8 / 92
14部
火の精霊
しおりを挟む
「のう、火の精霊よ、私は、今回の戦いで死ぬかもしれない。そなたは達者でな」
火の神殿の外に、黄金の毛並みの雷獣が座っていた。側にいたのは赤いトカゲであるが、ただのトカゲではない。
「ばからしい。やめておけ」
赤いトカゲが言った。
「私はあの坊(ハロルド)に手を貸すと決めたのだ。王が言うには、かなりこちらが不利とのことだからな」
と雷獣。
「この世界がどうなろうが、わしには関係ない。妖精にも神にも力を貸す気はない。だが、今はいない女王への敬意を払って、最低限のことはするつもりだ。だからわしはここにおる。この陰気な神殿にな。まったく、一万年経ってもここは辛気くさいままだ」
火トカゲはぶつぶついっていた。
「いずれ、変わる時もくるかもしれないよ」
「そうなってほしいもんだ」
戦が起り、美しい雷獣はこの世を去った。
人間界も神の国も、しばし混乱の時代を迎える。世の中がどうなっても、火の神殿は何も変わらず、暗い雰囲気のままだった。
それから長い年月が経って、ようやく火の神殿に転機が訪れた。サラディンに娘ができたのである。火の神殿の雰囲気がかなり明るくなった。さらに双子の火の妖精達が産まれた。双子はまだ幼い子供で、あちこち火を吹いて周りは手を焼いていた。
(何もこんな子供で産まれてこなくてもいいのに)
ところがこの双子、火トカゲが火のつぼの中にいると、入ってくることがあった。
「いっしょにねよ」
「ねよ」
(おいおい)
「せーれーあそぼ」
「あそぼ」
双子達は火の精霊である火トカゲになついてくるようになった。
「せーれーすき」
「すきだよー」
(…………)
『大戦が再びあるぞ』
『近いぞ』
風の精霊達が騒いでいた。
(むう……再びあんな勝ち方をしたら、この子達にも影響があるかもしれん。わしには関係ない、関係ないが……妖精には手を貸さないと言ってしもうたしなあ……あ、完全な妖精ではない者が一人いたな。あいつを使うか)
大昔にサラディンに預けられたサラマンダーの剣、火の精霊によって鍛えられた剣だが、これを使うには火の精霊の意思が必要である。
(剣があれば強くなるわけではない。こいつも強くならないと)
「プー、ちゃんとかえってきてね」
「バロイもね」
双子は、戦の訓練に行くことになった妖精達の心配もしていた。
「はい、ちゃんと帰ってきますよ」
「もちろんですよ」
「やくそくよ」
(こいつらまで戦に出るなんて大丈夫かよ。とりあえず、あいつだけでもいっちょまえにしなきゃならん)
イシュタールの夢に、火の精霊が現われて戦いの訓練をするようになった。
ある日、復活した雷獣トルメンタが火の神殿にやってきた。トルメンタは火トカゲを見て、にやりと笑っている。
「随分ここも明るくなりましたね。あなたも忙しそう」
「うるさい」
「この先楽しいことが起こりそう。そう思いません?」
「知らんよ。わしはただ、あの双子を泣かせたくない。笑うとかわいいんじゃ」
「ほほほ、愛ですね」
「何が愛だ」
『愛だ』
『愛じゃ』
風の精霊まで言っていたので、火トカゲは「うるさい」と言っていた。
「お主は気をつけろよ。またババが泣くぞ。さすがに二度目の復活は無理かもしれんぞ」
「わかってますよ」
「せーれー」
「あそぼう」
双子が神殿から出て来た。
「ではまた」
雷獣は去って行った。
双子達は火トカゲに火の塊を投げ、火トカゲは飛んでそれを避けていた。時々火トカゲの方も火を吐いている。
「きゃはは」
「きゃは」
『あやつのあんな姿が見られるとは、子供とは偉大な生き物だな』
『本当にな』
『子守りが似あっとるで』
火トカゲは空に向かって火を吐き、風の精霊達は逃げて行ったのだった。
