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溺れる者は藁をも掴む
16 ウェイド
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「見極めて来てくれ。」
デュークはそう言った。
額の青筋は、御父様の王弟より伝書鷹が届いてから、ずっと出っ放しだ。
「嫁が来る。」
そう言われた時。
脳が反応を拒否して、一瞬固まった。
「は、はぁぁっ?」
ウェイドの間抜けな顔で溜飲を下げたのか、ふっとデュークは力を抜いた。
~~そんな訳で王都にいる。
伯爵家の三男坊だったウェイドの特技は馬だ。
小さな時から厩舎で過ごして、馬の世話をしていた。
正直、馬の気持ちがわかる気がする。
おかげでベンデン領から馬を乗り継いでなんと10日で来れる。
もちろん馬を全力で走らせるのは1時間と保たない。
緩急付けて馬の状態を見極めながら、そして乗り継いで。
伝令が二週間かかるのを10日。
しかも馬を乗り潰さずにだ。
これはもう、自慢の特技だ。
デュークを溺愛する王弟殿下は、嫁行列の警護に自前の護衛を付けてくれる。
だからベンデン領からウェイドだけが来た。
王都での噂を集める。
嫁様を領内でどの様に遇するべきかを見極めるつもりだ。
王弟殿下は伝書鷹では書けない、重要な手紙をウェイドに託した。
そして、
「王都には悪意ある噂が蔓延している。…わかっておろう?だからおまえは曇りなき眼でユアンどのを見極めるがいい。」
と、お言葉をいただいた。
悪意ある噂。
わかってる"不能公爵"の事だな。
噂は噂を呼び。
どんどん過激になっていく。
まるで黒い雲霞の群れのように、ぼやぼやと辺りに撒き散らかされていく。
なるほど。
この婚姻はそれから逃れる為か。
そうして、ウェイドはユアンの前に片膝を付いて礼をとっていた。
頭の上で、くぅっと息を飲む音がする。
立場が上の者が許可を出すまで頭を上げる事は出来ない。
だからじっと頭を下げていた。
「頭を上げて下さい。」
少し震える声がした。
ウェイドはゆっくり顔を上げる。
そこには、
天使がいた。
成人前と言われていたが、小柄だ。
ハニーブロンドが小さな顔をくるくると彩って、キラキラしている。
薔薇色の瞳は不安気に揺れながら、真っ直ぐこちらを見ていた。
つるりとした陶器のような頬は緊張で白い。
全身から、緊張しています。
いぢめないで下さい。
と、いいたげなその姿は、保護欲を誘った。
いや。
嫁。
まじシャン!
内心の驚きを押し込めて、じっと見返す。
噂では目が合った途端に色目を使ってくるという。
ちょっと期待してた自分がいた。
この俺をその気にさせるレベルか?
くらいに思ってた。
だが目の前のその子は、必死な目をしていた。
怯えて揺れながら、必死でこっちを見ている。
こっちの魂まで見透かそうとするように、
その薔薇色の瞳はふるふるしながじっと見ていた。
やがて、納得したのかふわりと笑った。
「ユアン・ジュプスンです。
よろしくお願いします。」
笑うと花が咲いた様だ。
周りがほわっと明るくなって、暖かい甘い空気がふうわりと溢れた気がする。
口元の黒子がちょっと婀娜っぽくて、ウェイドは、「はっ!」と返答しながら顔を伏せた。
デューク。
おまえの嫁、見てくれは最高だぞ。
「どうぞ、お立ち下さい。」
そう言われて立ち上がると、ユアン様はちょっとビクッとなって後ずさった。
あれ?と思う前に、後ろに控えていた侍従がすっと前に出てくる。
その侍従のすぐりのような赤い目が、じっとウェイドを捕らえている。
いや、こっちもシャンじゃん。
お堅そうで、タイプじゃ無いけどな。
そんな心の声が聞こえたのか、パーシヴァルはちょっと眉を寄せながら、ウェイドを公爵家の護衛兵の元へと案内した。
デュークはそう言った。
額の青筋は、御父様の王弟より伝書鷹が届いてから、ずっと出っ放しだ。
「嫁が来る。」
そう言われた時。
脳が反応を拒否して、一瞬固まった。
「は、はぁぁっ?」
ウェイドの間抜けな顔で溜飲を下げたのか、ふっとデュークは力を抜いた。
~~そんな訳で王都にいる。
伯爵家の三男坊だったウェイドの特技は馬だ。
小さな時から厩舎で過ごして、馬の世話をしていた。
正直、馬の気持ちがわかる気がする。
おかげでベンデン領から馬を乗り継いでなんと10日で来れる。
もちろん馬を全力で走らせるのは1時間と保たない。
緩急付けて馬の状態を見極めながら、そして乗り継いで。
伝令が二週間かかるのを10日。
しかも馬を乗り潰さずにだ。
これはもう、自慢の特技だ。
デュークを溺愛する王弟殿下は、嫁行列の警護に自前の護衛を付けてくれる。
だからベンデン領からウェイドだけが来た。
王都での噂を集める。
嫁様を領内でどの様に遇するべきかを見極めるつもりだ。
王弟殿下は伝書鷹では書けない、重要な手紙をウェイドに託した。
そして、
「王都には悪意ある噂が蔓延している。…わかっておろう?だからおまえは曇りなき眼でユアンどのを見極めるがいい。」
と、お言葉をいただいた。
悪意ある噂。
わかってる"不能公爵"の事だな。
噂は噂を呼び。
どんどん過激になっていく。
まるで黒い雲霞の群れのように、ぼやぼやと辺りに撒き散らかされていく。
なるほど。
この婚姻はそれから逃れる為か。
そうして、ウェイドはユアンの前に片膝を付いて礼をとっていた。
頭の上で、くぅっと息を飲む音がする。
立場が上の者が許可を出すまで頭を上げる事は出来ない。
だからじっと頭を下げていた。
「頭を上げて下さい。」
少し震える声がした。
ウェイドはゆっくり顔を上げる。
そこには、
天使がいた。
成人前と言われていたが、小柄だ。
ハニーブロンドが小さな顔をくるくると彩って、キラキラしている。
薔薇色の瞳は不安気に揺れながら、真っ直ぐこちらを見ていた。
つるりとした陶器のような頬は緊張で白い。
全身から、緊張しています。
いぢめないで下さい。
と、いいたげなその姿は、保護欲を誘った。
いや。
嫁。
まじシャン!
内心の驚きを押し込めて、じっと見返す。
噂では目が合った途端に色目を使ってくるという。
ちょっと期待してた自分がいた。
この俺をその気にさせるレベルか?
くらいに思ってた。
だが目の前のその子は、必死な目をしていた。
怯えて揺れながら、必死でこっちを見ている。
こっちの魂まで見透かそうとするように、
その薔薇色の瞳はふるふるしながじっと見ていた。
やがて、納得したのかふわりと笑った。
「ユアン・ジュプスンです。
よろしくお願いします。」
笑うと花が咲いた様だ。
周りがほわっと明るくなって、暖かい甘い空気がふうわりと溢れた気がする。
口元の黒子がちょっと婀娜っぽくて、ウェイドは、「はっ!」と返答しながら顔を伏せた。
デューク。
おまえの嫁、見てくれは最高だぞ。
「どうぞ、お立ち下さい。」
そう言われて立ち上がると、ユアン様はちょっとビクッとなって後ずさった。
あれ?と思う前に、後ろに控えていた侍従がすっと前に出てくる。
その侍従のすぐりのような赤い目が、じっとウェイドを捕らえている。
いや、こっちもシャンじゃん。
お堅そうで、タイプじゃ無いけどな。
そんな心の声が聞こえたのか、パーシヴァルはちょっと眉を寄せながら、ウェイドを公爵家の護衛兵の元へと案内した。
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