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結婚が降りかかってきました

20 やっぱり待ってる説教タイム

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血まみれで帰った事で、迎えに出た召使い達がギョッと青褪めた。

血はエルメに乗ってるあいだにマルロが止めてくれた。

風をうけて血の筋が曼珠沙華の花弁のように顔に広がっている。
髪色もあって、それは花束のようで。
皆んながひいっ、と絶句していた。

~~いぢわるマルロ。

クリーンで落としてくれたって良かったじゃないか!


自分の頭の中では片耳からの血で、ちょっと肩が濡れた程度だったけど。
痛みでギラついた目もあって。
人喰って来た感、満載だったらしい。
心配よりも、引かれるビジュアルだったらしい。  ごめんね。



王宮でエルメが、

"イタイ?こいツラ、ブッ殺ス?"

と、出会い頭に叫んで来たので、それを宥めるのに全身全霊使って、余力0だったのに。
(エルメは儚げな深層の姫の様に見えるが、かなりのバイオレンス系だ。だいたい雌は気が荒いのだと、マルロが言っていた。)

ただでさえ、あのクソ王弟の前で痛顔なんか見せて弱味を見せたく無かったから、ずっとツン顔してたっていうのに。


ちょっとルカのメンタルは落ちていた。
それでもエルメを水場に連れて行って。
自分もじゃぶじゃぶブーツを脱いで水の中に入った。
がしがしと磨き粉でエルメの身体を擦っていたら、もやっとしていた気持ちがすんごくクリアになってきた。

頭の中では光が転がる様にエルメが笑う。
"クスグッタイ‼︎"
とか、
"ソコ、キモチイイ!"
と、身体をよじるたびに、波がばっさんばっさん起こって、超御高い服がびしょびしょになる。

濡れて張り付いたジャケットを、脱いで岸辺に放り投げると、ずべしゃっ‼︎と、間抜けな音がした。
それがおかしくて、ルカは笑いながらエルメの爪の先から尻尾の先まで磨き上げた。



「ああ、エルメ。すっごく綺麗だ。」

真珠色の竜体は、白銀に輝いている。
白銀だけじゃ無い。
碧も紫も緑も金色も。
いろんな色が虹の様に揺れている。

「エルメ、愛してるよ。」

その大きなエメラルド色の複眼に、自分の顔が映っている。
幸せが、つま先から頭のてっぺんにまでふるふると満たされていく。


コレは精神的癒しだ。
ちょっと現実逃避ともいう。



屋敷の中には鬼がスタンばっている。
説教という名の金棒を握った鬼が。


"ジゴウジトク、ネ♡"

エルメがくすくす笑うから。
てへっ、と緊張のバリアが砕けた。

だよね。

いってくらぁ‼︎
泣いちゃったらまた慰めてねっ。

そう手を振って雄々しく屋敷に歩いていく。
途中、くしゅってくしゃみがでたら。
マルロが慌てて風呂に叩き込んでくれた。


髪を乾かしながら、マルロが耳を触る。
鏡の中で見上げると、マルロはこの世の絶望を集めた顔をしていた。

「回復師を手配しますから。」

這いずる声に、待ったをかける。
そう、傷の回復はヒールで出来る。
でも欠損は上級の回復師で無いと出来ない。
回復師を頼めば、元通りのルカが出来上がる。

「いい。このままにしとくから。」

そう、これは戒めだ。
たら、人は二度見する。
そして王弟と破局したとうわさするだろう。
捨てられた子息に手を出して来るものもいないだろうし。
恋に破れて傷心だから、その気になれないといいわけも出来る。

そしてこれはけじめだ。
勝手に突っ走った自分への戒めだ。

この欠けた耳たぶを毎日鏡で見て。
瞬間湯沸かし器な自分に、一呼吸する事を促すんだ。

鏡の中のマルロが、ちょっと泣きそうに顔を歪めて頷いた。


「……まぁ、領主様におっしゃってください。
お待ちですから…。」


ああぁぁっ‼︎

そうだ。

これから父様のお説教タイムが待ってるんだった。
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