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14部

火の精霊

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「のう、火の精霊よ、私は、今回の戦いで死ぬかもしれない。そなたは達者でな」

火の神殿の外に、黄金の毛並みの雷獣が座っていた。側にいたのは赤いトカゲであるが、ただのトカゲではない。
「ばからしい。やめておけ」
赤いトカゲが言った。

「私はあの坊(ハロルド)に手を貸すと決めたのだ。王が言うには、かなりこちらが不利とのことだからな」
と雷獣。

「この世界がどうなろうが、わしには関係ない。妖精にも神にも力を貸す気はない。だが、今はいない女王への敬意を払って、最低限のことはするつもりだ。だからわしはここにおる。この陰気な神殿にな。まったく、一万年経ってもここは辛気くさいままだ」
火トカゲはぶつぶついっていた。

「いずれ、変わる時もくるかもしれないよ」
「そうなってほしいもんだ」

戦が起り、美しい雷獣はこの世を去った。

人間界も神の国も、しばし混乱の時代を迎える。世の中がどうなっても、火の神殿は何も変わらず、暗い雰囲気のままだった。

それから長い年月が経って、ようやく火の神殿に転機が訪れた。サラディンに娘ができたのである。火の神殿の雰囲気がかなり明るくなった。さらに双子の火の妖精達が産まれた。双子はまだ幼い子供で、あちこち火を吹いて周りは手を焼いていた。
(何もこんな子供で産まれてこなくてもいいのに)

ところがこの双子、火トカゲが火のつぼの中にいると、入ってくることがあった。
「いっしょにねよ」
「ねよ」

(おいおい)

「せーれーあそぼ」
「あそぼ」

双子達は火の精霊である火トカゲになついてくるようになった。

「せーれーすき」
「すきだよー」

(…………)

『大戦が再びあるぞ』
『近いぞ』

風の精霊達が騒いでいた。

(むう……再びあんな勝ち方をしたら、この子達にも影響があるかもしれん。わしには関係ない、関係ないが……妖精には手を貸さないと言ってしもうたしなあ……あ、完全な妖精ではない者が一人いたな。あいつを使うか)

大昔にサラディンに預けられたサラマンダーの剣、火の精霊によって鍛えられた剣だが、これを使うには火の精霊の意思が必要である。

(剣があれば強くなるわけではない。こいつも強くならないと)

「プー、ちゃんとかえってきてね」
「バロイもね」
双子は、戦の訓練に行くことになった妖精達の心配もしていた。

「はい、ちゃんと帰ってきますよ」
「もちろんですよ」

「やくそくよ」

(こいつらまで戦に出るなんて大丈夫かよ。とりあえず、あいつだけでもいっちょまえにしなきゃならん)

イシュタールの夢に、火の精霊が現われて戦いの訓練をするようになった。

ある日、復活した雷獣トルメンタが火の神殿にやってきた。トルメンタは火トカゲを見て、にやりと笑っている。
「随分ここも明るくなりましたね。あなたも忙しそう」
「うるさい」
「この先楽しいことが起こりそう。そう思いません?」
「知らんよ。わしはただ、あの双子を泣かせたくない。笑うとかわいいんじゃ」
「ほほほ、愛ですね」
「何が愛だ」

『愛だ』
『愛じゃ』

風の精霊まで言っていたので、火トカゲは「うるさい」と言っていた。

「お主は気をつけろよ。またババが泣くぞ。さすがに二度目の復活は無理かもしれんぞ」
「わかってますよ」

「せーれー」
「あそぼう」

双子が神殿から出て来た。

「ではまた」
雷獣は去って行った。

双子達は火トカゲに火の塊を投げ、火トカゲは飛んでそれを避けていた。時々火トカゲの方も火を吐いている。

「きゃはは」
「きゃは」

『あやつのあんな姿が見られるとは、子供とは偉大な生き物だな』
『本当にな』
『子守りが似あっとるで』

火トカゲは空に向かって火を吐き、風の精霊達は逃げて行ったのだった。

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