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結婚が降りかかってきました

18 これって勝ちだよね

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「ルカ様っ‼︎」

駆け寄るマルロをチラ見しながら、そっと手を外した。

飛び散った血が頬も肩も、花火のように跡を作っている。
強い風の力で抉られた耳たぶは欠けていた。

ルカは意地でも表情を変えなかった。
痛い顔したら負ける‼︎
そんなに気持ちで口元に笑を浮かべたまま、唖然とするマデウスをじっと見返す。
正直、痛みよりビリビリした痺れで、頭ごとどっくんどっくんしていた。

突き出した手を開くと、ぱたぱたと血が溢れた。
桃色の肉片とアクアマリンのピアスがその中で転がっている。

「コレを返す。
 さあ、僕のを返して!」

その手をマルロが掴む。

邪魔するなっ!
と、睨みつけると潤んだアンバーの目があった。

「ルカ様っ!あんたの血と肉をこの方に渡すおつもりですかぁ。ソレはとんだお間抜け野郎だとわかってますよねっ!」

「あっ.!」

しまった!
考えて無かった!

上擦った声を、マルロははぁと息を吐いて落ち着かせた。
少し震える指先でルカの手からソレを受け取る。
そして自分の両手で閉じ込めて、浄化と圧をぐんと加えた。


ちぇっ。
最後まで格好つけさせてくれても良かったのに。
そんなルカの内心が見え見えなのをマルロは無視する。

マルロの目はすわってる。

わかっちゃいるけど、コレは後で説教だな。
~と、ルカは諦め気味に思った。

マルロの手の中から異様な圧と熱が漏れ出した。
閉じた手の中が、ずおんと気配を変えている。
ブラックホールとか、高速炉とかが、その中に出来てるっぽい…

なんか、目が逸らせなくて。
ごくりと唾をのんで見守った。
いや、ルカだけじゃ無くマデウスも。

ぺしゅ。

小さな音が手の中からした。



「申し訳ございません、マデウス様。
御手を汚さないようにクリーンを掛けようとしましたら…」

開いた手の中には、圧でひしゃげて炭化したピアスの残骸が乗っていた。
肉片は蒸発して名残も無い。

マルロの笑顔が怖い。
半端無く怖い。

ルカだけで無くマデウスの頬も引き攣っている。

「コレを御返し致しますから、私どものも御返し願えますか。」

こくこくと頷くマデウスが、慌て外す。



「そ、その…ルナどの…」

いいかけた言葉は直ぐに途切れた。


ごごごごごっ…

遠くから地響きが伝わって来た。

振動が身体を揺らし始める。
慌てたマデウスは辺りを見回して、水場から竜が走ってくるのが見えた。

「コレはどういうことだ⁉︎」

厩舎員も一斉に動く竜に狼狽えている。

「わ、わかりません。どうしてこんな。
何が起こったのか…」

建物からも人が出て来た右往左往している。
竜舎からも褐色竜と緑竜が飛び出して来た。
人はその合間で短く叫んでいる。

マデウスはとっさにルカを庇おうとしたが、マルロに笑顔で止められた。
ルカも耳からだらだら血を流しながら笑顔だ。
……ある意味怖い。


竜は訓練場に集まると、円陣を組んだ。
真ん中にぽっかりと空きがある。

なんの訓練なんだ…
戸惑うマデウスよりも、厩舎員達の方が狼狽えていた。

「なんなんでしょう…」



ゆっくりと眺めていたルカは、にっこりと笑を深めた。
そして、マデウス様。と柔らかく声を掛けた。

「教えてあげるよ。王家が僕を欲しがる訳。」


その時。

ヴオォォォー
ヴオォォォー

一斉に竜が上を向いた。

その声が上空に駆け上っていく。
10デオツ以上も上で醸される音の洪水に、大地ががんがんと揺れて、空気がビリビリと震えた。

な、何がっ⁉︎

耳というより骨の全てに音が叩きつけられる。
身体の深部から、竜の声を反響させながらマデウスは竜の視線のまま上を見上げた。


と、青空の中に何かが光った。

ソレは白い輝で、見る見る大きくなっていく。
白金の光。


地上の竜達の熱気が、自分の中にどくんどくんと流れ込んでくる。

熱い。
愛おしい。
熱い。

その想いに煽られて、知らないうちに涙が溢れていた。
マデウスはまるで置き物のようにそれを見つめた。

白く輝く小柄な飛竜がこっちへ来る。

「エルメ。こっちだよ。」

甘い。
蕩けるような甘い声が、横から湧き上がった。



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