俺と竜。ときどき王子。

たまとら

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辺境で大暴れ

1 決戦はストロベリームーン

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決戦は明日の夜だ。
キーランはぐっと拳を握った。
目の前には巨大なフィーリアの木がある。
みっしりと蕾が付いている。

何度もこの木に登った。
ちょっと落ちてもめげずに登った。
シュミレーションはバッチリだ。

明日の夜の為にこっそりと持ち出した背負子の鞄に、革手袋や革袋やナイフ、毛布も非常食料も詰めて、草の間に隠す。
もちろん動物に荒らされないように、防護の結界をかけておく。


「さてと。」

勢いよく立ち上がると、バネのある走りで山道を駆け降りる。
途中で仕掛けていた罠を覗く。
ラッキー。
ロムムが3匹掛かっていた。
手早く血抜きをして、背負った収納袋に詰める。見つけた薬草や香草も詰める。
いい香りがすると思ったら、よく熟れたポンヌの実が向こうの茂みにたわわになっていた。
コレで今晩のテーブルは賑やかだ。
早く帰ったら、姉様がポンヌでパイを焼いてくれるかもしれない。
動物の分を残して、今晩の分を分けてもらう。

川辺に来ると、その周りに白い花が咲いていた。とても可愛いので摘み取って、手早くブーケにする。
花弁を痛めないように葉っぱでくるりと包むと、それも収納袋に詰めて、パンパンと手をはたいた。

そのまま元気に走り出す。
短いプラチナブロンドがふわふわとなびいて、眠り花の花弁のようだ。
獣道を慣れた様子で走り抜けると、みるみる麓が見えて来た。

赤や青の屋根が並んでいる。
畑が絨毯のように広がって、遥かに伸びる街道が黄褐色に光って見える。
街道の脇に並ぶフィーリアの木の周りには、今日は人が群れていた。


「おう、キッキ。今帰りか!」

目敏くキーランを見つけた一人が手を振る。
キーランは笑顔で振り返した。

キッキはキーランのあだ名だ。
昔、勉強好きな兄様のユークロスが、ある日『魔物、動物の図鑑』を指差して
「これ、キーランだよ!」
と、叫んだ。
そこには”猿”という絵があり、鳴き声はきっきと聞こえる。 と、あった。
すばしっこくて、木登りをして…。
まだ3歳のキーランは、木に飛び移るその生き物がかっこいいと思い 
(絵は丸い目の子供の猿で、まぁ可愛いかった。毛むくじゃらだけど) 
「きっき」と鳴く真似をしてたらあだ名になった。
しかも家族だけじゃ無く、町の人も使っている。
ちょっと大きくなった今は、何だかなぁと思うけれど、まぁいいやと受け入れている。


キーランはブルローティング家の次男坊だ。
世間では辺境伯という。
つまりど田舎。
木登りや駆けっこは必須科目で、キーランはそれでいうと優等生だ。

辺境は王都と遠い。
そして他国と近い。
さらに魔獣もよく現れる。
だから、はっきり言って貧乏だ。

採ってきた薬草でポーションを作る。
今日の獲物のロムムとポンヌは貴重な食料で、キーランは自分が役に立ってる事にちょっとした満足を感じていた。



フィーリアの周りにいる人は、距離を測り防護結界を張っていく。
そう、こっちも決戦は明日の夜だ。


魔石は魔獣から採れる。
他にも魔樹から採れる。
特にフィーリアの花からは、上質な風魔石が採れる。魔樹からの魔石は自分の魔力に染めやすいので、とても人気だ。
その木が自生しているわが領は、風魔石の一大産地だ。
ただフィーリアの花はストロベリームーンと言われる6月の満月にしか咲かない。
その魔石を食べようと、いろんな魔獣も押し寄せて、そりゃもう大変だ。
あらかじめ物理攻撃反射や防護結界を掛けてても、押し寄せる魔獣と大人達は攻防を繰り広げる。

一年に一回の収穫だから、それは領民の冷害や水害なんかに当てられて消えていく。
だからウチはいつも貧乏だ。


去年、山の奥のフィーリアの木を見つけたのはキーランだ。
慌てて父様に報告したけれど、頭を撫でられて褒められるだけで終わった。
そりゃそうだ。
魔獣との争奪戦だ。
山奥にまで人は出せない。
むしろ、そっちに行ってこっちに来るなと願っている。

でも翌朝落ちてた花びらを見て、キーランはあの木が街道と色が違う事を知っている。
あの木はどんな魔石をつけるんだろう。



館に帰ってブーケを差し出すと、クロディーヌ姉様はとても喜んでくれた。
キーランをはぐちゅう攻めにする。
キーランももうすぐ8歳だから、これはちょっと恥ずかしい。

でも来年の春には姉様がいないと思うから、ぐっと耐えた。

そう来年。
姉様は10才になって王立学園に入学する。
はるばる王都へ行く。
そんな姉様にあげたくて、キーランはあのフィーリアの実の魔石を狙ってる。

決戦は明日の夜だ。

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