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13部 番外編

お話が聞きたい

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早朝、クーガが神殿の周りをほうきで掃いていると、フウガがやってきた。
「おはようございます。クーガ様、俺の給料をもらいに来ました!」
「随分早く来ましたね。ま、いいですよ。取ってきますのでちょっと待っていてください」
「はい」
クーガは神殿の中に入っていき、フウガは庭にいるクジャクを眺めていた。
「七色父ちゃんは今日はいないのか」
クジャクのジャックはいなかったが、ジャックの子供達はいた。子供達も結構大きくなっている。
「かわいいなあ」
フウガが手を出すと、クジャクたちはフウガの指をくちばしでつついていた。
クーガが戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
フウガはお金が入った袋をうれしそうに受け取って懐に入れていた。
「中を確認してください」
「あ、いいです。どうでも」
「どうでもって、お金が早く欲しかったんじゃないんですか?」
「早くクーガ様に会いたかっただけです」
「はあ」
「あっちでの仕事は楽しかったんですけど、実は禁断症状が出て大変でしたよ」
「禁断症状?」
「もー早くクーガ様のお話が聞きたいんです。今日はどこで話されますか?」
クーガはうきうき顔で聞いていた。
「今日は十時からノイトラールの教会で話しますよ」
「ノイトラールですね。わかりました。では後で」
フウガは走って去って行った。
「帰ったばかりなのに」
クーガは苦笑していた。

ノイトラールの教会といえば、でかいのは一つだけである。フウガはあわてて港から船に乗った。船には顔見知りの女性達がいた。
「あら、フウガ君、帰ってきたのね。お帰りなさい」
「お帰り~」
「ただいまー」
船に乗っていたのは聖地に住んでいるクーガファンクラブの女性達だった。目的はフウガと一緒のようである。
「聞いて聞いて、俺、クーガ様に瞬間移動で他国に連れて行ってもらったんだよ。いいだろ」
「いいなあ。お仕事は楽しかった?」
「すごく楽しかった。俺、木像作りの才能に目覚めたんだぜ。クーガ様の木像を彫って部屋に飾るんだ。みんなも欲しい?」
「欲しい! 絶対欲しい!」
「私も! 売ってよ!」
「じゃあやっぱり一杯彫らなきゃな。クーガ様には内緒だぜ。だめって言われちゃったからね」
「わかったわ」
「ところで会長は今日は仕事?」
ファンクラブ会長はいなかったのでフウガが聞いた。
「会長は一つ前の船で行ったわよ」
「そうなんだ」
「そうそう、蛇の国の王妃様、ファンクラブの会費に宝石を送ってきたんだって。さすがお金持ちよね。一生ファンクラブの会員でいてくれるみたいよ」
「そうなんだ。クーガ様の魅力は一族を超えるからなあ。すげえよなあ」
「すごいわよねえ」
クーガの話で盛り上がっている間に船は対岸のノイトラールについた。天気は曇り空で肌寒かったが、フウガ達の心は晴れ晴れとしている。

九時には船が着き、フウガ達は教会へと向かった。教会にはすでに列ができていて、フウガ達はその列に並んだ。今日は一番前に座るのは無理のようである。列にはノイトラールにいるファンクラブの会員達もいて、フウガ達はその会員達に手を振っていた。
「フウガ君お帰りー」
「ただいまー」
列の前の方にはファンクラブ会長もいた。ノイトラールの教会でも牧師の説教がされているが、クーガが来ると、いつもの倍は人が集まっている。時間前に列ができるのもクーガが来る時だけである。
教会の扉が開き、一同はぞろぞろと教会の中へと入っていった。
「この列じゃ、三列目くらいかなあ」
「そうね」
椅子は百席あり、十ずつ並んでいる。フウガ達は三列目に座ることができた。ちなみにフウガは図体がでかいので、後ろに座る者はちょっと気の毒である。五分前にはわらわらと人が集まり、席はいっぱいになった。立ち見もいる。中には着飾った女性達もいた。ノイトラールの娼婦達である。クーガのお話の時は、娼婦達もやってきている。中には性関係に厳しい国もあるのだが、独身である限り、仕事が娼婦でも蔑まれたりはしない。ただし、結婚すると話は別である。結婚して娼婦を続けることはできない。もし娼婦を続けると、その女性ではなく、相手の男が甲斐性がないとして街の人達に罵られることになるのである。

時間になり、クーガが壇上にやってきた。
「クーガ様」
「今日も素敵!」
女性達から黄色い声があがっている。
クーガは金色の猫をだっこしていた。
「あれ? 猫を抱っこしてる」
フウガはその猫を初めて見るのだった。
「あの猫は神の国生まれの猫なのよ。名前はリーファちゃん。クーガ様が好きでたまに来るんだって」
横にいた女性がフウガに説明した。
「へー綺麗な猫だなあ」
「クーガ様とあの猫、すごく似合うわよね」
「うん。ぴったりだ」
猫はクーガの腕から降りて、すたすたと歩いて行き、一番前の机に上がって座っていた。
「あ、会長の前じゃない。いいなあ」

