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13部 番外編
相変わらずのイシュタール
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梅雨になり、イシュタールは神の国にやってきた。これは来てすぐの話である。
「ところで、お前の王妃、いろいろ大変だったようだな。ジンラに聞いたぞ」
サラディンがその話題をふった。
「王妃は大丈夫だったか?」
「はい、ジンラ様に疑われた時は王妃も悲しかったと思いますが、すっかり疑いも晴れていますから。第一うちの王妃はとても優しくて、他者を傷つけるなんて思いもつかない方なので、それこそ王妃と話せば5秒でそんなことは分かると思うんですが、ジンラ様はうちの王妃とあまり話したこともないようでしたから分からなかったのだと思います」
「そうだな。お前の王妃は、あまりそういうことを考えそうにないな」
それはサラディンも感じていた。蛇の国の現王妃は世間一般的王妃、とはかなり印象が違う。
「そうなんです!」
イシュタールは前のめりになっていた。
「サラディン様ならわかってくださると思ってました」
イシュタールはうれしそうである。確かに、もし、ジンラが先にサラディンにそのことを相談していたとしたら、サラディンも、「あの王妃はそんなことしそうにないぞ」くらいは言ったかもしれない。
「まあ王妃が元気そうならよかったな」
サラディンはさっさと話を切り上げようとした。
「実は少々困ったことがありまして」
「困ったこと?」
「王妃は以前よりさらに魅力的になってます。なので、機会があったら、サラディン様にも王妃に会っていただきたいです」
「……はあ」
サラディンは生返事を返していた。
「お前は何かというと王妃をすすめてくるな。私にどうしろと言うんだ」
「それはもう、サラディン様が王妃を好きになっていただけるなら、私にとってはこの上ない喜びです」
イシュタールは目を輝かせて言っていた。サラディンにすれば、どうしてそうなるのかさっぱりわからないが。
「お前の一族はちょっと変わっているからそう言っているのかもしれんが、私はそう気が多いほうじゃないんだ。ガーベラがいればもう十分だ」
「ガーベラ様がステキだということは十分わかってます。王妃は、話をするだけでも楽しいですよ。最近オルガ様も、王妃の魅力に気づかれてるようですし」
「オルガ?」
オルガはおまじないを試した、という話をサラディンは思い出した。
(詳しくは聞かなかったが、あいつおまじないで王妃の寝室に飛んだのかな? オルガの様子もちょっとおかしかったような……まさか……)
『王妃❤』
『オルガ様……❤』
サラディンはベッドの上で寄り添う二人をつい想像したが、すぐにその妄想を消していた。
(まさかそんなことはないだろう)
「イシュタール、そういう話をここだけでするのはいいが、この外ではしないようにな。オルガがそんなことはないと気を悪くする可能性もあるからな」
「はい、ここでしか言いません」
サラディンはちょっと心配になってきた。
「ガーベラはそうでもないが、中にはプライドが高い神もいる。人間の分際で図に乗っているなどと思われたら損だ」
「大丈夫です。私が王妃の話をするのはサラディン様にだけですから」
「それならいいが」
「ですが、オルガ様の話は本当ですよ。今度聞いてみてください」
「ああ」
「私は敬愛するサラディン様に王妃と仲良くなっていただきたいです」
イシュタールは胸に手を当てて言っていた。
相変わず、サラディンにすればよく分からない思考である。
その夜、偶然オルガが火の神殿にやってきた。
「ルチアは今日は来たか?」
「いいや、来てないぞ。昨日は来たが」
「そうか」
「マチルダがルチアの髪を洗ってくれるんで私はもう世話はしてない。あの二人はいつも一緒なんだな」
「そうなのか?実は私はマチルダとルチアが一緒の所を見たことがない。海で遊んでいる所も一度見たいと思っているんだが、昼間の海は私には不似合い過ぎるしな」
「そうだな。ところで、ジンラの前では詳しく聞けなかったが、王妃のおまじないを試してみたと言っていたろう?」
「ああ」
「それで、王妃と何かあったのか? イシュタールはなんか誤解しているようだが」
「え。誤解?」
「イシュタールはオルガが王妃を好きなんじゃないかと思っているぞ」
オルガは目をまん丸くしていたが、やがて「好きだぞ」とあっさり言った。
「それは女性としてというわけではないだろう?」
「女性としても好きだ」
「……?」
サラディンは驚愕の表情を浮かべている。
「おまじないの時何かあったのか?」
『王妃、寝間着姿もかわいいな❤』
『オルガ様ったら❤』
サラディンの脳裏にこんなことを言いながら寄り添う二人が浮かんでいた。
「ふっ想像にまかせる」
「まかせるな! 今すごい想像をしてしまったぞ。一体どうしたんだ」
「王妃と話をするのは楽しいんだ。彼女といると、神と人間ということさえ忘れてしまう。彼女にはそういう不思議なところがある」
「…………」
