1 / 21
辺境で大暴れ
1 決戦はストロベリームーン
しおりを挟む
決戦は明日の夜だ。
キーランはぐっと拳を握った。
目の前には巨大なフィーリアの木がある。
みっしりと蕾が付いている。
何度もこの木に登った。
ちょっと落ちてもめげずに登った。
シュミレーションはバッチリだ。
明日の夜の為にこっそりと持ち出した背負子の鞄に、革手袋や革袋やナイフ、毛布も非常食料も詰めて、草の間に隠す。
もちろん動物に荒らされないように、防護の結界をかけておく。
「さてと。」
勢いよく立ち上がると、バネのある走りで山道を駆け降りる。
途中で仕掛けていた罠を覗く。
ラッキー。
ロムムが3匹掛かっていた。
手早く血抜きをして、背負った収納袋に詰める。見つけた薬草や香草も詰める。
いい香りがすると思ったら、よく熟れたポンヌの実が向こうの茂みにたわわになっていた。
コレで今晩のテーブルは賑やかだ。
早く帰ったら、姉様がポンヌでパイを焼いてくれるかもしれない。
動物の分を残して、今晩の分を分けてもらう。
川辺に来ると、その周りに白い花が咲いていた。とても可愛いので摘み取って、手早くブーケにする。
花弁を痛めないように葉っぱでくるりと包むと、それも収納袋に詰めて、パンパンと手をはたいた。
そのまま元気に走り出す。
短いプラチナブロンドがふわふわとなびいて、眠り花の花弁のようだ。
獣道を慣れた様子で走り抜けると、みるみる麓が見えて来た。
赤や青の屋根が並んでいる。
畑が絨毯のように広がって、遥かに伸びる街道が黄褐色に光って見える。
街道の脇に並ぶフィーリアの木の周りには、今日は人が群れていた。
「おう、キッキ。今帰りか!」
目敏くキーランを見つけた一人が手を振る。
キーランは笑顔で振り返した。
キッキはキーランのあだ名だ。
昔、勉強好きな兄様のユークロスが、ある日『魔物、動物の図鑑』を指差して
「これ、キーランだよ!」
と、叫んだ。
そこには”猿”という絵があり、鳴き声はきっきと聞こえる。 と、あった。
すばしっこくて、木登りをして…。
まだ3歳のキーランは、木に飛び移るその生き物がかっこいいと思い
(絵は丸い目の子供の猿で、まぁ可愛いかった。毛むくじゃらだけど)
「きっき」と鳴く真似をしてたらあだ名になった。
しかも家族だけじゃ無く、町の人も使っている。
ちょっと大きくなった今は、何だかなぁと思うけれど、まぁいいやと受け入れている。
キーランはブルローティング家の次男坊だ。
世間では辺境伯という。
つまりど田舎。
木登りや駆けっこは必須科目で、キーランはそれでいうと優等生だ。
辺境は王都と遠い。
そして他国と近い。
さらに魔獣もよく現れる。
だから、はっきり言って貧乏だ。
採ってきた薬草でポーションを作る。
今日の獲物のロムムとポンヌは貴重な食料で、キーランは自分が役に立ってる事にちょっとした満足を感じていた。
フィーリアの周りにいる人は、距離を測り防護結界を張っていく。
そう、こっちも決戦は明日の夜だ。
魔石は魔獣から採れる。
他にも魔樹から採れる。
特にフィーリアの花からは、上質な風魔石が採れる。魔樹からの魔石は自分の魔力に染めやすいので、とても人気だ。
その木が自生しているわが領は、風魔石の一大産地だ。
ただフィーリアの花はストロベリームーンと言われる6月の満月にしか咲かない。
その魔石を食べようと、いろんな魔獣も押し寄せて、そりゃもう大変だ。
あらかじめ物理攻撃反射や防護結界を掛けてても、押し寄せる魔獣と大人達は攻防を繰り広げる。
一年に一回の収穫だから、それは領民の冷害や水害なんかに当てられて消えていく。
だからウチはいつも貧乏だ。
去年、山の奥のフィーリアの木を見つけたのはキーランだ。
慌てて父様に報告したけれど、頭を撫でられて褒められるだけで終わった。
そりゃそうだ。
魔獣との争奪戦だ。
山奥にまで人は出せない。
むしろ、そっちに行ってこっちに来るなと願っている。
でも翌朝落ちてた花びらを見て、キーランはあの木が街道と色が違う事を知っている。
あの木はどんな魔石をつけるんだろう。
館に帰ってブーケを差し出すと、クロディーヌ姉様はとても喜んでくれた。
キーランをはぐちゅう攻めにする。
キーランももうすぐ8歳だから、これはちょっと恥ずかしい。
でも来年の春には姉様がいないと思うから、ぐっと耐えた。
そう来年。
姉様は10才になって王立学園に入学する。
はるばる王都へ行く。
そんな姉様にあげたくて、キーランはあのフィーリアの実の魔石を狙ってる。
決戦は明日の夜だ。
キーランはぐっと拳を握った。
目の前には巨大なフィーリアの木がある。
みっしりと蕾が付いている。
何度もこの木に登った。
ちょっと落ちてもめげずに登った。
シュミレーションはバッチリだ。
明日の夜の為にこっそりと持ち出した背負子の鞄に、革手袋や革袋やナイフ、毛布も非常食料も詰めて、草の間に隠す。
もちろん動物に荒らされないように、防護の結界をかけておく。
「さてと。」
勢いよく立ち上がると、バネのある走りで山道を駆け降りる。
途中で仕掛けていた罠を覗く。
ラッキー。
ロムムが3匹掛かっていた。
手早く血抜きをして、背負った収納袋に詰める。見つけた薬草や香草も詰める。
いい香りがすると思ったら、よく熟れたポンヌの実が向こうの茂みにたわわになっていた。
コレで今晩のテーブルは賑やかだ。
早く帰ったら、姉様がポンヌでパイを焼いてくれるかもしれない。
動物の分を残して、今晩の分を分けてもらう。
川辺に来ると、その周りに白い花が咲いていた。とても可愛いので摘み取って、手早くブーケにする。
花弁を痛めないように葉っぱでくるりと包むと、それも収納袋に詰めて、パンパンと手をはたいた。
そのまま元気に走り出す。
短いプラチナブロンドがふわふわとなびいて、眠り花の花弁のようだ。
獣道を慣れた様子で走り抜けると、みるみる麓が見えて来た。
赤や青の屋根が並んでいる。
