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新作小話
贈り物 (本編11部46話番外編)
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ある日の聖地──
神々の神殿が並ぶ一角とは離れた場所では、聖地にいる神官たちが訓練中である。闘技場のように回りがぐるりと石で囲まれた場所で、観光客はここには来ることはない。聖地にいる神官といっても彼らの役割も様々で、外回りの神官、中でも戦い能力も高い神官は、日々訓練をしながら神官の任務についている。
この日も、数人の神官が訓練中であるが、小柄な女性が、背が高い男に向かって行っては軽くいなされ続けている。女性は何度も土の上に寝ころばされているので、全身土まみれだ。
「まだまだだなあ。子りす」
「くやしいーーー」
女性は悔しそうに地面を殴っていた。女性の名前はリティア、以前蛇の国にも行ったことがあるハロルドの神官である。ハロルドの加護を受けているこのリティア、常人ではない怪力の持ち主であるが、目の前の男には全く歯が立たない。素手での攻撃は素早くかわされ、蹴りも空振りだらけ、しまいには相手は欠伸をしていた。リティアにとっては屈辱である。
「ところで瞬間移動の的中度はあがったのか? お前森の中ばっかりに移動してるって聞いたぞ」
「あれはわざとです」
「嘘つけ」
「本当ですよ。あ、美人がいる」
リティアは男の後ろを指さした。男が後ろを振り向いたすきにリティアは素早く起き上がり、男の腹に肘を入れようとしたが、男はさっと手で押さえている。
「ふっ」
「くそー」
その時、瞬間移動で男の神官が一人やってきた。
「スペード様、急いで神殿にきてください。客人です!」
「ん? 客? わかった」
男の名前はスぺード、ゆりが神の国で見かけて大喜びした男だった。
「え? だれ? もしかして、ハ、ハロルド様? 私も行きます!」
リティアはスペードにとっさにつかまり、一緒に瞬間移動していた。
「こらーついてくるな」
「ハロルド様に私も会いたいです!」
「ハロルド様じゃないですよ」
知らせにきた神官が言った。
「嘘」
「たとえハロルド様でもその恰好で会ってもいいのか?」
スペードは全身土で汚れたリティアを見てにやっとしている。
「いいんです。がんばってる私を見てハロルド様はきっと……うふっ」
「違うって言ってるのに」
ハロルドの神殿の周りは女性の人だかりができていた。みな「ぎゃーぎゃー」わめいている。
「このざわめきはやっぱりハロルド様!?」
神殿の入り口はすごい有様だったので、3人は神殿の裏手から中に入った。
すると、神殿の中にいたのは、背中に大きな白い翼がある麗しい神、なんとクーリーフンである。
「彼がスペードです」
知らせに来た神官が言った。
「やあ、君がスペードかあ、ある人から頼まれてさ、これ、伝言、それからこれもどうぞ。神の国のものだから君でも大丈夫だよ。それじゃね」
「あ……」
クーリーフンはスペードにかなり重い袋を渡して用だけ言うと、さっさと神殿の入り口から外に出ていき、神殿の入り口付近では悲鳴があがっていた。あの様子では数人卒倒しそうである。
「なんだ、クーリーフン様か」
リティアがぽろりといい、周りにいた神官たちはびっくりしていた。
「なんだとはなんですか。無礼な」
「そうですよ。神様に対して失礼ですよ」
「本人にはいってませんもん」
「でもだめです」
「スペード様、あれ?」
スペードはさっといなくなっていた。
「何の伝言なんだろう。あやしい」
スペードは神殿の裏から外に出ていた。スペードは渡された重い袋を開けてみた。中にあったのはお酒の瓶が5本である。
「酒だ……」
妖精は神と同じように食に対する欲求はあまりにない。食べなくても飢えて死ぬことはないのだが、スペードもハートも元人間だった。昔を懐かしんで食べたり酒を飲んだりすることもある。食べても神ほど体調を崩すことはないが、大量に物を食べることはできない。神の国の食べ物だけは、食べても体調が悪くなることはないのだ。神の国の酒といったらジンラの酒である。人間界にいる妖精がしょっちゅう口にはできるものではないので、これはうれしい贈り物である。
スペードは次に伝言貝を耳にあててみた。伝言を聞いて耳まで真っ赤になっている。中に入っていたのはかわいらしい女性の声である。
『あなたによく似た人に夢の中で助けてもらったの。だから代わりにお礼を聞いてね。スペードさん、助けてくれてどうもありがとう』
(ガーベラ様の声だ。やっぱりカードの件かな? カードの私、がんばったんだな。えらいぞ。ありがとう)
スペードはカードの中にいるだろう自分に礼を言っていた。
「あ、スペード様、みつけた! 何をもらったんですか。教えてください」
神官たちがスペードを探してやってきた。
「内緒」
スペードは酒を隠している。
「ずるい! 顔が真っ赤ですよ。さては女でしょ」
「うるさい」
「スペード様が怪しいことしてるってハート様にいいますよー」
「怪しくないってのに。あとでおすそわけするから」
「やったあ」
神官たちは喜び、リティアは神殿前の巨大なハロルド像を眺めて、「今日も素敵です」などと言っていた。クーリーフンが去って、神殿付近はいつもの落ち着きを取り戻していた。いや、いつもよりも静かになっていた。ハロルド神殿にいた信者たちはみな、クーリーフンの後を追ってしまったのである。