(イシュタール、お前の王妃はなんかすごいぞ)
『そうでしょう!?』
と喜ぶイシュタールの顔が浮かんだサラディンだった。
「ところで、お前の王妃、いろいろ大変だったようだな。ジンラに聞いたぞ」
サラディンがその話題をふった。
「王妃は大丈夫だったか?」
「はい、ジンラ様に疑われた時は王妃も悲しかったと思いますが、すっかり疑いも晴れていますから。第一うちの王妃はとても優しくて、他者を傷つけるなんて思いもつかない方なので、それこそ王妃と話せば5秒でそんなことは分かると思うんですが、ジンラ様はうちの王妃とあまり話したこともないようでしたから分からなかったのだと思います」
「そうだな。お前の王妃は、あまりそういうことを考えそうにないな」
それはサラディンも感じていた。蛇の国の現王妃は世間一般的王妃、とはかなり印象が違う。
「そうなんです!」
イシュタールは前のめりになっていた。
「サラディン様ならわかってくださると思ってました」
イシュタールはうれしそうである。確かに、もし、ジンラが先にサラディンにそのことを相談していたとしたら、サラディンも、「あの王妃はそんなことしそうにないぞ」くらいは言ったかもしれない。
「まあ王妃が元気そうならよかったな」
サラディンはさっさと話を切り上げようとした。
「実は少々困ったことがありまして」
「困ったこと?」
「王妃は以前よりさらに魅力的になってます。なので、機会があったら、サラディン様にも王妃に会っていただきたいです」
「……はあ」
サラディンは生返事を返していた。
「お前は何かというと王妃をすすめてくるな。私にどうしろと言うんだ」
「それはもう、サラディン様が王妃を好きになっていただけるなら、私にとってはこの上ない喜びです」
イシュタールは目を輝かせて言っていた。サラディンにすれば、どうしてそうなるのかさっぱりわからないが。
「お前の一族はちょっと変わっているからそう言っているのかもしれんが、私はそう気が多いほうじゃないんだ。ガーベラがいればもう十分だ」
「ガーベラ様がステキだということは十分わかってます。王妃は、話をするだけでも楽しいですよ。最近オルガ様も、王妃の魅力に気づかれてるようですし」
「オルガ?」
オルガはおまじないを試した、という話をサラディンは思い出した。
(詳しくは聞かなかったが、あいつおまじないで王妃の寝室に飛んだのかな? オルガの様子もちょっとおかしかったような……まさか……)
『王妃❤』
『オルガ様……❤』
サラディンはベッドの上で寄り添う二人をつい想像したが、すぐにその妄想を消していた。
(まさかそんなことはないだろう)
「イシュタール、そういう話をここだけでするのはいいが、この外ではしないようにな。オルガがそんなことはないと気を悪くする可能性もあるからな」
「はい、ここでしか言いません」
サラディンはちょっと心配になってきた。
「ガーベラはそうでもないが、中にはプライドが高い神もいる。人間の分際で図に乗っているなどと思われたら損だ」
「大丈夫です。私が王妃の話をするのはサラディン様にだけですから」
「それならいいが」
「ですが、オルガ様の話は本当ですよ。今度聞いてみてください」
「ああ」
「私は敬愛するサラディン様に王妃と仲良くなっていただきたいです」
イシュタールは胸に手を当てて言っていた。
相変わず、サラディンにすればよく分からない思考である。
その夜、偶然オルガが火の神殿にやってきた。
「ルチアは今日は来たか?」
「いいや、来てないぞ。昨日は来たが」
「そうか」
「マチルダがルチアの髪を洗ってくれるんで私はもう世話はしてない。あの二人はいつも一緒なんだな」
「そうなのか?実は私はマチルダとルチアが一緒の所を見たことがない。海で遊んでいる所も一度見たいと思っているんだが、昼間の海は私には不似合い過ぎるしな」
「そうだな。ところで、ジンラの前では詳しく聞けなかったが、王妃のおまじないを試してみたと言っていたろう?」
「ああ」
「それで、王妃と何かあったのか? イシュタールはなんか誤解しているようだが」
「え。誤解?」
「イシュタールはオルガが王妃を好きなんじゃないかと思っているぞ」
オルガは目をまん丸くしていたが、やがて「好きだぞ」とあっさり言った。
「それは女性としてというわけではないだろう?」
「女性としても好きだ」
「……?」
サラディンは驚愕の表情を浮かべている。
「おまじないの時何かあったのか?」
『王妃、寝間着姿もかわいいな❤』
『オルガ様ったら❤』
サラディンの脳裏にこんなことを言いながら寄り添う二人が浮かんでいた。
「ふっ想像にまかせる」
「まかせるな! 今すごい想像をしてしまったぞ。一体どうしたんだ」
「王妃と話をするのは楽しいんだ。彼女といると、神と人間ということさえ忘れてしまう。彼女にはそういう不思議なところがある」
「…………」
(イシュタール、お前の王妃はなんかすごいぞ)
『そうでしょう!?』
と喜ぶイシュタールの顔が浮かんだサラディンだった。
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