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13部 番外編
巨大なイカ(16話番外編)
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8の月聖地、ハロルド神殿の奥にある休憩室にて、対岸の街ノイトラールで本日発行されたばかりの新聞を読んでいたのはスペードである。ちなみに聖地でも新聞が発行されているが、そちらは月に一度だけで、新聞というよりは会報のようなものである。各神殿での催し物情報や事件などが載っている。そして神様のありがたい話ももちろん載っている。
「へー巨大イカ、また巨大イカが現われたのか。今回は人助け? 本当かな」
新聞の一面見出しには、「巨大イカ子供を助ける」の文字があった。その記事を読んでみると、二日前、ノイトラールの海岸で泳いでいた子供達の一人が溺れて、なんとイカに助けられたというのである。イカといえば、数年前に漁船を転覆させる巨大イカが現われて漁師達が困り、ハロルドがイカをつかまえて持ち去ったということがあった。
「あのイカもでかかったがなあ。今度は人助けってか。そんな親切なイカが世の中にいるとは」
仲間の神官がやってきた。同時に香ばしい匂いが漂ってきた。
「イカ買ってきました。食べます?」
「いや、いい」
「イカ焼き、俺好きなんですよ」
その神官はイカの姿焼きを紙袋から取り出してむしゃむしゃ食べ出した。商店街では結構焼いたイカが売られている。
「これ知ってるか? 巨大イカが子供を助けたって話」
スペードが新聞を見せた。
「知ってますよ。なんでも神々しいイカだったみたいですよ。そのイカは捕獲しちゃならんと、マリナール様からのお達しが出たくらいですから」
「えー? 本当か?」
「本当ですよ」
聖地には海の神の神殿はない。だが、海岸に住む者達のマリナールに対する信仰は厚い。漁師達は海に入る前にマリナールに祈りを捧げて入る決まりがある。海側からのお達しは海の伝令神がやってきたり、アシュランの神殿の神官長を通したりして聖地に伝えられる。
「海の伝令神が今朝、聖地に来てたみたいですよ」
「それは知らなかった」
「マリナール様が懇意にしてるイカなんですかねえ」
といいながら神官はイカを食べていたのでついスペードは笑っていた。海にはよくイルカもみかけるが、イルカは海の神の使い的生き物とされていて、漁師は絶対捕ることはない。食べてはいけない海の生き物は他にもあって、角がある巨大な一角鯨、金色のマンボウ、金色のカレイなどがいる。それらは人間達が安易に捕まえられる所にはいないので間違えて食べられることもないだろう。それに巨大なイカが加わったというわけだった。
「イカとどうやって仲良くするのか想像できないですが」
「そうだな。その巨大イカ、ちょっとみてみたいな。以前ハロルド様が捕まえたイカとどう違うのか気になる」
「そういえば、あのイカ、どこに持っていったんですかね」
「さあ」
まさかゆりが食べていたとは、スペードもちらりとも想像していなかった。
アシュラン神殿の外にいてクジャクたちを眺めていたクーガは、声を聞いたような気がして辺りをうろついた。声は遠くから聞えてくるようだ。灯台にいた子供達がこちらを見て叫んでいる。
クーガは灯台に移動した。灯台には子供が3人いた。
「どうしたの?」
「クーガ様、アレを見て!」
子供の一人がクーガに双眼鏡を渡した。
「海に何かいるよ」
クーガは双眼鏡を借りて子供達が指す方角を見た。確かに、白い大きな物が海の中にいるのが見える。
「あれイカじゃない?」
子供が言った。
「イカ? ここからじゃよくわからないが、大きいね」
「ノイトラールの海岸で巨大なイカが出たんだよ。溺れた子供を助けたってお母さんが言ってた」
「そうなの? それは知らなかった。イカがどうやって子供を助けたんだい?」
「手でひょいっと陸にあげてくれたらしいよ」
「へー」
クーガは双眼鏡を子供に返した。
白いイカは太陽の光の加減か、キラキラ輝いて見えた。悪い感じはしない。そのイカがひょいっと頭を海面の上に出した。
「あ!」
肉眼でも白い物が海面から出ているのが見える。
「こっちに気がついたのかな?」
子供達は双眼鏡を回していた。巨大なイカは、頭を少し出すとまたもぐり、泳いで行ってしまった。
「僕が溺れても助けてくれるかな?」
「これ」
クーガが子供の一人をじろりと見た。
