り、それを使うと目的地に向かえる。魔力無しのお母様でもどこでも行ける。
 一瞬で行け、一瞬で帰ってこれる。なのに、毎回これを繰り広げる両親。

(全く、早くフェリックス様に会いたいのに!! 今日は剣の扱いを教えてもらいたい!! 希望、あくまでも希望。叶ったことないけど…希望です)




 私の家族はとても仲が良い。

 父と母はいつまでたっても恋人同士。その母は遠い国(異世界)から落ちてきた《落ち人》だった。妖精族は運命のたった一人の伴侶を探し、生涯唯一の相手と結ばれる。

 長く伴侶と会えなかった父がやっと出会えた唯一の母は、何者にも変えれない宝物だった。

 二人を見て、羨ましいと思った。妖精族特有の純白の羽根は私にはないが、魔力は桁外れ。

 妖精王である父エティエンヌフューベルと同等の魔力を保持して生まれ落ちた。ちなみに、見目も父譲り。綺麗な黒髪は母譲りだったが、薄紫色の瞳や顔のパーツは全て父似。

 お父様とお母様の二番目の子(凛音が産んだ最初の子だが、ミミルが長女の為、皆の認識は二番目となる)は最近性別が確定し《兄》になった。
 父についで妖精族二人目の男。父とはまた違う美しい男。そしてまさかの相手は、私達の一番上のミミルお姉様である。

 まさかの組み合わせでびっくりだけど、ミミルお姉様は狼種、私の尊敬しやまない人も狼種。
 性別が確定した時には、惜しみない拍手を無表情のまま送った。


 お母様が産んだ子供達は皆お父様似。「エティエンヌフューベル様に似て良かった」と言う母に。「いえ母の方が親しみある美人で私は好きです」と私は何度も言うが、その度に嫌そうな顔をされる。

 何故だろう、褒めているのに…。私はいつも不思議に思う。

 やっと離れた両親を眺めて、私はこぼれそうなほど、タワワに実った胸の上に手を置き、フェリックス様に想いを馳せる。


「では行ってきます…ンッ……」


 また口づけだ。いったい、いつ出発するのかイライラする。だから急所でもある父の玉袋を潰れない程度に握ってやった。

「お父様はお仕事ですよ。お母様、ハクリ様とルル様(上手くいけばフェリックス様がいらっしゃるかも!!)がまってます。はやく行きましょう」

 股間を押さえて蹲る父を無視し、母をお姫様抱っこしながら魔法陣へ走る。


「ちょっとぉーダリア!!!」

「潰しはしておりません。しばらくは歩けない程度です」

「そういう事じゃないの!!もぅー…」

 ダリアは早くフェリックスに会いたかった。



 魔法陣はシェルバー王国の街スータに繋がっている。街の中央部にはデッカイ魔法陣があり、主に凛音とその家族専用となっていた。

 この世界は、種族で分かれ統治されていた。種族の数は大きく157に分けられ、同時に157の王が存在する。

 王は世襲制ではなく力が全ての原始的な決め方であった。しかしその157の国に人間という種族は存在しない。

 二足歩行する人に似た何かだ。

 妖精族は変化をしないが、獣人は三変化ができる。

【人型】言葉のとおり人の姿、種族は匂いで分かるくらいで見た目では判断つかない。
【獣人型二足歩行】獣姿が立ち上がって二足歩行している姿、長期戦で戦ったり、警備などに最適。
【獣化型】まんま獣姿、本来の種族の原点の姿。魔力によって獣の大きさがかなり変わる。一番殺傷能力が高くなり、魔力量が目で見て分かる。


 この世界で〝特別〟の妖精族は、寿命が恐ろしく長い。よって各国の王の集いでの進行役としての役割が課せられている。

 種族によって、寿命は様々。肉食系の種族は短命で八十年。草食系では九十年。海に住む者は五十年ほど、妖精族だけは三百年をいうに超える。
 その結果、妖精族が皆のまとめ役になるのは当然といえた。


 異種族との交配も推奨されており、近しいモノ(種族)ではなく身体の形が遠ければ遠いほど、より力が強く長く生き、生命を糧として練り上げる魔法も多く使えた。

 そんな世界。

 ダリアの父は妖精王。で母は落ち人だ。父と母の話はいつ聞いても面白い。まさに大恋愛。ちょっと頭のネジがぶっ飛んでいる父は母を片時も離さない。

 偉大な人であるが、母といると微塵もその凄さを感じない。むしろ残念だった。

 だけど、妖精族なら誰しも持つはずの純白の羽根がない私は、小さな頃はよく父の羽根を引きちぎりにいった。
 泣いて止める母がくるまで、基本やめない。そして止めに来た母は、私にむしられた父の羽根の根本を愛しそうに撫でながら「大丈夫ですか?なんてことを…」と涙する。

 そして何故か寝室に雪崩れ込む。

 子供ながらに、父はきっと母と性行為するきっかけを作る為に、羽根を毟られても好きにさせているのだ。
 羽根を引きちぎり事件の後はだいたい、一週間は寝室から出てこないからだ。何の獣人性ももたない落ち人の母は、もの凄くチョロい。

 そう、そして私、ダリアは無表情が通常運転。自分でいうのもあれだが、絶世の美貌に無表情とくれば、置物みたいなのだ。黙って座っていると、皆がだいたい驚く。

 あまり感情が顔に出ないのは、仕方ない。



「ついたわね!! あぁ久しぶり!!」

「はい、お母様、久しぶりです」

「ダリアはシェルバー王国に来るの、嫌だった? 無理に誘ってしまったかしら」

「大変、強烈に、飛び跳ねたいくらい、楽しいですよ、お母様」

「……ダリア…全く、そうは見えないけど」


 170センチの長身。滑らかな白すぎる陶器肌に、歩くたびにユッサユッサと揺れる胸。形良い尻あたりまで流れるさらさらの黒髪。大きく縁取られた瞳は薄紫色。

 羽根さえないが、この傾国の美女。しかし股には立派な男性の象徴も存在しているダリア。

 恋に気づくのは、もう少し先。
 気づいて、終わる一歩手前。


 無表情なダリアは、浮き足立ちながら、ハクリとルルの息子フェリックスに会いにいく。

 今回こそは、会えるのではないかと希望をもって。



 なかなか会えないのは、フェリックス本人に避けられていたからだ。フェリックスは妖精王の子供であるダリアに湧き上がる劣情を抱いていた。


 会ったのは数回。交わした言葉も数回。

 それでもダリアを脳内からは追い出せなかった。来るもの拒まず、去るもの追わず。
 何度も抱き合い男女の関係を築いた女より、数回程度しか会ってないダリアが脳内を占拠する。

 プレイボーイと名高い色男は完全に叶わない恋に溺れていた。


 ダリアの無表情にプラスして、口癖も悪かった。

『私は(フェリックス様のような)立派な男になりたいわ』


 それが口癖だった。だからこそダリアは妖精族三人目のこの世界基準の身長を持つ美男になるのでは!?と言われ続けていた。

 とんだ勘違いだ。

 ダリアはフェリックスを無意識に伴侶とし(まだ気付いてないが)愛している。よって選ぶ性別は《女》となる。




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