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13部 番外編
滅びの歌
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それは今から一万年ほど昔のことであるが、この世界から一つの一族が消えた。
中央の大陸の東に、一部が陸続きになっていて縦に長細い大陸がある。昔、その北にはワニの一族が支配していた。強靱な肉体を誇るワニの一族は戦いにおいても力を発揮し、当時、その南にいた鳥の一族にしょっちゅうちょっかいを出していた。ワニの一族は、鳥の一族の者達を捕らえては、彼らの翼を無残にも切り取り、その羽を自分達の服に飾りとして装飾したりしていた。またある時は、鳥の一族の者達の死体を国境に並べて吊すという残虐な行為を行ったこともあった。彼らの残酷さには龍の国王でさえ目を背けたくらいである。戦いにおいては鳥の一族よりもワニの一族の方に分があり、このままでは、鳥の一族はワニの一族の属国になってしまうだろうと思われていた。何度も繰り返される戦に鳥の一族はとうとう疲れ果ててしまった。
ある日、恭順の印として、鳥の一族の中の部族の一つである、白鳥の一族の王女がワニの一族へと差し出された。鳥の一族はとうとうプライドを捨てたのだ。美しい声と美しい容姿で評判だった王女を、敵に差し出すとは。
ワニの国王は意気揚々として、王女を宴の席で歌わせた。王女は美しく、またその歌声は、噂以上だった。
ところが王女の歌が途中で変わった。その歌声には憎悪の感情がこもっていた。
「滅びよ。憎しみ合い、殺し合うがいい。目の前にいるのは敵だ。敵だ。敵だ」
王女の歌を聴いたワニの王族の者達は、突如として殺し合いを始めた。目の前にいるのがすべて敵だと錯覚して、気が狂ったようにオノを奮い、そのオノは、歌い続ける王女の体にも奮われた。王女は微笑んでいた。その手には、ワニの一族との戦いで亡くなった恋人の羽が握られていた。
その宴にはワニの一族の主な者達が参加していたために、それより後、ワニの一族は衰退し、一族は離散した。
白鳥の王女は強力な声の魔法使いだった。王女の歌声だけで一族が滅んだ。
アシュランは「このことは決して他の国に知られないように。ワニの王族は病で滅んだ。そういうことにしておこう」そう、鳥の一族の国王に告げた。そのため、歴史書には決して記録されることはなかった。
アシュランは王女からの遺言をラメーンに渡した。
「音楽の神よ、歌をこのような手段に使う私を許してください。自らの死を持って償います。どうか、一族にはおとがめなきようにお願いいたします」
手紙にはそう書かれていた。
「哀れな……」
死を覚悟して一人敵陣に行った王女。湖に浮かぶ美しい白鳥を見るたびに、音楽の神ラメーンは王女のことを思い出すのだった。
それから遙か時を経て、ラメーンは声に悩む少年に出会った。羊の一族に、このような能力をもった子供が産まれることは珍しい。
「私は、君が死ぬまで君のことを気にかけると約束しよう」
(どうか彼が悲しい歌を歌うことがないように)
そう願ってやまないラメーンだった。
中央の大陸の東に、一部が陸続きになっていて縦に長細い大陸がある。昔、その北にはワニの一族が支配していた。強靱な肉体を誇るワニの一族は戦いにおいても力を発揮し、当時、その南にいた鳥の一族にしょっちゅうちょっかいを出していた。ワニの一族は、鳥の一族の者達を捕らえては、彼らの翼を無残にも切り取り、その羽を自分達の服に飾りとして装飾したりしていた。またある時は、鳥の一族の者達の死体を国境に並べて吊すという残虐な行為を行ったこともあった。彼らの残酷さには龍の国王でさえ目を背けたくらいである。戦いにおいては鳥の一族よりもワニの一族の方に分があり、このままでは、鳥の一族はワニの一族の属国になってしまうだろうと思われていた。何度も繰り返される戦に鳥の一族はとうとう疲れ果ててしまった。
ある日、恭順の印として、鳥の一族の中の部族の一つである、白鳥の一族の王女がワニの一族へと差し出された。鳥の一族はとうとうプライドを捨てたのだ。美しい声と美しい容姿で評判だった王女を、敵に差し出すとは。
ワニの国王は意気揚々として、王女を宴の席で歌わせた。王女は美しく、またその歌声は、噂以上だった。
ところが王女の歌が途中で変わった。その歌声には憎悪の感情がこもっていた。
「滅びよ。憎しみ合い、殺し合うがいい。目の前にいるのは敵だ。敵だ。敵だ」
王女の歌を聴いたワニの王族の者達は、突如として殺し合いを始めた。目の前にいるのがすべて敵だと錯覚して、気が狂ったようにオノを奮い、そのオノは、歌い続ける王女の体にも奮われた。王女は微笑んでいた。その手には、ワニの一族との戦いで亡くなった恋人の羽が握られていた。
その宴にはワニの一族の主な者達が参加していたために、それより後、ワニの一族は衰退し、一族は離散した。
白鳥の王女は強力な声の魔法使いだった。王女の歌声だけで一族が滅んだ。
アシュランは「このことは決して他の国に知られないように。ワニの王族は病で滅んだ。そういうことにしておこう」そう、鳥の一族の国王に告げた。そのため、歴史書には決して記録されることはなかった。
アシュランは王女からの遺言をラメーンに渡した。
「音楽の神よ、歌をこのような手段に使う私を許してください。自らの死を持って償います。どうか、一族にはおとがめなきようにお願いいたします」
手紙にはそう書かれていた。
「哀れな……」
死を覚悟して一人敵陣に行った王女。湖に浮かぶ美しい白鳥を見るたびに、音楽の神ラメーンは王女のことを思い出すのだった。
それから遙か時を経て、ラメーンは声に悩む少年に出会った。羊の一族に、このような能力をもった子供が産まれることは珍しい。
「私は、君が死ぬまで君のことを気にかけると約束しよう」
(どうか彼が悲しい歌を歌うことがないように)
そう願ってやまないラメーンだった。
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