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13部 番外編

ままならん

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 神の国である。
 七の月、ハロルドにとっては待望の戦い系妖精マチルダが産まれた。戦いに特化した妖精が生まれることは稀なため、ハロルドは心底喜んでいる。
(神ならばもっとよかったが、贅沢はいってられないな。生まれつき戦いのセンスがあるなんて素晴らしい)

そのマチルダだが、最初の頃剣の稽古場にやってきただけで、それからは現われなかった。

「マチルダは一体どこにいるんだろうなあ。またルチアにひっついて海か? どうせならルチアをこっちに誘えばいいのに」
 ハロルドはぶつくさ言っていた。妖精というものは元来自由なものである。たとえ自分の神気から産まれたとしても、命令にすべて従わせることはできない。
「他の妖精の相手とかしてほしいんだがなあ」
「剣の稽古がつまらないんじゃない?」
 キュリアがずばり言った。
「え? 剣の妖精なのに?」
「本番にはきっと活躍してくれるよ」
「本番……本番のための練習なんだがなあ……大体マチルダはサラディンの力も入っているんだから、水は苦手じゃないのか? 二人で泳いでるのかな」
 ハロルドはその場面を想像している。
「そうだ。マリナールに聞いてよう」
 ハロルドは雲の上の神殿に行き、アシュランに頼んだのだった。アシュランはマリナールと映像でつながることができるのである。
 アシュランの魔法で床にマリナールの姿が浮かんだ。マリナールに話を聞くと、今日もルチアとマチルダは海に行っていた。マチルダはルチアが海に入っている間、海岸でぶらぶらしているらしい。しかも海の妖精達に戦いを挑まれたりしてその相手もしているようだ。

「そういうことするなら、こっちですればいいのに。私の娘なのにずるいぞー」
ハロルドはつい小声でぼそぼそ言っている。
『ははは、うちの連中は喜んでおるわ。マチルダはもしかして、ルチアの護衛的存在なんじゃないのか? それで一緒にいるとか』
「え? そーなのか? アシュラン」
ハロルドがアシュランに聞いた。
「え? さあ、ただ仲が良いだけじゃないのか?」
 とアシュラン。
『とにかく二人とも良い子だな。それではな』
 マリナールは姿を消した。

「うーマチルダがとられたあ」
 ハロルドは子供のように言っていた。
「まあいいじゃないか。本番には活躍するだろう」
「仲間の連携とかそういう稽古がしたいんだが……」
「ははは」
 アシュランは笑っているだけだった。

「ところで火の妖精二人組は使えそうか?」
 アシュランが聞いた。
「ああ、あの二人もセンスはあるぞ」
「そうか。それはよかった」
「ライオネルの子供、もっと産まれないかな」
 ハロルドはそっちにも期待していた。

 地上に降りると、ハロルド神殿の近くの草原で、犬とキメラのハンターとリリーが走り回っていた。
「しかしけったいな生き物だ……」
 ハンターの尻尾は蛇が一匹、リリーの尻尾は蛇が二匹いる。リリーの首輪の神器のようなものがハロルドも気になっている。
 草原ではジェイクと妖精達も剣の稽古中だった。
「しかし、考えてみるとジェイクは真面目だよな」
 ハロルドは今はこうだが、大昔は真面目という言葉からはほど遠いくらいだった。それを考えると、ジェイクは真面目すぎるような気がする。今までハロルドの言葉に逆らったこともない。
「たまには逆らってもいいんだぞ」
 ハロルドはジェイクからはかなり離れた場所でぼそっと言っていた。
「ブー」
 大音量のラッパの音が聞えてきた。突然近くで聞えたのでハロルドはびっくりしている。
 ハロルドの後ろにいつの間にやらヴァルが座っていた。
「驚いた。いつ来たんだ?」
 近くを風の妖精が飛んで行っているのが見えた。妖精が連れてきたようだ。
「ブー」
「ヴァル、練習するのはもっと大きくなってからでいいんじゃないのか?」
「ブーブーブー!!」
 ヴァルはかまわずラッパを吹いている。動物達はうるさかったのか走り去ってしまった。
「ブーブー」
「わかったわかった」
「ブーーーーー」
「ランスロットもヴァルも早く大きくなればいいな」
 草原にしばらくラッパの音が響いていたが、妖精達は去って行くわけにもいかず、剣の稽古を続けていたのだった。
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