「冗談ですよ。イカみたさに溺れた振りなんてしません」
「したら怒りますよ」
「はーい」
クーガは灯台から下に降りた。
「人助けをするイカか。世の中にそんな親切なイカがいるとは」
クーガは巨大なイカが子供を助ける所を想像しながら、神殿に戻ったのだった。
「へー巨大イカ、また巨大イカが現われたのか。今回は人助け? 本当かな」
新聞の一面見出しには、「巨大イカ子供を助ける」の文字があった。その記事を読んでみると、二日前、ノイトラールの海岸で泳いでいた子供達の一人が溺れて、なんとイカに助けられたというのである。イカといえば、数年前に漁船を転覆させる巨大イカが現われて漁師達が困り、ハロルドがイカをつかまえて持ち去ったということがあった。
「あのイカもでかかったがなあ。今度は人助けってか。そんな親切なイカが世の中にいるとは」
仲間の神官がやってきた。同時に香ばしい匂いが漂ってきた。
「イカ買ってきました。食べます?」
「いや、いい」
「イカ焼き、俺好きなんですよ」
その神官はイカの姿焼きを紙袋から取り出してむしゃむしゃ食べ出した。商店街では結構焼いたイカが売られている。
「これ知ってるか? 巨大イカが子供を助けたって話」
スペードが新聞を見せた。
「知ってますよ。なんでも神々しいイカだったみたいですよ。そのイカは捕獲しちゃならんと、マリナール様からのお達しが出たくらいですから」
「えー? 本当か?」
「本当ですよ」
聖地には海の神の神殿はない。だが、海岸に住む者達のマリナールに対する信仰は厚い。漁師達は海に入る前にマリナールに祈りを捧げて入る決まりがある。海側からのお達しは海の伝令神がやってきたり、アシュランの神殿の神官長を通したりして聖地に伝えられる。
「海の伝令神が今朝、聖地に来てたみたいですよ」
「それは知らなかった」
「マリナール様が懇意にしてるイカなんですかねえ」
といいながら神官はイカを食べていたのでついスペードは笑っていた。海にはよくイルカもみかけるが、イルカは海の神の使い的生き物とされていて、漁師は絶対捕ることはない。食べてはいけない海の生き物は他にもあって、角がある巨大な一角鯨、金色のマンボウ、金色のカレイなどがいる。それらは人間達が安易に捕まえられる所にはいないので間違えて食べられることもないだろう。それに巨大なイカが加わったというわけだった。
「イカとどうやって仲良くするのか想像できないですが」
「そうだな。その巨大イカ、ちょっとみてみたいな。以前ハロルド様が捕まえたイカとどう違うのか気になる」
「そういえば、あのイカ、どこに持っていったんですかね」
「さあ」
まさかゆりが食べていたとは、スペードもちらりとも想像していなかった。
アシュラン神殿の外にいてクジャクたちを眺めていたクーガは、声を聞いたような気がして辺りをうろついた。声は遠くから聞えてくるようだ。灯台にいた子供達がこちらを見て叫んでいる。
クーガは灯台に移動した。灯台には子供が3人いた。
「どうしたの?」
「クーガ様、アレを見て!」
子供の一人がクーガに双眼鏡を渡した。
「海に何かいるよ」
クーガは双眼鏡を借りて子供達が指す方角を見た。確かに、白い大きな物が海の中にいるのが見える。
「あれイカじゃない?」
子供が言った。
「イカ? ここからじゃよくわからないが、大きいね」
「ノイトラールの海岸で巨大なイカが出たんだよ。溺れた子供を助けたってお母さんが言ってた」
「そうなの? それは知らなかった。イカがどうやって子供を助けたんだい?」
「手でひょいっと陸にあげてくれたらしいよ」
「へー」
クーガは双眼鏡を子供に返した。
白いイカは太陽の光の加減か、キラキラ輝いて見えた。悪い感じはしない。そのイカがひょいっと頭を海面の上に出した。
「あ!」
肉眼でも白い物が海面から出ているのが見える。
「こっちに気がついたのかな?」
子供達は双眼鏡を回していた。巨大なイカは、頭を少し出すとまたもぐり、泳いで行ってしまった。
「僕が溺れても助けてくれるかな?」
「これ」
クーガが子供の一人をじろりと見た。
「冗談ですよ。イカみたさに溺れた振りなんてしません」
「したら怒りますよ」
「はーい」
クーガは灯台から下に降りた。
「人助けをするイカか。世の中にそんな親切なイカがいるとは」
クーガは巨大なイカが子供を助ける所を想像しながら、神殿に戻ったのだった。
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