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28、ショッピングモールで想いの確認
しおりを挟むこのショッピングモールは物凄く長い。永遠と続く砂浜のように歩けど歩けど、最終地点には着かない。
一階から四階まで全てを見ようとすれば買い物するだけでも、健康的指数である一日一万歩を優にクリアできた。
手を繋いで歩いていると、互いの興味がある商品があれば歩きが鈍くなる。おのずと一定の間を空けていた空間が広がり、気づくのだ。
「どうした? 欲しいモノでもあったか?」
「大丈夫です。ふらふら歩いてごめんなさい」
「何を言ってる、ショッピングはふらふら歩いて物色する行為だろう。まさしく今がそれだ、気になる商品があれば見ていいからな」
要の優しさに包まれ、大人の男性は素敵だなぁと改めて感じた。
「三階って、ベビー用品と本屋さん、紳士服が主なのであまりこないんですよ、この階」
「そうか。一つ下を歩けば良かったか?」
「ううん。コーヒーショップは三階ですし、このまま三階を歩きましょ!!」
まだ何か言いたげな表情を見せる要に、陸は正直に現在の想いを伝えた。
「あのですね、ふらふら見てたのは。
要さんって、カジュアルなTシャツにジーパン姿もカッコいいから。
あそことか、あっちのトルソーが着てるのも、似合いそうだなぁ~って思ってみてました!」
えへへへー。と照れながら話す陸に、もう今日何度めか。心臓を打ち破る感動を身に体験し、要は幸せ過ぎて顔が崩れそうになっていた。
(俺の服か。俺の為に! なんて甘美な響きだ。選んでもらおう! 陸の異性に対しての好みが分かる!)
「せっかくだから記念に陸が選んでくれ」
「えぇー!? 例えばですよ、例えば。要さんが着るような服じゃないですよ」
陸はあくまでも良かれと思い拒否してくれているが、言われた要は大ダメージだった。年齢の差、社会人と学生の差、立場の差。要からすれば対等でありたい。
正直なところ、仕事しかしてこなかったから、はっきりいって皆が思う《普通》が要には理解出来ない。服にしても裸でなければいい、くらいの認識しかない為、こだわりもない。
だからこそ親族に勧められた三ブランド。その高級ブランドの服しか身につけた事がないのだ。
要は基本何を着ても似合う為、無頓着だった。
「…俺が着るような服ってなんだ? 」
哀しげな小さな声で反論してみる。要は無意識のうちに、陸を一番効率的に落とすやり方をしていた。
陸の性格は総じてお姉さんっぽい。同級生にも『陸ねぇさん!』なんてアダ名を付けられるほどに、性格がお姉さんなのだ。
周りを気にせず突き進む、ぶっ飛んだ姉を持ってしまったからか、空気が読めて気が回るタイプに育ってしまった。
こういうタイプは内面もお母さん寄りになり、高圧的な態度や、大きな声で威圧的に話す相手には、引いて無視。横暴な態度に嫌悪感を示す。
しかしデカイ図体をし、悲しげに反論されれば抱きしめたくなる感情に支配されるのだ。
とにかくこの手のタイプの女はギャップに弱い。
要が陸には大型犬が「くぅ~~んっ、くぅ~~んっ、くぅ~~んっ」と言ってる風に映っていた。
「っんもう、そうじゃなくて。既製品はオーダータイプとは違いますから着心地が悪いかなぁと…」
明らかに傷ついて黙ってしまった要に陸は動揺する。
言葉にしてから陸はしまったと反省したが遅い。思い出せば、少し前に陸を高級ブランドに連れて行った要に、陸は生きている世界の違いを見せつけられて、悲しんだ。
今それを要に陸はしたのだ。要は陸の心が欲しいと、あの老若男女にモテモテの要が、陸と付き合えるなら二番目でいいと言った。
『なぁ…、涼介…を好きで構わない…。ずっと…ずっと…涼介を好きで…構わない…』
(そう言って)
『…陸は、絵が好きだろう…。世界には…たくさんあるぞ。絵画も…彫刻も…なんでも見せて…やる。
金なら…溢れるほど…ある、好きに…使ったらいい…。
彼氏…優一だった…か。奴…には…無理だろう…? 学生だし…な。俺になら…でき…る』
(要さんは、勘違いをして。真っ裸のまま告白してきたんだった)
『心は…全部…涼介に、やる。だから…身体…を身体は、俺にくれないか?
俺とは、嫌なら…キスも…セックスも…しなくて…構わない。
慰めて…欲しい時…だけ、俺を…涼介だと思って…使えばいい。俺からは、絶対に、しない』
そう、あの時は驚き過ぎて台詞の内容に陸の脳はついていけなかった。
(あんなに想って…)
『陸。ずっと…好きなんだ、涼介と海のセックスを見て、泣いて…いた、陸を見て…。
俺は…恋に、気づいた。スカートを涙で濡らして、涼介…を想い泣いている…姿を見て…俺は自分の…恋に…気づいた…』
辛そうに告白する要を思い出し、息が詰まる。
(要さんは、ちゃんと告白してくれた)
『好きなんだ…陸……愛して…る…』
そうしっかりと言葉にしてくれた。今回のショッピングモールデートも陸の為。陸が喜ぶと思っての行動だ。
籍を入れたのは完全なる要の独占欲だろうが、結婚届は出したのに同棲しないのも、男女的なのはキス止まりなのも、要のサポートもせず学生生活を悠々自適に過ごしているのも、全て《陸の為》だ。
(私が出来ることは限られている。たくさん私の心を上げること。要さんが大好きって言葉と行動で見せることだ!! 間違えるな、私!!)