クーガは席を見回して、「おはようございます」と挨拶をした。
「おはようございます!!」
「今日も大勢ありがとうございます。では今日は風の神様のお話でもいたしましょう」
クーガのお話が始まったのだった。

三十分ほどで話は終わった。
「やっぱりクーガ様のお話はいいなあ。心が洗われる……」
フウガは数ヶ月ぶりにクーガの話が聞けて、満足げである。

お話が終わるとファンクラブ会員達にとってはお楽しみの時間がやってくる。クーガとのふれあいの時間である。クーガが顔見知りの面々に声をかけてくれたりするので、会員達はそう呼んでいる。

「あなたがいらしていたんで、急遽話を変えましたよ」
壇上から降りたクーガは、ある女性に声をかけていた。ファンクラブの会員で、クーガの話を全部記録している女性である。今日も紙にペンを走らせていた。
「あらそんな……そんなに私のことを意識してくださっているなんて……」
と女性は恥ずかしげである。
クーガの話のレパートリーは広いが、一年中違う話をする、というのも結構大変である。同じ話になることだってある。
フウガは猫が気になったので、猫に近づいてみた。猫は机の上で座ったままである。
「何か背負ってると思ったら、かばん? すごく細かい作りだなあ。すごいなあ」
フウガは職人らしく、猫が背負っているかばんに注目していた。
猫のリーファは青い布地のバッグを背中に背負っていた。そのかばんがよくできている。

「クーガ様、このかばんには何が入ってるんですか?」
フウガはクーガに聞いてみた。
「さあ、その時によって違うみたいですよ」
「この猫ちゃんは市場の魚屋で買い物もしてるのよ。その代金が入ってるの」
ファンクラブの会長が説明した。
「じゃあお金が入ってるのか?」
「ううん。神の国の品物が何か入ってるのよ。美容液みたいなのやら香水みたいのやら、お花が入ってることもあったのよ。一度カサンドラ様が猫の買い物の様子を見にいらしたのよ。それで感心してたって」
「へー」
「そうなんですか」
クーガも知らなかったようだ。

「クーガ様、握手してください」
「俺も」
「いいですよ」
クーガはファンサービスにみんなと握手をしていた。
「クーガ様、今度店に来てください。大サービスしますから」
着飾った女性達が言っていた。
「一度いらしてください。絶対後悔はさせません」
「はあ……」
クーガはちょっと困った様子である。ちなみに、こんな握手会があるのもクーガの時だけで、いつもの牧師の時は、相談がある者だけ残り、他の者はさっさと帰っている。
一通り皆と握手をして、「それでは私はこれで」とクーガは帰ることにした。猫は机から降りてクーガに飛びつき、クーガは猫をだっこしていた。

「クーガ様さようなら」
「次を楽しみにしてますね」

クーガは皆に礼をしてその場で消えたのだった。

「あー、今日も良い日だったわ。それじゃ、これから何か食べに行きましょう」
会長の誘いに会員たちは十人ほどレストランへと移動した。そこで、フウガは皆に教会造りを手伝った話をした。
「蛇の国でもクーガ様のファンが一杯増えちゃったよ。クーガ様はすごいよなあ」
「うれしいけど、あまり他国に行かないで欲しい。私達だけのクーガ様でいてほしい!」
「まあまあ」
「最近のクーガ様、ますますステキなのよねえ。男の色気を感じるというか、もう、しびれる!」
「わかるわかる。理由はさっぱりわからないんだけど」
「1000歳になって心境の変化でもあったのかしら」
「どうなのかしらねえ」
「なあ、会長、クーガ様の次のお話の予定は?」
「次はね、明日の午後二時から、聖地の下の教会であるわよ」
聖地の下の教会とは、神殿ではなく、聖地入り口の方にある大きな教会のことである。
「明日の二時ね」
「フウガ君はいつから働くの?」
会長が聞いた。
「いずれ働くけど、とりあえず、金はあるから、クーガ様の木像を彫ろうかな。小さいのを彫って部屋に飾るんだ」
「え? クーガ様の木像? 私も欲しい」
「私も!」
「みんなの作るよ。俺木像彫りに目覚めちゃったからね」
「楽しみー」
和気藹々と時間は過ぎていったのだった。


一方、聖地に戻ってきたクーガは、先ほどの教会で強引に渡された紙を眺めていた。お店の割引券である。猫のリーファは聖地に戻ると消えていた。市場にでも行ったのかも知れない。
部屋の扉がノックされて、扉を開けるとおつきの者がいた。
「クーガ様、お帰りなさい。こちら手紙です」
おつきの者は手紙の束をクーガに渡した。
「ありがとう。そうだ、これ、いりますか?」
クーガはおつきの者に割引券を渡していた。おつきの者は若い男である。
「え? これは……」
「娼館の割引券です。もらったんですが、私は行かないので」
「はあ、私も行くことはないですが、でもいただいておきます」
おつきの者は割引券を受け取って去って行った。

(実は行ってるんだな)
そう思ったクーガだった。

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