上 下
46 / 92
13部 番外編

滅びの歌

しおりを挟む
それは今から一万年ほど昔のことであるが、この世界から一つの一族が消えた。

中央の大陸の東に、一部が陸続きになっていて縦に長細い大陸がある。昔、その北にはワニの一族が支配していた。強靱な肉体を誇るワニの一族は戦いにおいても力を発揮し、当時、その南にいた鳥の一族にしょっちゅうちょっかいを出していた。ワニの一族は、鳥の一族の者達を捕らえては、彼らの翼を無残にも切り取り、その羽を自分達の服に飾りとして装飾したりしていた。またある時は、鳥の一族の者達の死体を国境に並べて吊すという残虐な行為を行ったこともあった。彼らの残酷さには龍の国王でさえ目を背けたくらいである。戦いにおいては鳥の一族よりもワニの一族の方に分があり、このままでは、鳥の一族はワニの一族の属国になってしまうだろうと思われていた。何度も繰り返される戦に鳥の一族はとうとう疲れ果ててしまった。

 ある日、恭順の印として、鳥の一族の中の部族の一つである、白鳥の一族の王女がワニの一族へと差し出された。鳥の一族はとうとうプライドを捨てたのだ。美しい声と美しい容姿で評判だった王女を、敵に差し出すとは。
ワニの国王は意気揚々として、王女を宴の席で歌わせた。王女は美しく、またその歌声は、噂以上だった。

ところが王女の歌が途中で変わった。その歌声には憎悪の感情がこもっていた。
「滅びよ。憎しみ合い、殺し合うがいい。目の前にいるのは敵だ。敵だ。敵だ」

王女の歌を聴いたワニの王族の者達は、突如として殺し合いを始めた。目の前にいるのがすべて敵だと錯覚して、気が狂ったようにオノを奮い、そのオノは、歌い続ける王女の体にも奮われた。王女は微笑んでいた。その手には、ワニの一族との戦いで亡くなった恋人の羽が握られていた。

その宴にはワニの一族の主な者達が参加していたために、それより後、ワニの一族は衰退し、一族は離散した。

白鳥の王女は強力な声の魔法使いだった。王女の歌声だけで一族が滅んだ。

アシュランは「このことは決して他の国に知られないように。ワニの王族は病で滅んだ。そういうことにしておこう」そう、鳥の一族の国王に告げた。そのため、歴史書には決して記録されることはなかった。

アシュランは王女からの遺言をラメーンに渡した。

「音楽の神よ、歌をこのような手段に使う私を許してください。自らの死を持って償います。どうか、一族にはおとがめなきようにお願いいたします」
手紙にはそう書かれていた。

「哀れな……」

死を覚悟して一人敵陣に行った王女。湖に浮かぶ美しい白鳥を見るたびに、音楽の神ラメーンは王女のことを思い出すのだった。

それから遙か時を経て、ラメーンは声に悩む少年に出会った。羊の一族に、このような能力をもった子供が産まれることは珍しい。

「私は、君が死ぬまで君のことを気にかけると約束しよう」

(どうか彼が悲しい歌を歌うことがないように)

そう願ってやまないラメーンだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...