陸は自分を叱咤し、前言撤回。要に似合う服を探そうと誓う。
「やっぱり選んでいいですか? 私が選んだ服を要さんが着るなんて、なんかドキドキします」
「そうか、ありがとう。俺も…陸の服を選んでいいか?」
「ふふっ、脱がしたいからですか?」
普通にむしろ楽しそうに返答してくる陸に、要は固まる。思ってもみない台詞である。
大事に大事にし、自分の欲望が汚く思うほど大事な人だ。真綿のように大切に守りたい陸から、さらに軽い発言が放たれ、要の気分を地に落とす。
「あれですよね! 男の人って、脱がす為に服をプレゼントするって聞いたので。
流石、要さん! さらっと誘うところが大人っぽいですっ。モテるのが分かります」
(なんだそれは!? 褒めてない!!)
過去一度として女の服なんて選んでないし、選ぼうなどと思ったこともなければ、脱がしてまで性行為したいとも思ったことはない。過去の女は自発的に脱いで誘ってきた。
(まるで俺が陸に服を選ぶのが、身体目的みたいだっ!! 断じて俺は違うっ)
陸は確かに要にとって、最高に〝性〟の対象だ。正直なところは抱きたいし、申し訳ないと思いながらも陸の痴態を思い出しては、自慰をしまくっている。
だからといって常に〝それ〟が直結しているわけではない。
むしろ何げない会話や、側に陸がいるだけで満足に思う、身体が繋がっても心なくては意味がない。
「違う!!」
本気で腹が立って思わず大きな声が出る。陸からすれば要が今まで付き合ってきた女と同等の扱いとでも思っているのだろう。
要の深い愛が全く伝わっていない。
「えっ…と…」
陸からすれば何故これほど不機嫌を通り越して怒りの感情まで出されるのか、さっぱり理解出来ない。
「…軽く、言わないでくれ。俺は、ずっと………」
まだ要と繋いでいる陸の手は、少し痛いと感じるほど強く握られる。
「一般論は…俺には当てはまらない。簡単に次へいけるような想いなら。
とうの昔に陸を諦め、会社に有益ある女と結婚している」
胸を抉られたと感じた。好かれていると理解はしたが、まだまだ陸は甘かった。
要にとても残酷な台詞を吐いていたのだ。
「…ごめんなさい。私が自分で思っている以上に要さんは私を大切に、大事に思ってくれて嬉しいです。ありがとうございます!!」
「俺はいつも…かっこ悪いな…」
意気消沈する要に視線を向けたまま、頭を力いっぱい左右に振って否定し、我慢はいらないからこそ陸は提案する。
「要さん。服はまた今度にしませんか?」
「それは別に構わないが…」
「私、今日、要さんの家に泊まりたいです。さっきのドラックストアで、いつも使っている化粧品類は全て揃いますし、下着とかパジャマもここで買えます。
二人っきりになりたいです。要さんのおウチに行ったらダメですか?」
本気で驚いているのだろう、切れ長の美しい瞳から眼球が飛び出してきそうだ。
「は? なにを? 」
「私、明日も明後日も用事無しなので!!
要さんが明日用事があるなら、一日部屋で待っていたいです。いってらっしゃいと、お帰りなさい、っていいたいし。
結婚してるのに、もう私は妻なのに、離れているの辛いです。側にいたいですっ。1分でも1秒でも要さんの側にいたいです!!」
案の定、要の思考は停止する。
明日は仕事がある。休日出勤になる為、朝から夜までずっと仕事ではなく、予定は夕方から取引先の会長や社長と食事会くらいだ。
それさえも、21時までには解散となる。
要はダラダラ酒を呑む、女を呼んでの接待が死ぬほど嫌いで有名だからこそ、驚くほど健全な食事会は、二時間程度となっていた。
(白昼夢か??? 俺は、今、白昼夢を見ているのか???
なんだって?? 朝、陸を見て。夜、帰ってきたら、俺の家に陸がいるのか? そんな夢みたいな時間を過ごせるのか?
パジャマ…、いや、下着って、やる気か!? 避妊具を見ていたし、いいのか!?
まぁ、香り付きはないが……ノーマルタイプは、自宅に…ある…。
いや!! だめだ!! 陸との初めては薔薇を敷き詰めたスイートルームでと!!!
いやしかし…俺の部屋も、最上階だし。広さもホテルのスイートより広い。眺めも最高…だな。
…薔薇、敷き詰めるか?
…薔薇……薔薇……薔薇…ショッピングモールには、薔薇…は売ってるか?)
要の思考は停止から復帰した後、残念な思考回路に早変わり。
要の意向をしっかり聞こうと、陸は目を合わせたまま だんまりを決め込んでいる。
(あれ? ダメかな? いいのか?? 即答でいい!!って言ってくれると思ったのに…)
閉じていた形良い唇が開いて、陸の期待が広がる。
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