眠れる神子にそうやって執着するのは、なんか違う気がする

放浪

くずれのザルド

山の中の街道はいろんな人が通る。
峠には茶屋も建ち、人がせわしく行き来する。
額飾りを巻いて、認識阻害をしている泡凪アワナギは、他の人には茶色い髪と青い目に見えてるはずだ。
子供らしく物珍しいげに、キョロキョロしながら楽しげだ。
荷物運びの魔馬の大きさに声を上げ、すれ違う鳥追い女に挨拶を返す。

見晴らしの良い峠で辺りを見渡すと、重なり合う山々の向こうに光を反射するものが見えた。
あれが飛鳥の神殿。
太い一本の木を三本重ねて一柱として組み上げられた大柱は、登る為の階段が、800段とも言われている。
海からもその高さは見えて、神の社と呼ばれる。
それは人の畏怖と憧憬を集めるランドタワーになっていた。

何にでも新鮮に驚く泡凪アワナギをアルタイはにこにこと見守っている。
遠目に見ても、ちゃんとした親子に見えた。




茶屋の二階から、ぼんやりと獲物を物色していたザルドは、泡凪に目を留めて舌舐めずりをした。
なんだアレ、凄い阻害の陣を組まれている
ざっと見るだけで、物理、状態異常、そして認識。……ってことは中身はあの見てくれじゃないって事だ。
ザルドの切れ長な目がにやりと狭まった。

面白い。
単調なこの生活にウンザリしてた。

神力が白銀と翡翠色に絡まって、柱の様に起立している。
二色のものを見るのは初めてだ。

目をすがめて、出来るだけ阻害を透かして見る。
……無理か。神力だけが見える。
顔がぼやけてはっきりしない。
子供である事だけがわかるが、色が万華鏡のように反射して目がチカチカする。

面白い。
ザルドはゆっくり立ち上がった。

「兄ぃあにぃ。どうしやした。」
廊下で控えていた小物が、すかさず膝をつく。

「獲物を見つけた。人を集めろ。」

にやりと笑うザルドに、へいっ。と頭を下げながらも怯えが走る。その気配にぞくぞくする。
黙って階段を降りると、土間には草履がきっちり出されている。
無言で突っ掛けて外に出ると、後ろに人が付き従って来た。


”くずれのザルド”
ザルドは二つ名で呼ばれている。
神力を見極める力を持った男だ。
かなりの神力を扱える。

ザルドのくずれは神官くずれの略だ。
ザルドはかなり高位の神官だった。

貧乏な片田舎に生まれた。
蛇人の血を引いているザルドは、首から肩に鱗がある。
肩を寄せ合った田舎には、いろんな獣人がいて偏見も無かった。
巡回にきた神殿の者がザルドの神力の高さに気がついた。
そうして、おめでとうという祝いの言葉を掛けられて、まあ、売られた。
その頃は田舎者らしく、真面目で純朴だったから、先輩を立て、修行を積み、神力を磨き、そこそこの位にまで登った。

穏やかなその生活に終わりを告げたのは、セックスのせいだった。