畑が絨毯のように広がって、遥かに伸びる街道が黄褐色に光って見える。
街道の脇に並ぶフィーリアの木の周りには、今日は人が群れていた。
「おう、キッキ。今帰りか!」
目敏くキーランを見つけた一人が手を振る。
キーランは笑顔で振り返した。
キッキはキーランのあだ名だ。
昔、勉強好きな兄様のユークロスが、ある日『魔物、動物の図鑑』を指差して
「これ、キーランだよ!」
と、叫んだ。
そこには”猿”という絵があり、鳴き声はきっきと聞こえる。 と、あった。
すばしっこくて、木登りをして…。
まだ3歳のキーランは、木に飛び移るその生き物がかっこいいと思い
(絵は丸い目の子供の猿で、まぁ可愛いかった。毛むくじゃらだけど)
「きっき」と鳴く真似をしてたらあだ名になった。
しかも家族だけじゃ無く、町の人も使っている。
ちょっと大きくなった今は、何だかなぁと思うけれど、まぁいいやと受け入れている。
キーランはブルローティング家の次男坊だ。
世間では辺境伯という。
つまりど田舎。
木登りや駆けっこは必須科目で、キーランはそれでいうと優等生だ。
辺境は王都と遠い。
そして他国と近い。
さらに魔獣もよく現れる。
だから、はっきり言って貧乏だ。
採ってきた薬草でポーションを作る。
今日の獲物のロムムとポンヌは貴重な食料で、キーランは自分が役に立ってる事にちょっとした満足を感じていた。
フィーリアの周りにいる人は、距離を測り防護結界を張っていく。
そう、こっちも決戦は明日の夜だ。
魔石は魔獣から採れる。
他にも魔樹から採れる。
特にフィーリアの花からは、上質な風魔石が採れる。魔樹からの魔石は自分の魔力に染めやすいので、とても人気だ。
その木が自生しているわが領は、風魔石の一大産地だ。
ただフィーリアの花はストロベリームーンと言われる6月の満月にしか咲かない。
その魔石を食べようと、いろんな魔獣も押し寄せて、そりゃもう大変だ。
あらかじめ物理攻撃反射や防護結界を掛けてても、押し寄せる魔獣と大人達は攻防を繰り広げる。
一年に一回の収穫だから、それは領民の冷害や水害なんかに当てられて消えていく。
だからウチはいつも貧乏だ。
去年、山の奥のフィーリアの木を見つけたのはキーランだ。
慌てて父様に報告したけれど、頭を撫でられて褒められるだけで終わった。
そりゃそうだ。
魔獣との争奪戦だ。
山奥にまで人は出せない。
むしろ、そっちに行ってこっちに来るなと願っている。
でも翌朝落ちてた花びらを見て、キーランはあの木が街道と色が違う事を知っている。
あの木はどんな魔石をつけるんだろう。
館に帰ってブーケを差し出すと、クロディーヌ姉様はとても喜んでくれた。
キーランをはぐちゅう攻めにする。
キーランももうすぐ8歳だから、これはちょっと恥ずかしい。
でも来年の春には姉様がいないと思うから、ぐっと耐えた。
そう来年。
姉様は10才になって王立学園に入学する。
はるばる王都へ行く。
そんな姉様にあげたくて、キーランはあのフィーリアの実の魔石を狙ってる。
決戦は明日の夜だ。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
どのみちヤられるならイケメン騎士がいい!
あーす。
BL
異世界に美少年になってトリップした元腐女子。
次々ヤられる色々なゲームステージの中、イケメン騎士が必ず登場。
どのみちヤられるんら、やっぱイケメン騎士だよね。
って事で、頑張ってイケメン騎士をオトすべく、奮闘する物語。
学校の脇の図書館
理科準備室
BL
図書係で本の好きな男の子の「ぼく」が授業中、学級文庫の本を貸し出している最中にうんこがしたくなります。でも学校でうんこするとからかわれるのが怖くて必死に我慢します。それで何とか終わりの会までは我慢できましたが、もう家までは我慢できそうもありません。そこで思いついたのは学校脇にある市立図書館でうんこすることでした。でも、学校と違って市立図書館には中高生のおにいさん・おねえさんやおじいさんなどいろいろな人が・・・・。「けしごむ」さんからいただいたイラスト入り。
孤独な蝶は仮面を被る
緋影 ナヅキ
BL
とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。
全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。
さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。
彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。
あの日、例の不思議な転入生が来るまでは…
ーーーーーーーーー
作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。
学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。
所々シリアス&コメディ(?)風味有り
*表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい
*多少内容を修正しました。2023/07/05
*お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25
*エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20
気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!
甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!!
※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる