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それぞれの話

33 臣籍降下

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第二王子の臣籍降下は、王太子妃の懐妊報告よりも貴族間を揺らした。

『本当にあの方は欲が無い。』
『あのような辺境を望まなくても。』
『我が家に降って頂きたかった。』

いろいろとざわめいたのち。

「お支えいたそう。」

に、落ち着いた。

そうだろう。

ディサロは人畜無害を装いながら、貴族の裏や弱点を把握していた。
しかも弱味を知る頭の上がらない男。
ではなく、それを知って尚寄り添ってくれる親身な男としての地位を築いていた。
馬鹿者は自分の見たい様に見る。
誘導すれば簡単だ。
御せない黒い奴らはこっそりと処分しておいた。
だから国の防衛の為に辺境の領主不在の領地に行くというのは、頭が花畑の貴族達からかなりの美談になっている。



「可愛い孫を楽しみにしてるわね♡」

かつて人形より綺麗だと絶賛したおかげで、王妃はルカの子供を抱っこしてみたくてたまらない。
お茶会で見たルカの容姿に、もう期待大なのだ。
王妃は我が子の執着と、なかなか黒い性格を把握している。
あまり間を開かずにストロベリーキャンドルの綺麗な子供を抱っこ出来るとふんでいた。

「それにしても、あれからマデウスがなりを顰めているのがとっても不思議だわぁ」

恋の鞘当てが轟々と湧き上がって。
退屈が吹き飛ばされると思ってた。のに。
そんなこんなを基盤の上から眺めて楽しもうと思ってた。のに。

「母上。もうすぐ兄上のお子が産まれて忙しくなりますよ。退屈なんてかけらも無くなっちゃいますからね。」

それなりの歳なのに、王妃は乙女のようだ。
うふふっと笑って、
そうね。と、答えた。


……マデウス伯父はもう出てこれないさ。

ディサロは黒い笑いを浮かべる。


あの頃。

まだ安定期に入っていない王太子妃の胎児に。
何か仕掛けようとする者と裏で戦っていた。

おかげでルカが、斜め上に突っ走るのを見逃してしまった。

ルカはまるっきり天然で。

どうしてそうなる‼︎
という方向へ、スキップで飛んでいく子だ。
だから真綿で包む様に保護していたのに、
ちょっと目を離したら…


自分の知らないルカのあんなところや、こんなところを。マデウス伯父が暴いたのを知った時は、腑が煮えくり返った。
何がなんでも赦したく無かった。

その反動は王太子妃に仕掛けた者達におもいっきりぶつけてやった。
でも、治らない……


ルカの事を知れば。
あのへっぽこ遊び人は本気になる。
ならないはずはない。

だからやんわり離していたのに。

まぁ、いい。
ぐずぐずするなら物理的に止めを刺すだけだ。


ディサロはあの四歳の時に、自分のただ一つの願いを自覚した。
それからつけられた"影"を徹底的に使った。

……マデウス伯父はもうルカの前には現れない。
人としての矜持があるなら、だ。

もしソレが無かったとしたら、この手で引導を渡すだけだ。

領地へ移る慌ただしさの中でも、ディサロは憂いを断ち切るために動いていた。



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