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13部 番外編

あこがれの神様

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 私のひいおじいちゃんの自慢は、「わしは聖地に巡礼に行ったことがある」だった。そしてその話を聞いてうちのおじいちゃんも聖地に行くのが夢になった。うちは代々蛇の国の城の北にある大きな街で雑貨店を開いている。お城にだって商品を卸している。おじいちゃんはあるとき2月も店を他の者に任せて巡礼に行ったのだ。その時息子であるうちのお父さんも連れて行った。お父さんはその時まだ10歳の子供だったが、初めての長旅でわくわくしていたようだ。

 国の北から西に早馬というものすごく速い馬車が走っている。値段もかなり高いが、それに乗ればなんと最短で、たった10日でノイトラールという街につくそうだ。しかし、速い代わりに慣れない者は結構大変らしい。めまいなどの後遺症に悩まされるらしい。おじいちゃんもお父さんも、ノイトラールにつくころにはふらふらになっていたようだ。ノイトラールで薬を処方されて、三日ほど休んでようやく聖地に行くことができた。
 聖地はちょうど春、花が咲き乱れ景色は美しく、二人は初めて見る海にも感動したらしい。そして憧れの神様の神殿。神殿を巡っている間、お父さんは、神殿の外でかわいい動物を見つけて、ついその動物を追っている内に迷子になってしまったようだ。林に入り込んでしまい、どうやって帰ったら良いのかわからず泣いてしまったらしい。
すると、ザザザと風が起こり、不思議な人物が側に降りてきた。

「どうしたの?」
 その人は優しく話しかけてきてくれた。
「迷子になっちゃった」
「そうなんだ。どこの神殿にいたのかわかるかな?」
「さっきまでダーナ様の神殿にいたの」
「随分歩いたんだね。連れて行ってあげるよ」
 その人は優しく手を出してくれた。手を握ると、その人はお父さんの背中に手をあてた。二人の周りに風が起こり、なんと宙を舞い上がった。お父さんが出会ったのは神様だった。風の神様ウィル、お父さんはその神様にダーナ様の神殿まで送ってもらったのだ。その時のことは強烈にお父さんの記憶に残っているようだ。他の神殿を巡ったことはもう忘れたようだが。お父さんはそのこともあり、神様の中ではウィル様に特別な思いがある。そして娘の私も、お父さんの影響か、ウィル様が大好きだった。

 そして娘の私も、先日ウィル様に出会って飛ばせてもらうことができた。なんと親子そろってである。
 その話をお父さんにすると、「親子そろってウィル様に縁があるなあ」とお父さんも喜んでいた。
「ウィル様、想像通りのかっこよさだったわ。側に寄って、抱っこされて、もう幸せだったわあ」
「よかったなあ。わしも懐かしいわ」
「本当に素敵だったわあ」
 博物館に神様がやってきた話は新聞にも載ったし、人々の話題にあがっていた。神様が自分の手を見に来るというのが面白い。「ハロルド様や他の神様も見に来ないかしら?」などと人々は期待もしている。

「手も素敵だけど、顔も素敵だったわ。とっても!」
 私の部屋にはウィル様の絵画が飾ってあるが、絵画の一〇〇倍、実物の方がかっこよかった。
「声も素敵だったし、実際にお話ができるなんて……ハロルド様やラーズ様もそりゃステキだけど、私はやっぱりウィル様が一番好きだわ。優しいし。一生信者でいておくれって言われちゃった♪ きゃはは」
 憧れの神様に出会えたのだから、はしゃぐのも無理はない。
「ところで、お前いつまで王妃様の侍女をするんだ? そろそろ帰ってきて店を手伝ったらどうだ?」
 お父さんが言った。
「店は、ハンスがやればいいんじゃない?」
 ハンスは弟である。
「ハンスのやつも城に憧れてるんだよなあ。困ったヤツよ。そうだ。王妃様にこれ献上しといてくれ」
 私はお父さんから渡された物を王妃様に渡した。王妃様に渡す物は城の侍女であろうが、検閲がある。それをクリアして王妃様に渡すと、王妃様はすごく驚いていた。
「え? 扇子だ。えー扇子なんてこっちでは初めてみたわ。すごい」
それはたためる団扇である。王妃様は扇子を開いたり閉じたりしている。竹の軸に紙が貼ってあって、その紙にはクジャクの絵が描かれていた。

「鳥の国の物らしいですよ」
「キレイ。ありがとう~~~ってお父さんに言っておいてね」
「はい」
「そろそろお店を手伝えって言われたんじゃないの?」
 王妃様は扇子で扇ぎながら私に聞いた。
「まだまだ当分は王妃様の側にいたいです」
「そう。私は歓迎だけどね」

「ウィル様もいいけどやっぱりラーズ様よね……」
 ラーズ様大好きの侍女仲間がぼそりと言っていた。ちなみに、彼女とは同室である。
「ふっ、さては妬いてるわね。私は抱っこされて飛ばせてもらったもんね」
「妬いてないわよーだ」
「ウィル様はガーベラ様の恋人じゃないから、会えたのはすごく運がよかったわあ」
「そうよね。ラーズ様に会うよりも確率は低いものね。ついてたね」
「すっごくついてた!」
 二人で部屋にいると、扉がノックされた。
 やってきたのはミラさんである。
「今年で侍女をあがりたい人はいる? みんなに聞いてって言われたの」
「「いません」」
 私達は同時に言っていた。
「そう。わかった。じゃあ来年の募集はなしね。言っておくわ」
 ミラさんは去って行った。

 数日後、「来年度の王妃様の侍女の募集はありません」との記事が小さく新聞に載っていた。きっとがっかりした女性が何人もいたことだろう。

「だって当分はやめられないわ。毎日がわくわくするんだもの」
「だよね」
 私達は何度もうなずいていたのだった。

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