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新作小話
海の神殿でのできごと
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むかーしむかし、これはかなり昔の物語。
「すまない。エキドナ。僕はガーベラを愛してしまった。君と結婚することはできない」
「え? ガ、ガーベラ?」
「本当にすまない」
ラクアは申し訳なさそうにエキドナに告げた。エキドナにとってはまさに天地がひっくり返るほどの衝撃的な出来事である。
「いやー!!」
その直後、空は曇り、海の水は荒れ狂った。エキドナは海の女神だが、彼女だけの感情でこうなったのではない。海の神マリナール、マリナールの妻エヴァ、その他の海の神々は怒り狂い、その感情が海を荒らしたのだった。マリナールがいくら諭してもラクアの気持ちは変わらなかった。なんという屈辱か。すでに二人のための新居まで用意していたマリナールの怒りは収まらない。そして結婚を反故にされたエキドナは、部屋で泣きわめいたのだった。ラクアにふられたこともショックだが、この結婚話はみんなが知っていることなのである。結婚を無効にされたなどと、恥ずかしくて外も歩けない。マリナールの娘はこの海側では王女様のような扱いである。みんなに同情されるのも自分のプライドが許さなかった。今後どんな顔でこの世界で生きていけばいいのか。
「かわいそうなエキドナ」
母親であるエヴァも娘のために涙を流した。
「この屈辱は、かならずマリナールが晴らしてくれるわ。しっかりして」
マリナールはラクアに数々の報復をし、ラクアは甘んじてそれを受けた。
「ま、しょうがないだろう。マリナールの怒りも最もだ」
神々の長アシュランも、マリナールに同情的である。
「私はこの問題には首を突っ込みたくないが、マリナールが無理難題をもってきた。ラクアがだめなら同等の神を用意しろと言ってきたんだが、同等となるともうあまり残っていない」
「ラクア様と同等というと……ハロルド様ですか?」
アシュランの前にいた伝令神グレンが言った。ラクアは神格が高い神である。同等となると数人の神しかいない。
「ハロルドは絶対エキドナとあいそうにないが、万が一ぴったりということもあるかもしれない。一応話してみるか」
「無理だと思いますが……」
アシュランは一応ハロルドに話してみた。するとハロルドは、
「ラクアが捨てた女をなぜ拾わねばならんのだ。冗談じゃない。遊ぶだけならいいが、結婚はごめんだ」
とエキドナに会う気にすらならなかった。
「やっぱりな。残りの独身の男か。そういえばサントスがいたが、一人海に行かせるのもかわいそうだしなあ。まだ女に興味がないようだし、ヒルデリアが反対しそうだし、となると……」
アシュランとグレンの脳裏に同じ顔の男が浮かんでいた。
「そちらは、それこそ天地がひっくり返っても無理ですよ」
グレンが言った。
「案外面白い組み合わせかもしれんぞ」
アシュランは、なんと火の神サラディンにこの話をもっていってみた。するとサラディンは、「冗談にもならん」と鼻で笑っただけだった。
「面白い組み合わせだと思ったんだがなあ……」
アシュランは残念そうである。
結局アシュランはラクアの代打を出すことはできなかった。エキドナのバッグにはマリナールがついている。エキドナと結婚するということは、一生エキドナを愛さなければならないのだ。生が長い神々にとってはこの愛は重すぎる。飽きれば浮気すればいい、というわけにもいかない。マリナールを怒らすとやばいことになる、ということは、大体の神々が知っていることだった。
ラクアに失恋してしばらく部屋にこもっていたエキドナだったが、泣きわめいて暴れ疲れ、ようやく頭が冷静になってきた。部屋の中で暴れていたので、調度品はあちこちひっくり返っている。ひどい有様である。
夜、エキドナはこっそりと部屋を出て、ある部屋に行った。占い師ババリアの部屋である。占いが得意な海側の神である。
「ババリア、ガーベラを見せて」
エキドナはガーベラを見たことがなかった。どんな女か気になったようだ。
「嬢ちゃん、やめといた方がいいよ」
老婆姿のババリアが言った。長い白髪、わし鼻ででまさに占い魔女のような風体だが、好んでこの姿をしている。
「ラクアが好きになったのがどんな女かみたいの! 見せて!」
「うーん」
ババリアは仕方なく、姿鏡にガーベラの姿を写した。エキドナはガーベラを見てはっと衝撃を受けた。そこにいたのは豊満な肉体で魅力的な女だった。相手がこれじゃしょうがない、とあきらめの気持ちにもなった。
鏡からガーベラが消えた。
「なあ嬢ちゃん、なにも向こう側の神と結婚しなくても、こちらの神が相手でもいいのではないかね? 嬢ちゃんが嬢ちゃんらしく生きていくためにも、その方がいいよ」
ババリアが言った。
「当分そんな話はごめんだわ。ありがとう。じゃあね」
エキドナはババリアの部屋を出た。
ガーベラ、なんて魅力的な女神なんだろう。他に恋人がいてもガーベラの恋人になりたいだなんて……そこまで思ってしまうなんて。私は散々ラクアに気に入られようとがんばってきたのに、私のあの数年はなんだったのよ
「あほらしいわ」
エキドナは夜の海岸へと向かった。今は海も凪いでいる。
海岸で寝転がって夜空を眺めていると、「不用心ですよ」と声がかかった。男の声である。側に男が近づいてきた。
「ほっておいてちょうだい」
エキドナは気にしなかったが、男は横に座っていた。
「ラクア様のことは残念でしたが、私は喜んでます」
男がこんなことを言い出したので、エキドナは、「あら、私ってそんなに嫌われてるのかしら」と言った。
「逆ですよ。私は、あなたが好きです。ずっと前から。マリナール様が、あなたはラクア様と結婚するから手を出さないようにと我々に言っていたんです。だから私は何も言うことができなかった。でも、もうその話はなくなったので、言ってもいいですよね。私はエキドナ様を愛してます」
突然の告白に、エキドナは起き上がり、少し体を離して男を見た。
「だれかと思ったらノアじゃない」
「今気づいたんですか?」
「ははーん、わかった。私を慰めるようにってお父様にいわれたんでしょ」
「違いますよ」
「じゃあなぜ突然そんなことを言い出すのよ!」
「先ほどいいましたよ。止められていたからですよ」
ノアは穏やかな口調で言った。ノアは海の神だが、こちらにいるのはたいていが海の神である。エキドナよりもランクは低い。ノアは美男子でもないし、目立つタイプでもない。短髪で真面目そうな外見の男である。
「あなたなんて地味な男冗談じゃないわよ」
「そうですか……」
ノアはしょんぼりしていた。
「……そんなにしょんぼりしなくてもいいでしょ。もうあっちに行ってよ」
「あなたを部屋に送らないと心配なので」
「私はまだここにいたいの」
「じゃあ私もいます」
「…………」
なんなのよ。一体
しばらく並んで座っていたが、気まずいことこの上ない。
「ノアだって、あのガーベラを見れば、あっちがいいと思うに決まってるわ。すごい胸してたんだから」
エキドナは、それほど胸が出ているほうではなかった。
「私はあなたが好きです」
「顔だって綺麗だったし」
「あなたも綺麗ですよ」
「すっごい髪してたし」
「あなたの癖がある髪が好きです」
ノアはすぐに切り返している。
「実際に見てないから言えるのよ」
「ガーベラ様をみたことがあります」
「え? いつ?」
「前に男みんなで見ました。向こうの女神をみんなでみようということになって、ババリアに鏡に写してもらってみたんですよ」
「ふーん」
しばらく沈黙が続いて、二人は神殿に帰った。
その翌日、エキドナは伝令神ワイアットをひっ捕まえて自分の部屋に入れていた。
「ノアの女性関係を調べてちょうだい」
「は? なんですか。突然」
「いいから調べなさいよ」
「調べなくても知ってますよ」
「じゃあ教えて」
「ノア様に女はいません。でもノア様を好きな女がいるのは知ってます」
「え? ノアってもてるの? 地味なのに」
「落ち着いてるからじゃないですか? ばかばっかやってる男連中とはちょっと違いますからね」
「ふーん」
「気になるんですか?」
「全然」
「ならなぜ聞くんですか?」
「別にいいじゃない。もう行っていいわよ」
エキドナは今度はワイアットを部屋から追い出していた。
ノアを好きな女がいるんだ。確かにばか連中とはちょっと違うわよね。あ、思い出した。前に一緒に楽器を奏でた事があったっけ……
水の力で奏でる水琴、ノアはこれが好きで、前にノアが曲を奏でていた時に、エキドナが加わったことがあった。
気分転換に水琴でも奏でようかしら……
周りはみんなエキドナがショックを受けまくっていると思っているので、エキドナはこっそりと部屋を出て行き、水琴がある部屋に行った。
水琴はここならではの楽器である。ラクアと一緒に奏でたこともあった。あの時は楽しかったものだが、ラクアに愛されることはできなかった。それを思うと悲しみがこみ上げてきたが、悲しいままで過ごしていても時間がもったいないだけのような気がする。
ひとしきり水琴を奏でて後ろを向くと、ノアが立っていた。
「いつからいたの?」
「先ほど、曲が聞こえたので。寂しそうな曲ですね。混じってもいいですか?」
「……いいわよ」
ノアはエキドナの横に並んだ。
「ねえ、昨日、私のこと好きって言ったわよね。どれくらい好きなの?」
エキドナが聞いた。
「ここであなたに襲いかかりたいくらい好きです」
「え? ばかじゃないの!?」
エキドナは真っ赤になっている。
「それくらい好きですよ」
「私はあなたのことなんとも思ってない」
「知ってます」
「ならいいけど……」
だが、それからエキドナの心境に変化が起こった。ちょっとノアが気になりだして、さらに時が経つともっと気になるようになった。ラクアといる時は気に入られようと我慢していた部分があったが、ノアといる時は自然体でいても好きだと言ってくれる。ノアが他の女性と話しているのを見ると、むかっとするのである。
「一生エキドナ様だけを愛することだってできますよ」
ノアはこうまで言ってくれた。
エキドナはノアと結婚し、周りもびっくりするほどの仲の良い夫婦になった。
「そんなに仲が良いのなら、私に対する怒りを解いてくれてもいいと思う」
その後ラクアはぶちぶち言っていたが、
「それとこれは話が別ですね」
とラクアは、しばらく海の水を操ることはできなかったのだった。
「すまない。エキドナ。僕はガーベラを愛してしまった。君と結婚することはできない」
「え? ガ、ガーベラ?」
「本当にすまない」
ラクアは申し訳なさそうにエキドナに告げた。エキドナにとってはまさに天地がひっくり返るほどの衝撃的な出来事である。
「いやー!!」
その直後、空は曇り、海の水は荒れ狂った。エキドナは海の女神だが、彼女だけの感情でこうなったのではない。海の神マリナール、マリナールの妻エヴァ、その他の海の神々は怒り狂い、その感情が海を荒らしたのだった。マリナールがいくら諭してもラクアの気持ちは変わらなかった。なんという屈辱か。すでに二人のための新居まで用意していたマリナールの怒りは収まらない。そして結婚を反故にされたエキドナは、部屋で泣きわめいたのだった。ラクアにふられたこともショックだが、この結婚話はみんなが知っていることなのである。結婚を無効にされたなどと、恥ずかしくて外も歩けない。マリナールの娘はこの海側では王女様のような扱いである。みんなに同情されるのも自分のプライドが許さなかった。今後どんな顔でこの世界で生きていけばいいのか。
「かわいそうなエキドナ」
母親であるエヴァも娘のために涙を流した。
「この屈辱は、かならずマリナールが晴らしてくれるわ。しっかりして」
マリナールはラクアに数々の報復をし、ラクアは甘んじてそれを受けた。
「ま、しょうがないだろう。マリナールの怒りも最もだ」
神々の長アシュランも、マリナールに同情的である。
「私はこの問題には首を突っ込みたくないが、マリナールが無理難題をもってきた。ラクアがだめなら同等の神を用意しろと言ってきたんだが、同等となるともうあまり残っていない」
「ラクア様と同等というと……ハロルド様ですか?」
アシュランの前にいた伝令神グレンが言った。ラクアは神格が高い神である。同等となると数人の神しかいない。
「ハロルドは絶対エキドナとあいそうにないが、万が一ぴったりということもあるかもしれない。一応話してみるか」
「無理だと思いますが……」
アシュランは一応ハロルドに話してみた。するとハロルドは、
「ラクアが捨てた女をなぜ拾わねばならんのだ。冗談じゃない。遊ぶだけならいいが、結婚はごめんだ」
とエキドナに会う気にすらならなかった。
「やっぱりな。残りの独身の男か。そういえばサントスがいたが、一人海に行かせるのもかわいそうだしなあ。まだ女に興味がないようだし、ヒルデリアが反対しそうだし、となると……」
アシュランとグレンの脳裏に同じ顔の男が浮かんでいた。
「そちらは、それこそ天地がひっくり返っても無理ですよ」
グレンが言った。
「案外面白い組み合わせかもしれんぞ」
アシュランは、なんと火の神サラディンにこの話をもっていってみた。するとサラディンは、「冗談にもならん」と鼻で笑っただけだった。
「面白い組み合わせだと思ったんだがなあ……」
アシュランは残念そうである。
結局アシュランはラクアの代打を出すことはできなかった。エキドナのバッグにはマリナールがついている。エキドナと結婚するということは、一生エキドナを愛さなければならないのだ。生が長い神々にとってはこの愛は重すぎる。飽きれば浮気すればいい、というわけにもいかない。マリナールを怒らすとやばいことになる、ということは、大体の神々が知っていることだった。
ラクアに失恋してしばらく部屋にこもっていたエキドナだったが、泣きわめいて暴れ疲れ、ようやく頭が冷静になってきた。部屋の中で暴れていたので、調度品はあちこちひっくり返っている。ひどい有様である。
夜、エキドナはこっそりと部屋を出て、ある部屋に行った。占い師ババリアの部屋である。占いが得意な海側の神である。
「ババリア、ガーベラを見せて」
エキドナはガーベラを見たことがなかった。どんな女か気になったようだ。
「嬢ちゃん、やめといた方がいいよ」
老婆姿のババリアが言った。長い白髪、わし鼻ででまさに占い魔女のような風体だが、好んでこの姿をしている。
「ラクアが好きになったのがどんな女かみたいの! 見せて!」
「うーん」
ババリアは仕方なく、姿鏡にガーベラの姿を写した。エキドナはガーベラを見てはっと衝撃を受けた。そこにいたのは豊満な肉体で魅力的な女だった。相手がこれじゃしょうがない、とあきらめの気持ちにもなった。
鏡からガーベラが消えた。
「なあ嬢ちゃん、なにも向こう側の神と結婚しなくても、こちらの神が相手でもいいのではないかね? 嬢ちゃんが嬢ちゃんらしく生きていくためにも、その方がいいよ」
ババリアが言った。
「当分そんな話はごめんだわ。ありがとう。じゃあね」
エキドナはババリアの部屋を出た。
ガーベラ、なんて魅力的な女神なんだろう。他に恋人がいてもガーベラの恋人になりたいだなんて……そこまで思ってしまうなんて。私は散々ラクアに気に入られようとがんばってきたのに、私のあの数年はなんだったのよ
「あほらしいわ」
エキドナは夜の海岸へと向かった。今は海も凪いでいる。
海岸で寝転がって夜空を眺めていると、「不用心ですよ」と声がかかった。男の声である。側に男が近づいてきた。
「ほっておいてちょうだい」
エキドナは気にしなかったが、男は横に座っていた。
「ラクア様のことは残念でしたが、私は喜んでます」
男がこんなことを言い出したので、エキドナは、「あら、私ってそんなに嫌われてるのかしら」と言った。
「逆ですよ。私は、あなたが好きです。ずっと前から。マリナール様が、あなたはラクア様と結婚するから手を出さないようにと我々に言っていたんです。だから私は何も言うことができなかった。でも、もうその話はなくなったので、言ってもいいですよね。私はエキドナ様を愛してます」
突然の告白に、エキドナは起き上がり、少し体を離して男を見た。
「だれかと思ったらノアじゃない」
「今気づいたんですか?」
「ははーん、わかった。私を慰めるようにってお父様にいわれたんでしょ」
「違いますよ」
「じゃあなぜ突然そんなことを言い出すのよ!」
「先ほどいいましたよ。止められていたからですよ」
ノアは穏やかな口調で言った。ノアは海の神だが、こちらにいるのはたいていが海の神である。エキドナよりもランクは低い。ノアは美男子でもないし、目立つタイプでもない。短髪で真面目そうな外見の男である。
「あなたなんて地味な男冗談じゃないわよ」
「そうですか……」
ノアはしょんぼりしていた。
「……そんなにしょんぼりしなくてもいいでしょ。もうあっちに行ってよ」
「あなたを部屋に送らないと心配なので」
「私はまだここにいたいの」
「じゃあ私もいます」
「…………」
なんなのよ。一体
しばらく並んで座っていたが、気まずいことこの上ない。
「ノアだって、あのガーベラを見れば、あっちがいいと思うに決まってるわ。すごい胸してたんだから」
エキドナは、それほど胸が出ているほうではなかった。
「私はあなたが好きです」
「顔だって綺麗だったし」
「あなたも綺麗ですよ」
「すっごい髪してたし」
「あなたの癖がある髪が好きです」
ノアはすぐに切り返している。
「実際に見てないから言えるのよ」
「ガーベラ様をみたことがあります」
「え? いつ?」
「前に男みんなで見ました。向こうの女神をみんなでみようということになって、ババリアに鏡に写してもらってみたんですよ」
「ふーん」
しばらく沈黙が続いて、二人は神殿に帰った。
その翌日、エキドナは伝令神ワイアットをひっ捕まえて自分の部屋に入れていた。
「ノアの女性関係を調べてちょうだい」
「は? なんですか。突然」
「いいから調べなさいよ」
「調べなくても知ってますよ」
「じゃあ教えて」
「ノア様に女はいません。でもノア様を好きな女がいるのは知ってます」
「え? ノアってもてるの? 地味なのに」
「落ち着いてるからじゃないですか? ばかばっかやってる男連中とはちょっと違いますからね」
「ふーん」
「気になるんですか?」
「全然」
「ならなぜ聞くんですか?」
「別にいいじゃない。もう行っていいわよ」
エキドナは今度はワイアットを部屋から追い出していた。
ノアを好きな女がいるんだ。確かにばか連中とはちょっと違うわよね。あ、思い出した。前に一緒に楽器を奏でた事があったっけ……
水の力で奏でる水琴、ノアはこれが好きで、前にノアが曲を奏でていた時に、エキドナが加わったことがあった。
気分転換に水琴でも奏でようかしら……
周りはみんなエキドナがショックを受けまくっていると思っているので、エキドナはこっそりと部屋を出て行き、水琴がある部屋に行った。
水琴はここならではの楽器である。ラクアと一緒に奏でたこともあった。あの時は楽しかったものだが、ラクアに愛されることはできなかった。それを思うと悲しみがこみ上げてきたが、悲しいままで過ごしていても時間がもったいないだけのような気がする。
ひとしきり水琴を奏でて後ろを向くと、ノアが立っていた。
「いつからいたの?」
「先ほど、曲が聞こえたので。寂しそうな曲ですね。混じってもいいですか?」
「……いいわよ」
ノアはエキドナの横に並んだ。
「ねえ、昨日、私のこと好きって言ったわよね。どれくらい好きなの?」
エキドナが聞いた。
「ここであなたに襲いかかりたいくらい好きです」
「え? ばかじゃないの!?」
エキドナは真っ赤になっている。
「それくらい好きですよ」
「私はあなたのことなんとも思ってない」
「知ってます」
「ならいいけど……」
だが、それからエキドナの心境に変化が起こった。ちょっとノアが気になりだして、さらに時が経つともっと気になるようになった。ラクアといる時は気に入られようと我慢していた部分があったが、ノアといる時は自然体でいても好きだと言ってくれる。ノアが他の女性と話しているのを見ると、むかっとするのである。
「一生エキドナ様だけを愛することだってできますよ」
ノアはこうまで言ってくれた。
エキドナはノアと結婚し、周りもびっくりするほどの仲の良い夫婦になった。
「そんなに仲が良いのなら、私に対する怒りを解いてくれてもいいと思う」
その後ラクアはぶちぶち言っていたが、
「それとこれは話が別ですね」
とラクアは、しばらく海の水を操ることはできなかったのだった。
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