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14部

なぜにその生き物?

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ラクアに「子供達に免じて罰を選ばせてあげる」とゆりは言われた。
(子供達に免じて、そこはなしで良いじゃん)、とゆりは思ったが、口には出せない。
ゆりは考えた。どんな罰ならば、自分もちょっと楽しめるだろうか。
(水責めとかそういうのはやだし、やっぱり何かに変えられるシリーズかな)
ゆりは何度かハロルドに姿を変えられていたのでそう思った。

(犬や猫じゃありきたりだし、ラクア様だけに水に関係ある生き物がいいかも。といって魚とかじゃここで生きられないし……私が好きな水族館の生き物といえば、ラッコとかカワウソとか、そうだ、ペンギン!)

「姿を変えられる罰でお願いします。できれば、ペンギンでお願いします」
とゆりが言った。
「え? ペンギン?」
「この世界にペンギンはいないですかね?」
「ペンギン、いるけど、君は見たことあるの?」
「ここではない所で見ました。ペンギンに変えられる罰でお願いします。できれば一日くらいでお願いします」
ここまでくると罰なのか褒美なのかわからないが、とりあえずゆりはそう頼んでみた。
「君、もしかして今まで何かに変えられたことがあるの?」
「ハロルド様に蛇に変えられましたよ」
ゆりは顔色も変えずに言っていた。
「あの時は、周りの人達がだれも気がついてくれなくて、大変でした」
「そう……」
一族の者にとっては、他の生き物に変えられるということは、屈辱的なことである。ゆりは生粋の一族ではなかったので、全然こだわらなかった。

「ペンギンね……じゃあそれで行こうか」
「あの……もうガーベラ様の姿では私に会いたくないですよね?」
ゆりはペンギンになる前に聞いてみた。するとラクアは、「完全なガーベラとして会いたい」とゆりに言った。
もう来るな、とは言われなかったのでゆりはほっとした。

この後、ラクアはゆりに魔法をかけた。ゆりの姿は変わった。
「じゃあね」
ゆりはさよならといえない変わりに両手をばたばたさせていた。ゆりはよちよち歩いて、鏡の前まで移動した。そして鏡を見て目を輝かせた。
(こ、これは、思ったよりでかい! ペンギンの中では最も大きい、皇帝ペンギンじゃない! すごい。かっこいい!)
「くーんくーん」
ジロウの鳴き声が聞こえてきた。
ゆりは不思議な声で鳴いていた。
(ジロウくーん、私がわかるかな?)
「くーん」
ジロウはわかったのかゆりの横で並んでいた。
(ジロウ君もペンギンを見るの初めてだよね。子供達も初めて。どういう反応をするんだろう?)
ゆりはなぜかわくわくしている。

そして子供達がやってきた。子供達は皆、ゆりを見て驚きまくっている。
(うふふ、驚いてる~)

「これ何?」
「何の生き物!?」
「もしかしてお母さん?」
ゆりはうなずいていた。

その後今度は男達がやってきたのだった。
「お、王妃、なんですか?」
ミカエルはしゃがんでゆりに聞いた。ゆりはうなずいている。
「蛇の時よりわかりやすくてよかったな」
ハインリヒが言った。
「そういう問題かな。まあ、わかりやすいが……」
とフリット。
ミカエルはゆりのおなかをなでなでしてみた。
「柔らかそうに見えるのに、毛は硬いんだな」
「本当だ」
ハインリヒもゆりの背中に触っていた。そこにシャナーンがやってきた。
「王妃が動物に姿を変えられたって本当なんですか!? ああ!なんて、なんて威厳のある姿なんでしょう!」
シャナーンはゆりに近づいてくるや感動しているかのように言った。
「なんて美しい……なんという生き物なんですか?」
「さあ、見たことないからなあ」
ミカエルは首をかしげている。
「ラギ様が図鑑でも見たことないって言ってた」
フリットが言った。
「胸の黄色いところがかわいいです」
そこにミルキダスとカールがやってきた。
ミルキダスはゆりを見るや、「鳥の仲間でしょうか?」と聞いていた。
「飛べないだろうけどな」
とミカエル。

「王妃、かわいいですよ」
ゆりは手をばたばたさせている。
カールは見たことがない生き物だけに、ゆりを観察しているだけだった。

(ああ、泳いでるところを見せられないなんて、残念)

「あのー食事はどうしたらいいと思います?」
ミラがミカエルにきいていた。
「王妃はいつまでこの姿なんだろう?」
「さあ」
「いろいろ並べてみたらどうだ?」
とフリット。
「カエルとか食べます?」
ハインリヒが聞くと、ゆりは横にぶんぶん首を振っていた。
ゆりは両手を動かして何かを訴えていた。
「あ、何かを訴えてる」
とミカエル。ゆりは泳いでるジェスチャーやらをしていた。
「王妃、かわいい。かわいすぎます!」
シャナーンは感動して目を潤ませていた。そこにヴィラとジュノーがやってきた。
二人の目は点になっている。
「これはなんという生き物なんですか?」
ヴィラが男達に聞いた。
「謎だ。王妃の訴えでは、海の生き物っぽい」
ジュノーはゆりの背中に触ってみていた。
「色がはっきりしておもしろいなあ」
そしてゆりの手をもってみている。
「歩くの遅そうだよな。これだけ遅いと、敵にすぐ殺されてしまいそうだな」
ハインリヒが言った。
「そのかわり、海では早いかもしれないですよ」
とミルキダス。
「だとしたら、水の中じゃなくても平気なのかな?」
ジュノーが聞いた。
ゆりはうなずいている。
ヴィラはゆりの側で、(今度は何をしたんですか?)と小声で聞いていた。
ゆりは横に首を振っている。
「絶対何かしたんでしょう」
「きっと、これは神様の愛情表現ですよ」
シャナーンが言った。
(そういう愛情はいらない)と男達は皆思っていた。

翌日、元に戻ったゆりはヴィラとジュノーに会っていた。
「王妃、一日で戻ってよかったですね。ラクア様は怒ってあんなことをしたんですか?」
ジュノーが聞いた。
「まあ、一応、それで、罰を選ばせてあげるって言われたから、ペンギンにしてもらったの。ペンギン、かわいかったでしょ? みんな絶対見たことないから、見せたかったの」
ゆりはうれしそうだ。
「王妃、そういうサービスはいいですから」
ヴィラはあきれ顔である。
「そうですよ。王は大きなため息をついてましたよ」
とジュノー。
「しばらく愛してくれないかもしれないですよ」
とヴィラ。
「まあまあ、魚くさくなければ大丈夫だって」
そこでゆりの左目が蛇の目になった。
「ねえ、神様に罰を選ばせてあげるって言われたら、何を選ぶ?」
蛇の目のゆりは二人に聞いていた。
「何も選びたくないですよ。そこは謝るところですよ」
とジュノー。
「普通そうだよね。あえて罰を受けなくてもいいのに。しかもあんな姿にならなくても……蛇の方がよかったよね」
「うーん、そりゃまあ蛇の方がいいですね」
とヴィラ。
「歩くのが遅いし、移動するのが大変だったわ」
蛇の目のゆりは口を尖らせていたのだった。

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