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ゾル、至る。
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突き出された剣を避けた時、それは後ろで振りかぶっていた男の脇腹を抉っていた。
びじゃっと血の爆ぜる音がする。
ゾルは転がりながら二人の間から脱した。
腰を屈めたまま立ち上がると、二人はすでにこちらに向かっている。
脇腹を抉られた男は、でろでろと血を流したまま剣を持ち上げた。
ゾルの目にはエネルギーが傷口から流れ出して見える。
もう一人の男も、あちこちに受けた傷から脆いエネルギーが空中に散じていた。
もちろん自分の傷に一考もはらっていない。
そしてゾルもそんな奴等に気も囚われずに、踵を返した。
早く。
早く。
気が急く。
そうだ、気が急く。
新しい驚きが、自分の闇の中にぽたんぽたんと落ちていく。
早く。
早く。
コレが気持ちが動いているということか。
自分にはわかる。
この先にあの人間がいる。
自分をゾルと呼んだ人間。
なんとしても辿り着きたい。
四人に襲われた時、ゾルは動けなくなった。
バラバラな動きをしているが、四人は個人個人が強い。
避けていても、剣があちこちを切り裂いて、血が、エネルギーが流れ出ていった。
エネルギーが無くなると、何もできなくて動けなくなってしまう。
圧倒的に不利な短剣を振り回しながら。
それすら重くなり始めて、ゾルはだんだんと動けなくなっていった。
このまま闇の中に落ちていくのかと。
何も見えなくなって、何も感じなくなって、そのまま。
闇の中にぽつんといた時。
ぼんやりとし始めたその時。
不意に覚醒した。
見知らぬ人間が六人。
…攻撃対象では無い。
害意も無い。
それが何かを飲ませてくれた。
ジョブジョブと抜け出ていたエネルギーの流出が止まる。
傷がしゅうしゅうと治っていく。
減っていたエネルギーが満ちてきて、あの動けない怠さが無くなってきた。
見渡すと二人が地面に斃れて動かなくなっていた。
残りの二人は、向こうに捕らえられている。
ゾルはそれを見ると立ち上がって再び走り出した。
残りの二人も追ってくる。
きっと始末する様に命じられたのだろう。
追いつかれないように走る。
追いつかれたら辿り着けない。
ただただ走る。
自分の肩を掠めた剣を掻い潜り、相手の足首を蹴り飛ばす。
めぎりっと倒れた男は、立て直そうと足掻いているが、脇腹からの血が辺りをどくどくと染め上げて、もう立つほどのエネルギーは無さそうだ。
そのまま走る。
残りの一人が追ってくる。
前方に、罠だと感じる温度がある。
でも止まらない。
この温度はあの人間に似ている。
もとよりゾルには、迷いという感情は無い。
その結界に触れた時。
足元から蔓が鞭のように伸びて絡みついた。
もがいてもその蔓はどんどん太くなり、絡んでいく。
次第に地面から持ち上がり、宙に浮いた。
初め、抜け出そうと刃で切ってみた。
細い蔓を引きちぎろうとしてみた。
しかしこの蔓は、何か魔法が掛けられているようでびくともしない。
やがて力尽きてぶら下がった。
横を見ると、奴もぶらりと垂れ下がっている。
何も映さない目がこちらを見る。
そしてだんだんとその目の中の闇さえ消えていく…。
奴はそのエネルギーを使い果たして、安寧な世界に還ったのだ。
人影がゾルを覗き込み、呼びかけた。
「ブルムどの。」
聞き慣れない名で。
やがて一呼吸置いてから、
「ゾル。」
その声に、ゾルは降り仰いだ。
そこには黒髪の見たことのない男が立っていた。
男はゾルの口元に瓶をあてがう。
「ポーションだ。飲め。」
素直に飲み込むと、低下していた機能が落ち着いてきた。
