上 下
42 / 94
13部 番外編

相変わらずのイシュタール

しおりを挟む
梅雨になり、イシュタールは神の国にやってきた。これは来てすぐの話である。
「ところで、お前の王妃、いろいろ大変だったようだな。ジンラに聞いたぞ」
サラディンがその話題をふった。
「王妃は大丈夫だったか?」
「はい、ジンラ様に疑われた時は王妃も悲しかったと思いますが、すっかり疑いも晴れていますから。第一うちの王妃はとても優しくて、他者を傷つけるなんて思いもつかない方なので、それこそ王妃と話せば5秒でそんなことは分かると思うんですが、ジンラ様はうちの王妃とあまり話したこともないようでしたから分からなかったのだと思います」
「そうだな。お前の王妃は、あまりそういうことを考えそうにないな」
それはサラディンも感じていた。蛇の国の現王妃は世間一般的王妃、とはかなり印象が違う。
「そうなんです!」
イシュタールは前のめりになっていた。
「サラディン様ならわかってくださると思ってました」
イシュタールはうれしそうである。確かに、もし、ジンラが先にサラディンにそのことを相談していたとしたら、サラディンも、「あの王妃はそんなことしそうにないぞ」くらいは言ったかもしれない。
「まあ王妃が元気そうならよかったな」
サラディンはさっさと話を切り上げようとした。
「実は少々困ったことがありまして」
「困ったこと?」
「王妃は以前よりさらに魅力的になってます。なので、機会があったら、サラディン様にも王妃に会っていただきたいです」
「……はあ」
サラディンは生返事を返していた。
「お前は何かというと王妃をすすめてくるな。私にどうしろと言うんだ」
「それはもう、サラディン様が王妃を好きになっていただけるなら、私にとってはこの上ない喜びです」
イシュタールは目を輝かせて言っていた。サラディンにすれば、どうしてそうなるのかさっぱりわからないが。
「お前の一族はちょっと変わっているからそう言っているのかもしれんが、私はそう気が多いほうじゃないんだ。ガーベラがいればもう十分だ」
「ガーベラ様がステキだということは十分わかってます。王妃は、話をするだけでも楽しいですよ。最近オルガ様も、王妃の魅力に気づかれてるようですし」
「オルガ?」
オルガはおまじないを試した、という話をサラディンは思い出した。
(詳しくは聞かなかったが、あいつおまじないで王妃の寝室に飛んだのかな? オルガの様子もちょっとおかしかったような……まさか……)

『王妃❤』
『オルガ様……❤』

サラディンはベッドの上で寄り添う二人をつい想像したが、すぐにその妄想を消していた。
(まさかそんなことはないだろう)
「イシュタール、そういう話をここだけでするのはいいが、この外ではしないようにな。オルガがそんなことはないと気を悪くする可能性もあるからな」
「はい、ここでしか言いません」
サラディンはちょっと心配になってきた。
「ガーベラはそうでもないが、中にはプライドが高い神もいる。人間の分際で図に乗っているなどと思われたら損だ」
「大丈夫です。私が王妃の話をするのはサラディン様にだけですから」
「それならいいが」
「ですが、オルガ様の話は本当ですよ。今度聞いてみてください」
「ああ」
「私は敬愛するサラディン様に王妃と仲良くなっていただきたいです」
イシュタールは胸に手を当てて言っていた。
相変わず、サラディンにすればよく分からない思考である。

その夜、偶然オルガが火の神殿にやってきた。
「ルチアは今日は来たか?」
「いいや、来てないぞ。昨日は来たが」
「そうか」
「マチルダがルチアの髪を洗ってくれるんで私はもう世話はしてない。あの二人はいつも一緒なんだな」
「そうなのか?実は私はマチルダとルチアが一緒の所を見たことがない。海で遊んでいる所も一度見たいと思っているんだが、昼間の海は私には不似合い過ぎるしな」
「そうだな。ところで、ジンラの前では詳しく聞けなかったが、王妃のおまじないを試してみたと言っていたろう?」
「ああ」
「それで、王妃と何かあったのか? イシュタールはなんか誤解しているようだが」
「え。誤解?」
「イシュタールはオルガが王妃を好きなんじゃないかと思っているぞ」
オルガは目をまん丸くしていたが、やがて「好きだぞ」とあっさり言った。
「それは女性としてというわけではないだろう?」
「女性としても好きだ」
「……?」
サラディンは驚愕の表情を浮かべている。
「おまじないの時何かあったのか?」

『王妃、寝間着姿もかわいいな❤』
『オルガ様ったら❤』

サラディンの脳裏にこんなことを言いながら寄り添う二人が浮かんでいた。

「ふっ想像にまかせる」
「まかせるな! 今すごい想像をしてしまったぞ。一体どうしたんだ」
「王妃と話をするのは楽しいんだ。彼女といると、神と人間ということさえ忘れてしまう。彼女にはそういう不思議なところがある」
「…………」
(イシュタール、お前の王妃はなんかすごいぞ)

『そうでしょう!?』

と喜ぶイシュタールの顔が浮かんだサラディンだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

処理中です...