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14部

再来

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「ぶどうの木から妖精が産まれたぞ」
「もしかしたら」
「もしかしたら……」

ジンラとガーベラの間にかわいい妖精ライラが産まれた日、精霊達は「もしかしたら彼女が女王の転生した姿では?」と噂していた。

「どうなんだ?」
「そうなのか? 違うのか?」
「……どうも普通の妖精のようだのう」
「残念だ……」

「もう一人、木の枝に促されて妖精が産まれた」
「あの子は男の子だ」
「そうか。違うか」

神々も知らない所で、精霊達は期待したり落胆したりしていた。

人の世で、二万年という時が流れた。精霊の世界での時の流れは違うので、それよりは短いが、精霊達は女王が転生するのを心待ちにしていた。

「もしかしたら、我らが気がつかないだけで、実は転生している可能性もあるな」
精霊界の王たる者が言った。
魔物達の呪いが有効だった場合、女王は醜い姿で産まれている可能性もあった。再び精霊として転生してくれればいいが、人間や動物に転生したならば自分達が見つけることはできないのではないだろうか。もしかしたら、どこかですでに産まれているかもしれない。精霊達は探し続けたが、女王らしい存在をみつけることはできなかった。

「確かに、再び産まれてくるとそう言ったのに……」

それから時が経って、ガーベラとラーズの間に赤ちゃんが産まれた。
その赤ちゃんを見た雷獣トルメンタは、その赤ちゃんに女王の力の片鱗を見て、涙を流した。

(ついに……ついにお生まれになったのだ!)

トルメンタはすぐに風の精霊に伝えた。

「まことか? まことにそうなのか?」
「五色の玉が現われた。そうに違いない」
「王に知らせよう」

「うれしや……」
「うれしや……」

風に乗り、その朗報は精霊達に伝わった。

「本当なのか?」
精霊の世界にいた王は驚愕のあまり立ち上がっていた。

「すぐに行こう」
「待ってください。そのまま雲の上の神殿に行くつもりですか?」
同じ部屋にいた精霊が聞いた。精霊の王の風貌は、見るからに常人とはかけ離れている。彼は今までアシュランに面と向かって会ったこともなかった。
「そうだな。変身しよう。妖精に」
王の姿が変化した。妖精の服というよりは、地位が高い人間が着ているような上着にズボン姿である。髪の色も顔も、全体的に変わっていた。
「そうだ、彼女を世話する妖精ということにしよう。それがいい」
王はとりあえずトルメンタに会いに行った。

トルメンタはすでにヒルデリアに、赤ちゃんのことを話していた。
「ならば名前は、エスメラルダで決まったな」
ヒルデリアは以前トルメンタから女王の話を聞いていたのか、すぐにトルメンタの言葉を信じたようだ。
「ありがとうございます。主」
「よかったな。本当によかった」
二人が喜んでいる所に、妖精に化けた男が現われた。
「そなたは?」
「あ、主、この方は……我らが王です」
「まあ」

ガーベラが抱いていた赤ちゃんからは、確かに精霊女王の片鱗が感じられた。
(まさか女神に転生するとは……本当になんとかわいらしい。魔物ののろいは有効ではなかったのか? それとも、この子は、何度か転生した姿なのだろうか?)
気になって仕方がなかった王は、とりあえず雲の上から離れたところで二人に話を聞くことにした。

王はガーベラとラーズに、「これからあなた方が話すことは他の神々や妖精には言わない」と約束した。

「実は、この子、産まれた時は真っ白で、手も足もなかったんだ」
ラーズが話を始めた。
「正直不気味に思ったくらいだった。ガーベラが目を出してごらんって言ったら目を4つも出してさ、私はさらに不気味に思っていたんだが、ガーベラは、かわいい子供になるから信じてって。ガーベラは完全にそう信じていたんで、私も信じることができたんだ。ガーベラと私の話しかけで、あの白い物体は、こんなにかわいい赤ちゃんになって、完全な赤ちゃんになったとき、金色の光があがったんだよ。感動したよ。泣くほど感動した」
ラーズは目元をうるませながら言った。
「そうだったんですが。ガーベラ様は不気味に思わなかったのですか?」
「母親の愛と言いたいところだけど、実はその時のガーベラは私ではなかったの」
ガーベラはそこのところまで暴露しはじめたので、ラーズがあわてていた。
「ガーベラ」
「大丈夫よ。この妖精さんは、ただの妖精さんじゃない。それにこの子がこうなったのは彼女のお手柄なんだから、彼女のことも言いたいの」
「彼女?」
「実は、彼女が産まれた時、私の中には人間の女の子がいたの」
ガーベラはゆりのことを詳しく話したのだった。

その後王はゆりにも会いに行き、お礼を言った。ゆりは褒美をねだるわけでもなく、ただ赤ちゃんがかわいい女神になったことを喜んでいるようだ。

(不思議な人間だ。女神になって平然としていられることも驚いたが……この世界で産まれた者ではなかったとは。彼女がガーベラでなければ、エスメラルダはあの姿になれなかったかもしれない)

「彼女は我らにとっては恩人だ。彼女の血が続く限り、我らはあの国の助けになろう」
精霊界では、王たる者がこんなことを言い出して、精霊達は驚きのあまりぽかーんとしていた。
「しかし、それはどうかと思いますが……」
と言い出したのは、王の側近達である。精霊の中でも位が高い者達である。
「あまり表だって行動することはしない方がいいでしょう」
「そうです。いざとなれば精霊が助けてくれるとあの国が思ったらどうしますか? 彼らのためにもなりませんぞ」
「うーん、そうだな。じゃあそれとなーく助けよう。それならいいだろう? アジャール、とりあえず、彼女の子供とお友達になってこい」
王たる者は少年姿の精霊に言った。
「僕ですか? 人間に話しかけてもいいんですか?」
「いいよ」
「じゃあ、人間の言葉を話せるように魔法をかけてください」
「いいとも」

エスメラルダが産まれたことで、王たる者の考えは一変した。反対した精霊達がいたかというと、
「気持ちはわかる」
「味方をしたくもなるだろうな」
と精霊達も、仕方ないムードである。というのも、女王がいなかった期間が長すぎたせいだろう。中には再び女王に会うことをあきらめかけていた者達もいた。かわいい赤ちゃん女王を見ていると、精霊達も自然に笑顔になってくる。細かいことはどうでもよくなるのだった。

「せっかく女王がお生まれになったのだ。この世界をあまり傷つけたくない」
「そうだな。大戦にわしらも協力しよう」

そう思う妖精達もいた。


「恩人はお主が元いた国の王妃だとさ」
「そりゃすごいな。あの王妃、幸運の星だな」
話していたのは精霊の世界にいる動物たち、ヌエと双頭の蛇である。双頭の蛇は、蛇の国に行かなくても国の様子は知っているようだ。
「彼女が来てからあの国の運は上昇したからな。しかも神の国で女王まで産んじゃうなんてな。会ってみたいな」
「ほー会いたいか?」
いつの間にか、双頭の蛇の後ろに王たる者がいた。

双頭の蛇は、しばらく蛇の国に滞在することになった。

(国との交流を絶つこと。これが精霊の世界で住む条件だったのに。簡単に覆すんだからな。もし王妃が、次の戦で協力するように、と王にお願いでもしていたら、王は多分聞き入れただろう)
「その場合、俺達がここにくることはなかったかな?」
「さあ、どうだろう。しかし戦にずっと加担するわけにもいかんだろうしな。アシュランから横やりがありそうだ」
「だろうな。王妃が無欲でよかったな」
「強欲だったらガーベラにはなれないんじゃないか?」
「そりゃそうだな」
双頭の蛇は、頭同士で会話した。

精霊の王は、エスメラルダをつれて、世界のあちこちを回った。エスメラルダは、カサンドラの神殿にいない時は大体王と一緒にいる。

「幸せそうだな」
「成長するのが待ち遠しいな」
「この世界に幸あれ」
「大戦が無事終わるように我らも祈っているよ」

風の精霊達も、幾分楽しそうに通り過ぎて行ったのだった。

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