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好きもの令息

8 好きもの令息、爆誕

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子供の心は柔軟で、やわやわと日常に戻って来た。
かたわらには必ずパーシヴァルか兄様がいる。
もっともユアンはあれ以来、あまり外から出なくなっていた。

相変わらず天使の様に笑うけれど、夜になると心が辛くなる。
……自分の胸には、忌々しいほどに紅いハートの入れ墨がある。
その為に風呂の世話は年取った侍従が受け持ってくれていた。
世話してくる人も、大きかったり若かったりすると、心がざわりと怯える。


公爵の子息が攫われたという話も、直ぐに立ち消えとなり、ユアンは変わらずに過ごすことが出来た。



この世界は男という種しかいない。
幼い頃からユアンは産みの親譲りの美貌で有名だったから、釣書は振る様に届いていた。

ユアンは、皆が想像した通りの美少年に育っていく。
緩く巻き毛になったハニーブロンドはなだらかに肩を滑り。
大きく潤んだ様な薔薇色の瞳は、金のまつ毛に縁取られていた。
あまり外に出ない為に、そばかすひとつなく、陶器のようなつるりとした肌をしている。
ぽってりとした唇は、薔薇色の瞳よりも薄い桃色で。
その口元の黒子が無ければ、女神としか思えない。

人とあるために付いたと思える黒子は、笑う度に白い歯を覗かせる口元の脇に落ち着き、なんとも煽情的に人の心をざわめかせた。

……つまり、色っぽいのだ。何故か。
本人まったくそのつもりもないのに。
何故かどことなくアンニュイな色香が漂っている。

そんな子供を見る目なのに。
結構な数の大人がちょっとギラついた目で見てたりして。
ユアンは敏感にその舐める様な視線を感じて、ますます外に出なくなっていった。



そんなユアンも七歳の時。
ついに王宮のお茶会に出席した。

こういう場は、家族が"病弱"という設定で、なんとか断って来ていた。
が、おかげで『あそこんちの子が、メチャ綺麗だって!』という、輝夜姫張りの噂が流れた。
で、第一王子の婚約者候補を選ぶお茶会に、出席しない訳には行かなくなった。


動悸と息切れと緊張で硬くなるユアンに、兄様とパーシヴァルは、離れないから!と、誓って結局出席する事になった。




なんとかお茶会をこなしている時に、ソレが来た。


もちろんユアンの美貌に王子がフラっとしたのだ。
周りを無視してふらふらと寄ってくる。
王子は"好き♡"という欲望をギンギラギンギラさせていた。

その、たぎる熱量に当てられて、ぐっと青褪めるユアンに、『なんてゆかしい♡』と、さらにヒートアップして。
王子はユアンの手をスリスリし始めた時、



「王子様!騙されてはいけません‼︎」


甲高い声で立ち塞がる少年がいた。
あ、サナラだ。
茶色いおかっぱ頭の可愛い顔。
隠れんぼ以来、会ってない。

サナラは鼻の頭に皺を寄せると、憎々しげにユアンを睨んだ。

「その子は平民の男と駆け落ちした"好きもの"です‼︎綺麗な顔をして、男を誑かす毒の花です!」

その言葉に驚いて、ぽかんと口を開けたって無理ない事だと思います。


~~結局、胸の入れ墨を言い立てられた。
どんなに兄様が言葉をつくしても、遠巻きにした子息達は面白おかしく尾鰭をつけて噂していく。

ユアンを見る目はもう、そうなっていた。
その日からユアンは"好きもの令息"と呼ばれるようになった。
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