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溺れる者は藁をも掴む

17 旅路

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王都の近くのジュプスン領まで、凄く大所帯だった。

無理もない。
世間に堂々とユアン様の嫁行列を見せつけなくてはいけない。
途中の宿屋では、大盤振る舞いで、チップが飛び交った。

馬車は正直、速度は出ない。
それでも、『のんびりしすぎだろうっ!』
ってくらいにゆっくり進んだ。

公爵本人も馬に乗って沿道に手を振る。
沿道の人が見送る中を、行列は賑やかに進む。

ジュプスン公爵家の旗と、ベンデン公爵家の旗を掲げた者が先頭で。
飾り付けられた馬も、馬車も豪華だ。
もちろん、他の貴族や王族に隙を見せない為だ。



到着したジュプスン領の城は至れり尽くせりのもてなしで、行かせたくない。というのが見え見えだった。


結局、王都からジュプスン領を出立するまでに七日もかかった。
予定オーバーだ。
正直、ウェイドは、やれやれと溜息をついた。


別れを惜しむジュプスン公爵様と、その召使い達に手を振って、ようやく嫁行列は出発した。



ジュプスン城で、荷物は半分に減った。

どうせ"受け渡し"なのだ。
この行列は、ベンデン領でユアン様を受け渡したらとんぼ返りする。
だからジュプスン様の兵の他は王弟殿下の兵ばかりだ。
純粋なベンデンの兵はウェイドのみで、そのまま領内に待機した兵と合流するつもりだ。


ふと気がつくと、王弟殿下の兵は年寄りばかりだ。
年寄りと言っても筋肉は締まり、何の不足も無い。
経験豊富なしたたかな老兵という頼もしさがある。


今まで、初めての挨拶はしたけれど、顔を見る事も無かったユアン様。
これからの旅で野営も含めて接触が増える。
まぁ、ゆっくりとその本性を見極めるつもりだ。



別れの挨拶の時。
自室に呼ばれた。
ジュプスン公爵様がウェイドに頭を下げた。
公爵様がしていいはずも無く、ウェイドはびっくりしたが、そこにいたのは高位貴族では無く子供を案じる父親だった。

「ユアンは大柄な者を怖がる。
 すまんが気遣ってくれ。」

怖がる?

……だから俺が立ち上がった時、後退りしたのか。
そして兵が年寄りばかりなのはその為か。

「人見知りでほとんど屋敷から出なかった。
 馬車も乗り慣れていない。
 進みがゆっくりでも許してやってくれ。」

んん?夜な夜な街に出てると噂されてたがな。
~~まあ、見極めるつもりだ。

「御安心下さい。御守り致します。」

ウェイドは、きっかり騎士の礼をとって誓った。



領地から離れて行く。
大きな街道を進むと、だんだん路は舗装されていないガタガタ路になっていく。

道もところどころ狭くなって、両脇の森がぐっと辺りに立ち塞がるように暗い。

賊や魔獣の気配が湧き上がってくる。
そして、たまに護衛兵と戦闘がある。

宿場町が無い場合には野営となる。

それについてもユアン様は何の文句も言わなかった。



野営を立ち上げると、パーシヴァルどのが、慌しく身体を拭く水や夕食を用意する。


「大丈夫なの?水は足りてる?」

伺うと、馬車の中から小さな声がする。

「水が足りないのに身体を拭くなんてしなくていいからね。僕はこうやって馬車の中でごろごろしてるだけなんだから。
水も食料も働いてる人を優先してね。」



デューク。

おまえの嫁は、性格もいいみたいだ。



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