火の神殿の外に、黄金の毛並みの雷獣が座っていた。側にいたのは赤いトカゲであるが、ただのトカゲではない。
「ばからしい。やめておけ」
赤いトカゲが言った。
「私はあの坊(ハロルド)に手を貸すと決めたのだ。王が言うには、かなりこちらが不利とのことだからな」
と雷獣。
「この世界がどうなろうが、わしには関係ない。妖精にも神にも力を貸す気はない。だが、今はいない女王への敬意を払って、最低限のことはするつもりだ。だからわしはここにおる。この陰気な神殿にな。まったく、一万年経ってもここは辛気くさいままだ」
火トカゲはぶつぶついっていた。
「いずれ、変わる時もくるかもしれないよ」
「そうなってほしいもんだ」
戦が起り、美しい雷獣はこの世を去った。
人間界も神の国も、しばし混乱の時代を迎える。世の中がどうなっても、火の神殿は何も変わらず、暗い雰囲気のままだった。
それから長い年月が経って、ようやく火の神殿に転機が訪れた。サラディンに娘ができたのである。火の神殿の雰囲気がかなり明るくなった。さらに双子の火の妖精達が産まれた。双子はまだ幼い子供で、あちこち火を吹いて周りは手を焼いていた。
(何もこんな子供で産まれてこなくてもいいのに)
ところがこの双子、火トカゲが火のつぼの中にいると、入ってくることがあった。
「いっしょにねよ」
「ねよ」
(おいおい)
「せーれーあそぼ」
「あそぼ」
双子達は火の精霊である火トカゲになついてくるようになった。
「せーれーすき」
「すきだよー」
(…………)
『大戦が再びあるぞ』
『近いぞ』
風の精霊達が騒いでいた。
(むう……再びあんな勝ち方をしたら、この子達にも影響があるかもしれん。わしには関係ない、関係ないが……妖精には手を貸さないと言ってしもうたしなあ……あ、完全な妖精ではない者が一人いたな。あいつを使うか)
大昔にサラディンに預けられたサラマンダーの剣、火の精霊によって鍛えられた剣だが、これを使うには火の精霊の意思が必要である。
(剣があれば強くなるわけではない。こいつも強くならないと)
「プー、ちゃんとかえってきてね」
「バロイもね」
双子は、戦の訓練に行くことになった妖精達の心配もしていた。
「はい、ちゃんと帰ってきますよ」
「もちろんですよ」
「やくそくよ」
(こいつらまで戦に出るなんて大丈夫かよ。とりあえず、あいつだけでもいっちょまえにしなきゃならん)
イシュタールの夢に、火の精霊が現われて戦いの訓練をするようになった。
ある日、復活した雷獣トルメンタが火の神殿にやってきた。トルメンタは火トカゲを見て、にやりと笑っている。
「随分ここも明るくなりましたね。あなたも忙しそう」
「うるさい」
「この先楽しいことが起こりそう。そう思いません?」
「知らんよ。わしはただ、あの双子を泣かせたくない。笑うとかわいいんじゃ」
「ほほほ、愛ですね」
「何が愛だ」
『愛だ』
『愛じゃ』
風の精霊まで言っていたので、火トカゲは「うるさい」と言っていた。
「お主は気をつけろよ。またババが泣くぞ。さすがに二度目の復活は無理かもしれんぞ」
「わかってますよ」
「せーれー」
「あそぼう」
双子が神殿から出て来た。
「ではまた」
雷獣は去って行った。
双子達は火トカゲに火の塊を投げ、火トカゲは飛んでそれを避けていた。時々火トカゲの方も火を吐いている。
「きゃはは」
「きゃは」
『あやつのあんな姿が見られるとは、子供とは偉大な生き物だな』
『本当にな』
『子守りが似あっとるで』
火トカゲは空に向かって火を吐き、風の精霊達は逃げて行ったのだった。
212
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる