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13部 番外編
だめですよ
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およそ3ヶ月ぶりに、黒豹がゆりの夢にやってきた。
「え! スペードさんだ! なんか久しぶりだー」
と黒目のゆりは喜んでいた。
(こんばんは)
とスペードは心の中で挨拶をしている。
「もーしばらく来ないから、虎と狼を紹介してもらう所だったよ」
(危ない所だった……)
とスペードはほっとしていた。
つい先日、アシュランに呼び出されて対話の間でスペードはアシュランと会っていた。
「この間、お前によく似た黒豹に出会ってなあ」
などとアシュランは言っていた。完全にあれはスペードだったとわかって言っているようだ。スペードもどうアシュランに説明していいやらわからず、「あれは私です」と言うべきか、「そうですか」と聞き流すべきか迷った。アシュランは、そんなスペードの反応を楽しんでいるかのようにも見える。
(困ったな……大神に嘘はつけないし、詳しくいきさつを聞かれたらどうしよう)
「本当に似てたな。というより、お前だろ? 本人じゃまずい理由でもあるのか?」
「ええ……と、はい、そんな感じでして……」
スペードは首の後ろをなでながらちょっと困っていた。
「そうか。実は、お前は知らないだろうが、この世界には長い間魔法をかけられている者達がいるんだ。獣に姿を変えられている者とかな。かなり長いからさすがにかわいそうかな、と思ってはいるんだが……」
アシュランはあごをなでながら言っていた。
「もしかして……虎と狼の話しをされてます?」
スペードはおずおずと聞いていた。
「そう」
とアシュランはうなずいている。
(まじか。あれは正夢か!?)
とスペードは驚いていた。スペードはゆりの元に、元人の虎と狼が来る夢を見たのである。その二人は「彼女の愛が得られれば人間に戻る」だの言っていた。
「ちなみに蛇の男も長かったが、最近解放されてた。彼女は彼とは恋愛関係ではないようだが、いろいろ呪いも複雑だな。私でさえ驚く」
「……あのー虎と狼を強引に連れて行ったりは……」
「彼女が望まないとなあ。黒豹だけじゃ寂しいと思ったらその時は……連れて行っちゃおうかな」
「世の中に優しい女はたくさんいると思うんですが……」
「彼女が面白いんでつい」
などというやりとりがあったのだった。
(やばい所だった。危ないな。ほんと)
「ガル」
スペードは声をあげて訴えてみた。
(動物は俺だけにしといてください。元人の虎と狼の男って、完全にだめでしょ。絶対だめですよ)
などと思っていたら、新たな男の名前が出て来た。ゆりはジロウがどうたら言っている。
「ジロウ君って犬ですよ」
目が違うゆりが教えてくれた。
(犬? それも呪われてる?)
とスペードは勘違いしていた。
一般的な犬は野性的で、犬や狼の一族の者にしかなつかないはずなのだ。
(すでに犬はいるのか……しかし人になっても彼女とどうこうなるのはだめだろ。さすがに。蛇の王妃様だし)
などとバカな想像をしていたら辺りが白くなってきた。
夢の雰囲気が変わって得体の知れない動物の影が見えて、スペードはとっさにゆりの前に出ていた。だが、そこにいたのはスペードもよく知っている動物だった。ねぼすけのペットのバクである。そしてねぼすけもやってきた。スペードは安心して少し離れた所で寝そべっている。
ねぼすけは、ゆりにスペードとの夢のことを聞いていたのでスペードはちょっとどぎまぎしていた。
「スペード様、怖かったけど、ステキでしたよ」
とゆりは言っていた。
(怖かったけど……やっぱり怖かったよな。ごめんね)
蛇の目のゆりはスペードの反応が気になったのかじーとスペードを見ている。スペードは蛇の目のゆりからも顔を背けていた。
スペードがいたせいか、ねぼすけは早々に消えた。
(何の用で来たんだろう……)
「エリザベスちゃんは恋人はいるのかな。あの一頭だけなのかなあ」
黒目のゆりは首をかしげていた。
「花柄で女の子らしかったね。夢でのペットなんて」
(エリザベスは見た目がかわいいだけですけどね)
スペードもエリザベスの怖い所を見たことはないのだが、あれはかわいいだけの生き物ではないことは知っている。
「ねぼすけ君はすごいね。他人の夢に行けるなんて。スペードさんは実際に豹の国にいるのかな。寝てるときはスペード様の夢に出て来て、時々私の夢に来てるのかなあ」
ゆりはそんな想像をしながら黒豹をなでまくっていた。
(本当のことを知ったら、もうなでてくれないだろうなあ……)
そして相変わらず、目が違うゆりはスペードの反応を観察している。
スペードはゆりの膝に手を乗せて、「ガル」と声をあげていた。
(とにかく、虎と狼はだめですよ)
「わかってるわかってる。スペード様には、黒豹君が時々遊びに来てることは内緒にしとくからね」
とゆりは言っていた。
(全然伝わってない……まあいいか。いやよくないか? 呪われた犬も気になる。やっぱり目が違う方に手紙を出すか?)
スペードはちらりと目が違うゆりを見た。そちらのゆりはちょっとにやにやしていた。
「ちゅーしちゃえ、ちゅー」
などと茶化している。
スペードはとことこと目が違うゆりに近づいて、爪を立ててゆりの膝に手をおいた。
「いった! 何するの。ひどっ」
スペードはつーんと横を向いている。
「そういうことするなら今度マタタビを持ってきますからね」
目が違うゆりは意地悪げに言っていた。
ちなみに猫系の国にはマタタビ酒があり、それを飲むと結構悪酔いしてしまう。
スペードは黒目のゆりの後ろに隠れてしまった。
「マタタビは嫌いだってさ」
「酔わせたら面白そうなのになあ」
「やめなさい」
(やっぱり手紙出すのやめようかな。迷うな)
などと思っているスペードだった。
「え! スペードさんだ! なんか久しぶりだー」
と黒目のゆりは喜んでいた。
(こんばんは)
とスペードは心の中で挨拶をしている。
「もーしばらく来ないから、虎と狼を紹介してもらう所だったよ」
(危ない所だった……)
とスペードはほっとしていた。
つい先日、アシュランに呼び出されて対話の間でスペードはアシュランと会っていた。
「この間、お前によく似た黒豹に出会ってなあ」
などとアシュランは言っていた。完全にあれはスペードだったとわかって言っているようだ。スペードもどうアシュランに説明していいやらわからず、「あれは私です」と言うべきか、「そうですか」と聞き流すべきか迷った。アシュランは、そんなスペードの反応を楽しんでいるかのようにも見える。
(困ったな……大神に嘘はつけないし、詳しくいきさつを聞かれたらどうしよう)
「本当に似てたな。というより、お前だろ? 本人じゃまずい理由でもあるのか?」
「ええ……と、はい、そんな感じでして……」
スペードは首の後ろをなでながらちょっと困っていた。
「そうか。実は、お前は知らないだろうが、この世界には長い間魔法をかけられている者達がいるんだ。獣に姿を変えられている者とかな。かなり長いからさすがにかわいそうかな、と思ってはいるんだが……」
アシュランはあごをなでながら言っていた。
「もしかして……虎と狼の話しをされてます?」
スペードはおずおずと聞いていた。
「そう」
とアシュランはうなずいている。
(まじか。あれは正夢か!?)
とスペードは驚いていた。スペードはゆりの元に、元人の虎と狼が来る夢を見たのである。その二人は「彼女の愛が得られれば人間に戻る」だの言っていた。
「ちなみに蛇の男も長かったが、最近解放されてた。彼女は彼とは恋愛関係ではないようだが、いろいろ呪いも複雑だな。私でさえ驚く」
「……あのー虎と狼を強引に連れて行ったりは……」
「彼女が望まないとなあ。黒豹だけじゃ寂しいと思ったらその時は……連れて行っちゃおうかな」
「世の中に優しい女はたくさんいると思うんですが……」
「彼女が面白いんでつい」
などというやりとりがあったのだった。
(やばい所だった。危ないな。ほんと)
「ガル」
スペードは声をあげて訴えてみた。
(動物は俺だけにしといてください。元人の虎と狼の男って、完全にだめでしょ。絶対だめですよ)
などと思っていたら、新たな男の名前が出て来た。ゆりはジロウがどうたら言っている。
「ジロウ君って犬ですよ」
目が違うゆりが教えてくれた。
(犬? それも呪われてる?)
とスペードは勘違いしていた。
一般的な犬は野性的で、犬や狼の一族の者にしかなつかないはずなのだ。
(すでに犬はいるのか……しかし人になっても彼女とどうこうなるのはだめだろ。さすがに。蛇の王妃様だし)
などとバカな想像をしていたら辺りが白くなってきた。
夢の雰囲気が変わって得体の知れない動物の影が見えて、スペードはとっさにゆりの前に出ていた。だが、そこにいたのはスペードもよく知っている動物だった。ねぼすけのペットのバクである。そしてねぼすけもやってきた。スペードは安心して少し離れた所で寝そべっている。
ねぼすけは、ゆりにスペードとの夢のことを聞いていたのでスペードはちょっとどぎまぎしていた。
「スペード様、怖かったけど、ステキでしたよ」
とゆりは言っていた。
(怖かったけど……やっぱり怖かったよな。ごめんね)
蛇の目のゆりはスペードの反応が気になったのかじーとスペードを見ている。スペードは蛇の目のゆりからも顔を背けていた。
スペードがいたせいか、ねぼすけは早々に消えた。
(何の用で来たんだろう……)
「エリザベスちゃんは恋人はいるのかな。あの一頭だけなのかなあ」
黒目のゆりは首をかしげていた。
「花柄で女の子らしかったね。夢でのペットなんて」
(エリザベスは見た目がかわいいだけですけどね)
スペードもエリザベスの怖い所を見たことはないのだが、あれはかわいいだけの生き物ではないことは知っている。
「ねぼすけ君はすごいね。他人の夢に行けるなんて。スペードさんは実際に豹の国にいるのかな。寝てるときはスペード様の夢に出て来て、時々私の夢に来てるのかなあ」
ゆりはそんな想像をしながら黒豹をなでまくっていた。
(本当のことを知ったら、もうなでてくれないだろうなあ……)
そして相変わらず、目が違うゆりはスペードの反応を観察している。
スペードはゆりの膝に手を乗せて、「ガル」と声をあげていた。
(とにかく、虎と狼はだめですよ)
「わかってるわかってる。スペード様には、黒豹君が時々遊びに来てることは内緒にしとくからね」
とゆりは言っていた。
(全然伝わってない……まあいいか。いやよくないか? 呪われた犬も気になる。やっぱり目が違う方に手紙を出すか?)
スペードはちらりと目が違うゆりを見た。そちらのゆりはちょっとにやにやしていた。
「ちゅーしちゃえ、ちゅー」
などと茶化している。
スペードはとことこと目が違うゆりに近づいて、爪を立ててゆりの膝に手をおいた。
「いった! 何するの。ひどっ」
スペードはつーんと横を向いている。
「そういうことするなら今度マタタビを持ってきますからね」
目が違うゆりは意地悪げに言っていた。
ちなみに猫系の国にはマタタビ酒があり、それを飲むと結構悪酔いしてしまう。
スペードは黒目のゆりの後ろに隠れてしまった。
「マタタビは嫌いだってさ」
「酔わせたら面白そうなのになあ」
「やめなさい」
(やっぱり手紙出すのやめようかな。迷うな)
などと思っているスペードだった。
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