その後クーリーフンは、ガーベラの神殿でハープを一曲演奏し、信者の女性たちが腰砕けになったそうである。
神々の神殿が並ぶ一角とは離れた場所では、聖地にいる神官たちが訓練中である。闘技場のように回りがぐるりと石で囲まれた場所で、観光客はここには来ることはない。聖地にいる神官といっても彼らの役割も様々で、外回りの神官、中でも戦い能力も高い神官は、日々訓練をしながら神官の任務についている。
この日も、数人の神官が訓練中であるが、小柄な女性が、背が高い男に向かって行っては軽くいなされ続けている。女性は何度も土の上に寝ころばされているので、全身土まみれだ。
「まだまだだなあ。子りす」
「くやしいーーー」
女性は悔しそうに地面を殴っていた。女性の名前はリティア、以前蛇の国にも行ったことがあるハロルドの神官である。ハロルドの加護を受けているこのリティア、常人ではない怪力の持ち主であるが、目の前の男には全く歯が立たない。素手での攻撃は素早くかわされ、蹴りも空振りだらけ、しまいには相手は欠伸をしていた。リティアにとっては屈辱である。
「ところで瞬間移動の的中度はあがったのか? お前森の中ばっかりに移動してるって聞いたぞ」
「あれはわざとです」
「嘘つけ」
「本当ですよ。あ、美人がいる」
リティアは男の後ろを指さした。男が後ろを振り向いたすきにリティアは素早く起き上がり、男の腹に肘を入れようとしたが、男はさっと手で押さえている。
「ふっ」
「くそー」
その時、瞬間移動で男の神官が一人やってきた。
「スペード様、急いで神殿にきてください。客人です!」
「ん? 客? わかった」
男の名前はスぺード、ゆりが神の国で見かけて大喜びした男だった。
「え? だれ? もしかして、ハ、ハロルド様? 私も行きます!」
リティアはスペードにとっさにつかまり、一緒に瞬間移動していた。
「こらーついてくるな」
「ハロルド様に私も会いたいです!」
「ハロルド様じゃないですよ」
知らせにきた神官が言った。
「嘘」
「たとえハロルド様でもその恰好で会ってもいいのか?」
スペードは全身土で汚れたリティアを見てにやっとしている。
「いいんです。がんばってる私を見てハロルド様はきっと……うふっ」
「違うって言ってるのに」
ハロルドの神殿の周りは女性の人だかりができていた。みな「ぎゃーぎゃー」わめいている。
「このざわめきはやっぱりハロルド様!?」
神殿の入り口はすごい有様だったので、3人は神殿の裏手から中に入った。
すると、神殿の中にいたのは、背中に大きな白い翼がある麗しい神、なんとクーリーフンである。
「彼がスペードです」
知らせに来た神官が言った。
「やあ、君がスペードかあ、ある人から頼まれてさ、これ、伝言、それからこれもどうぞ。神の国のものだから君でも大丈夫だよ。それじゃね」
「あ……」
クーリーフンはスペードにかなり重い袋を渡して用だけ言うと、さっさと神殿の入り口から外に出ていき、神殿の入り口付近では悲鳴があがっていた。あの様子では数人卒倒しそうである。
「なんだ、クーリーフン様か」
リティアがぽろりといい、周りにいた神官たちはびっくりしていた。
「なんだとはなんですか。無礼な」
「そうですよ。神様に対して失礼ですよ」
「本人にはいってませんもん」
「でもだめです」
「スペード様、あれ?」
スペードはさっといなくなっていた。
「何の伝言なんだろう。あやしい」
スペードは神殿の裏から外に出ていた。スペードは渡された重い袋を開けてみた。中にあったのはお酒の瓶が5本である。
「酒だ……」
妖精は神と同じように食に対する欲求はあまりにない。食べなくても飢えて死ぬことはないのだが、スペードもハートも元人間だった。昔を懐かしんで食べたり酒を飲んだりすることもある。食べても神ほど体調を崩すことはないが、大量に物を食べることはできない。神の国の食べ物だけは、食べても体調が悪くなることはないのだ。神の国の酒といったらジンラの酒である。人間界にいる妖精がしょっちゅう口にはできるものではないので、これはうれしい贈り物である。
スペードは次に伝言貝を耳にあててみた。伝言を聞いて耳まで真っ赤になっている。中に入っていたのはかわいらしい女性の声である。
『あなたによく似た人に夢の中で助けてもらったの。だから代わりにお礼を聞いてね。スペードさん、助けてくれてどうもありがとう』
(ガーベラ様の声だ。やっぱりカードの件かな? カードの私、がんばったんだな。えらいぞ。ありがとう)
スペードはカードの中にいるだろう自分に礼を言っていた。
「あ、スペード様、みつけた! 何をもらったんですか。教えてください」
神官たちがスペードを探してやってきた。
「内緒」
スペードは酒を隠している。
「ずるい! 顔が真っ赤ですよ。さては女でしょ」
「うるさい」
「スペード様が怪しいことしてるってハート様にいいますよー」
「怪しくないってのに。あとでおすそわけするから」
「やったあ」
神官たちは喜び、リティアは神殿前の巨大なハロルド像を眺めて、「今日も素敵です」などと言っていた。クーリーフンが去って、神殿付近はいつもの落ち着きを取り戻していた。いや、いつもよりも静かになっていた。ハロルド神殿にいた信者たちはみな、クーリーフンの後を追ってしまったのである。
その後クーリーフンは、ガーベラの神殿でハープを一曲演奏し、信者の女性たちが腰砕けになったそうである。
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