男は蔓にぐるぐる巻きにされているもう一人の方を見た。
すでにこと切れている。
ただ、何故か穏やかな顔をしていた。
びじゃっと血の爆ぜる音がする。
ゾルは転がりながら二人の間から脱した。
腰を屈めたまま立ち上がると、二人はすでにこちらに向かっている。
脇腹を抉られた男は、でろでろと血を流したまま剣を持ち上げた。
ゾルの目にはエネルギーが傷口から流れ出して見える。
もう一人の男も、あちこちに受けた傷から脆いエネルギーが空中に散じていた。
もちろん自分の傷に一考もはらっていない。
そしてゾルもそんな奴等に気も囚われずに、踵を返した。
早く。
早く。
気が急く。
そうだ、気が急く。
新しい驚きが、自分の闇の中にぽたんぽたんと落ちていく。
早く。
早く。
コレが気持ちが動いているということか。
自分にはわかる。
この先にあの人間がいる。
自分をゾルと呼んだ人間。
なんとしても辿り着きたい。
四人に襲われた時、ゾルは動けなくなった。
バラバラな動きをしているが、四人は個人個人が強い。
避けていても、剣があちこちを切り裂いて、血が、エネルギーが流れ出ていった。
エネルギーが無くなると、何もできなくて動けなくなってしまう。
圧倒的に不利な短剣を振り回しながら。
それすら重くなり始めて、ゾルはだんだんと動けなくなっていった。
このまま闇の中に落ちていくのかと。
何も見えなくなって、何も感じなくなって、そのまま。
闇の中にぽつんといた時。
ぼんやりとし始めたその時。
不意に覚醒した。
見知らぬ人間が六人。
…攻撃対象では無い。
害意も無い。
それが何かを飲ませてくれた。
ジョブジョブと抜け出ていたエネルギーの流出が止まる。
傷がしゅうしゅうと治っていく。
減っていたエネルギーが満ちてきて、あの動けない怠さが無くなってきた。
見渡すと二人が地面に斃れて動かなくなっていた。
残りの二人は、向こうに捕らえられている。
ゾルはそれを見ると立ち上がって再び走り出した。
残りの二人も追ってくる。
きっと始末する様に命じられたのだろう。
追いつかれないように走る。
追いつかれたら辿り着けない。
ただただ走る。
自分の肩を掠めた剣を掻い潜り、相手の足首を蹴り飛ばす。
めぎりっと倒れた男は、立て直そうと足掻いているが、脇腹からの血が辺りをどくどくと染め上げて、もう立つほどのエネルギーは無さそうだ。
そのまま走る。
残りの一人が追ってくる。
前方に、罠だと感じる温度がある。
でも止まらない。
この温度はあの人間に似ている。
もとよりゾルには、迷いという感情は無い。
その結界に触れた時。
足元から蔓が鞭のように伸びて絡みついた。
もがいてもその蔓はどんどん太くなり、絡んでいく。
次第に地面から持ち上がり、宙に浮いた。
初め、抜け出そうと刃で切ってみた。
細い蔓を引きちぎろうとしてみた。
しかしこの蔓は、何か魔法が掛けられているようでびくともしない。
やがて力尽きてぶら下がった。
横を見ると、奴もぶらりと垂れ下がっている。
何も映さない目がこちらを見る。
そしてだんだんとその目の中の闇さえ消えていく…。
奴はそのエネルギーを使い果たして、安寧な世界に還ったのだ。
人影がゾルを覗き込み、呼びかけた。
「ブルムどの。」
聞き慣れない名で。
やがて一呼吸置いてから、
「ゾル。」
その声に、ゾルは降り仰いだ。
そこには黒髪の見たことのない男が立っていた。
男はゾルの口元に瓶をあてがう。
「ポーションだ。飲め。」
素直に飲み込むと、低下していた機能が落ち着いてきた。
男は蔓にぐるぐる巻きにされているもう一人の方を見た。
すでにこと切れている。
ただ、何故か穏やかな顔をしていた。
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