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好きもの令息

2 逃げる

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テーブルから離れたユアンを素早く青年貴族が取り囲む。

「一曲お相手願えませんか。」

礼をとったお誘いだけど、ギンギンに血走った目が怖い。
そのままどっかに雪崩れ込みたい下心が見え見えで、ちょっと引く。

それでも気づかないふりして、「ごめんなさいね。」と答えると、頬を真っ赤にさせて赤べこの様に頷いた。

ぶんぶんと頭をふる包囲網の中をそろりそろりと抜け出る。

それを遠巻きにしていた令息から、負のオーラが立ち上がっていた。

「まぁ、見て!もう違う殿方にコナかけてるわっ!」

「好きものって、お下劣よね。」

はあ⁉︎
この状況でどうしてそうなる!
その目ん玉は飾りかっ‼︎

僕がおとなしくしてるからって、言いたい放題だなっ。
……ちゃんと顔と爵位はチェックしてるからなっ!

反論したりすると、どんな恐ろしい事になるかは知っている。
だから黙ってホールから出る。


~~なんでだろう。
ユアンはがっくりと肩を落とした。

今夜も友達は出来なかった。
って言うか、誰とも話せなかった。



今夜、会場に入った途端。
ざわりと空気が変わった。
青年貴族はシュッと襟を正して…悶々とピンクと紫のえっちいオーラを出してくる。
お年頃の令息は、ピキッと柳眉を逆立てて、警戒するようにこっちをガン見してくる。
こっちの猟場を荒らすな!
ってその顔に書いてある。


なんでだろう。
僕はこんなに人畜無害な子供なのに。ね。


調子に乗って食べたケーキに胸焼けがして。
なんとなく惨めな気持ちになった。

いや、いや。
落ち込んではいかん‼︎
あの子達の狙い通りになっちゃうじゃん!



ふと足元を見ると、自分の影が長い。
振り仰ぐと、レモンイエローの月が煌々としていた。
そういえば侯爵邸は、庭が有名だったな。
そう思って庭に足先を向ける。


招待状が送られてきた。
侯爵家という、王弟の名前がばーんと出たものだ。
「デビュタントを目前に、親交を深めましょう。」
って言う毎年の行事らしく。
よっぽど領地が遠い所以外は、お断りは出来ないよ。
って兄様に言われた。
……ありがた迷惑だよね。と。

ちょっと悩んだけれど、まあ気晴らしと思ってみた。
同い年の令息が沢山いれば、ひょっとして友達も見つけられるかもしれないし。
なんて、思って。



ユアンはボッチだ。
遠巻きにされている。
公爵家の次男だから、直接やられたりはしないけどね。

なんでも、
誘いを受けたら断らない。 とか。
毎晩違う相手を取っ替え引っ換え。 とか。
この前は三人いっぺんに相手してた。 とか。

もう、"好きもの令息"って呼ばれている。


ちっくしょう‼︎

どんな奴が言ってんだよ!

目の前に連れてこい‼︎

僕なんか。
僕なんか。

は、初キッスだってまだなのに!!!



イライラと歩いていて、はっと足を止めたら。
超後悔した。

あっちの茂みからも、こっちの茂みからも、なんかねちこい甘い声がたっている。
葉っぱがガサゴソ揺れている。


やばい。
とんだ酒池肉林現場に入り込んじゃった。



踵を返そうとした時。
後を付けている足音に気が付いた。
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