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13部 番外編

新しい恋人?

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その日、ヴィラは北の街の役場にいた。早朝役場の裏庭に両手両足を縛られた男が放置されていたので、その男を取り調べている。ひょろっとした背が高い痩せた男で、無精ひげが生えた中年の男だった。
「どうか許してください。つい、出来心で」
この男は夜間博物館に侵入しようとしてだれかにとっ捕まって役場の前に放置されたらしい。

(これで何人目だ?)

博物館に侵入しようとして誰かに捕まった男はこいつだけではなかった。ダーナ像が博物館にやってきてから5人はいるのである。

「つい、ダーナ様に抱きつきたくなってしまったんです」
「お前もダーナ様か」
「だって、キレイでしょう?」
「まったく……罰金と奉仕活動一ヶ月の罪だな」
「はいはい。本当に申し訳ありません」
男は縄をほどかれてヴィラの向いに座っていたのだが、ふいに右手をしゅっとあげて何かをヴィラに向かって飛ばした。ヴィラは即座にそれを指で受け止めていた。
それは細く長い針のようなものだった。
「毒針か何かか?」
「ちっ!」
男はヴィラに向かって行った。左手には小さなナイフを握りしめている。
ここに来る前に持ち物検査をしたはずだが、一体どこに刃物を隠していたのだろうとヴィラは思いつつ、魔力の力で男を攻撃した。男はそれを受けつつも、ヴィラに向かってナイフを投げた。ヴィラはそれをよけ、ナイフは壁に突き刺さっていた。
「ちくしょう!」
「さあどうする?」
男は傷つきつつも素早く窓から逃げようとしていたが、ヴィラの素早い魔法攻撃を受けて床に倒れ込んだ。失敗した暗殺者の末路は、死と決まっている。首を斬られて男は絶命した。

「ヴィラ様、大丈夫ですか?」
部屋の外にいた役人達が入って来た。
「ああ、処理をよろしく」
「はい」

ヴィラは部屋から出て行った。そしてズボンのポケットから折りたたんだ一枚の紙を取り出して眺めている。

「裏庭の男に気をつけろ」

紙には殴り書きしたようにそう書かれていた。このメモは、朝、子供が「役場のえらい人に渡して」、と持って来たものだった。子供は誰かに頼まれたようだが、その誰かはよくわからないという。とにかく気になるメモだったので、話を聞いたヴィラが男に対応したのだった。

(下の連中ならやられていたかもな。一体誰が忠告してくれたんだか。ここの裏庭にいたのも自演なのかどうか?)
などと考えているとき、カーライルから思念が来たのだった。カーライルからの思念は初めてである。しかも内容が、
「王妃の恋人になりたい。恋人になるには恋人達が賛成しなきゃだめだというので、賛成してくれ」というものだった。

「え? カーライル様が王妃の恋人に?」
ヴィラは一瞬戸惑っていたが、すぐに(これはチャンスじゃないか?)と思っていた。それでなくとも、最近ゆりは一族以外の男に気を取られがちなのだ。

―皆さん、カーライル様が王妃の恋人になるのに賛成してください

ヴィラはすぐに男達に思念を飛ばしていた。

―しかし、カーライル様がカールの体を借りるってことは、カールは二倍王妃にひっつくってことだぞ

と文句を言ったのはミカエルである。

―よーく考えてください。カーライル様は、一族の男も同然なんです。一族以外の男が恋人になるより、100倍ましじゃないですか

―一〇〇〇〇倍ましだな

ハインリヒが言った。

―それはまあ確かに……

とミカエル。

―私はいつかこの日がくると思ってました

シャナーンが言っていた。

―実は私も思ってました

とミルキダス。

―イシュタールは賛成するだろうな。私の蛇さんは反対しそうだが、私はまあ、いいんじゃないかなと思う。水蛇様は尊敬できる方だしな
フリットが言った。

―じゃあ反対する理由はないですね
とジュノー。

(多分王妃は我らが反対するだろうと思ったんだろうけど)

―賛成します

全員が賛成し、カーライルはゆりの恋人になったのだった。

翌日、ゆりの部屋に来たミカエルに、「裏切り者~~~」とゆりは恨めしげに言っていた。
「裏切り者って」
「ミカエルとハインリヒは絶対反対してくれると思ったのにい」
「でも、王妃も嫌じゃなかったんでしょ? 嫌だったら本人にずばっと言えばいいんだし」
「そりゃカーライル様のことは好きだけど、恋人となると話は別でしょ。以前必死になってカーライル様が変になったのを元に戻したんだし。ミカエルは本当にいいの?」
「私も、カーライル様のことは好きですからね。まあ、いいかなあと」
「絶対反対すると思ったんだけどなあ」
「10年前なら反対しましたけどね、今は、王妃もいろいろ複雑になってきたんで」
「う……」
ゆりはミカエルの言葉の裏を察したようだった。ゆりはそろりとミカエルに近づいて、腕を組んでいた。
「ミカエル好き~~」
「本当ですかあ?」
「うん。好きだよ」
「じゃあ体もつながりましょうよう」
「へへへ」
ゆりは笑ってごまかしていた。
「まだそんなに嫌なんですか?」
「みんなのためよ。今の私強烈過ぎるらしいよ。ハザーク様がそう言ってる。ミカエルやフリット、ハインリヒはともかく、シャナーンは彼女との先が長いからねえ。私の欲望で他の女の子達の幸せを奪うってのもね。ただでさえこうなっちゃってるのに。やっぱり老後かな?」
「老後やだー」
「大丈夫。神の国でなんかもらってくるから。最もその時まで神の国に行けてたらの話だけど。行けてない可能性は高いかも。じゃあ中年ギリで」
「中年ギリ」
「その頃のミカエルも、渋くてかっこいいんだろうなあ」
ため息をついたミカエルは、ぷっと笑っていた。
「まあいいですよ。でもそのかわり、ずっと私達の王妃でいてください。どこに行っても、ちゃんと戻ってきてください」
「うん」
「約束ですよ」
「うん!」
ゆりは目一杯うなずいていた。

北の街、役場前の道を占い屋が通り過ぎていた。
(たいした騒ぎが起きなかったようだから、何もなかったようだな)
昨日から気にしていたが、事件が起きたとの話も聞かなかった。
昨日の早朝、役場の裏に男を放置したのはこの男ではなかった。朝の散歩をしていて、役場の前に人だかりができていたので偶然男のことを耳にしたのだが。
(俺以外にそんなことをするやつがいるのかね? どうもあやしい)
そう思い一応忠告したのだった。
(何もなかったのならよかったが)

だが夕方、情報屋がその情報を持って来た。
「昨日役場の裏にいたやつ、戦士に殺されたらしいですよ」
「へーこっちはどうだったんだ? 誰か傷ついたとか」
「いえ」

(ってことはやっぱり怪しいヤツだったか。今の所王妃様は守れてないが、誰か死ねば王妃様が悲しむ。悲しんで体調不良とかになるかもしれない。まあ遠回しに守ってるよな)
占い屋は一人うなずいていたのだった。

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