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ゾルの生きる道
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ゾルは薄暗い茂みの中から、日の当たる水辺を見ていた。
当たり前だが気配は立てていない。
眼差しの向こうには水を飲むナウニュがいる。
家族だろう。
大きなのが二匹、小さくのが五匹。
尖った嘴で、啄ばむ様に飲んでいる。
ゾルの目には、その自分の膝くらいの親の体の中にぴこぴことうごめく命が見えていた。
その沼地の中に、ゾルは腰まで水に浸かっている。
滑りとした不快なモノが、体をどんどん鈍くしていく。
これが"冷たい"と"怠い"というモノだと、今のゾルは知っていた。
そして今出来るだけ早くエネルギーを入れないと、自分の機能が低下してしまう事も知っていた。
エネルギー。
あそこにある。
熱く蠢くエネルギーの塊。
泥地の水面を刺激しないように、そっと動く。
体の筋肉をふっと緩ませて、ぎゅっと絞るための前準備をする。
ギャッギッッッ
グエッグギャッ
バサバサと音を立ててナウニュが暴れる。
目の前を茶色い筋が流れたと思ったら、ジャリオンがナウニュの喉に噛み付いていた。
羽毛を撒き散らしナウニュが暴れる。
他の個体は慌てて逃げ去った。
ジャリオンは噛み付いたまま頭を大きくて振って止めを刺す。
羽毛がさらに巻き上がった。
その混乱に乗じてゾルが走り込む。
獲物を咥えて気を緩めたジャリオンの、仰け反った首元に素早く腕をまわすと、もう片方の手で頭を掴む。
そして一気に捻って頸骨を捻じ切った。
かっと音を吐いてジャリオンが断末魔の痙攣をする。
ぽろりと落ちたナウニュも拾って、その体をずるずると乾いた地面に引きずり上げた。
ジャリオンの頸動脈に短剣を差し込む。
まだ死んだばかりの体は、その血を元気に噴き出した。
そこに口を当ててぐびぐびと飲む。
喉から熱がつるつる落ちていく。
それが胃に溜まっていくと、かっと熱く煮えたって体の怠さが薄れていった。
ゾルはさっきのジャリオンの様に気を緩めなかった。
周りに敵の気配が無いか探っている。
せっかくの獲物を奪われてはたまらない。
生き物はゾルを避ける。
獲物はなかなか捕まらない。
ゾルは自分でも認識しないまま探索魔法を使っていた。
体が動きやすくなって来たので、獲物を捌く。
そうと意識しないままにそれらを解体し、素材と肉に分けていた。
肉は必要だ。
動けなくならないように、食べなくては。
ジャリオンの血を口から拭って、水面に頭を突っ込んで水を飲む。
ゾルは頭をもたげた。
人里から離れて行動している。
自分は人間に受け入れられない事を知っている。
自分を見る目は一様で、それは強い拒絶だった。
『ゾル。』
おい。
オマエ。
ソレだのアレだのと呼ばれる声の中で、その声は思い出すだけで脳に染み通っていく。
自分をゾルと呼ぶ人間。
『自分を大事にして。』
そう言った人間。
あの人は何処だろう。
じりじりと急かされるものが、体の中から湧いてくる。
あの人は何処だろう。
また名前を呼んでくれるだろうか。
ゾルはじっと立ち止まる。
感覚を網のように振り上げて拡げる。
山に川に空に。
あの人の気配を求めて広げていく。
ゾルを阻むものは何も無い。
ゾルを求めてくれるものも無い。
しばらく一本の木のように立っていた。
鳥や獣の声が森に戻って来た頃、唐突にゾルは走り出していた。
当たり前だが気配は立てていない。
眼差しの向こうには水を飲むナウニュがいる。
家族だろう。
大きなのが二匹、小さくのが五匹。
尖った嘴で、啄ばむ様に飲んでいる。
ゾルの目には、その自分の膝くらいの親の体の中にぴこぴことうごめく命が見えていた。
その沼地の中に、ゾルは腰まで水に浸かっている。
滑りとした不快なモノが、体をどんどん鈍くしていく。
これが"冷たい"と"怠い"というモノだと、今のゾルは知っていた。
そして今出来るだけ早くエネルギーを入れないと、自分の機能が低下してしまう事も知っていた。
エネルギー。
あそこにある。
熱く蠢くエネルギーの塊。
泥地の水面を刺激しないように、そっと動く。
体の筋肉をふっと緩ませて、ぎゅっと絞るための前準備をする。
ギャッギッッッ
グエッグギャッ
バサバサと音を立ててナウニュが暴れる。
目の前を茶色い筋が流れたと思ったら、ジャリオンがナウニュの喉に噛み付いていた。
羽毛を撒き散らしナウニュが暴れる。
他の個体は慌てて逃げ去った。
ジャリオンは噛み付いたまま頭を大きくて振って止めを刺す。
羽毛がさらに巻き上がった。
その混乱に乗じてゾルが走り込む。
獲物を咥えて気を緩めたジャリオンの、仰け反った首元に素早く腕をまわすと、もう片方の手で頭を掴む。
そして一気に捻って頸骨を捻じ切った。
かっと音を吐いてジャリオンが断末魔の痙攣をする。
ぽろりと落ちたナウニュも拾って、その体をずるずると乾いた地面に引きずり上げた。
ジャリオンの頸動脈に短剣を差し込む。
まだ死んだばかりの体は、その血を元気に噴き出した。
そこに口を当ててぐびぐびと飲む。
喉から熱がつるつる落ちていく。
それが胃に溜まっていくと、かっと熱く煮えたって体の怠さが薄れていった。
ゾルはさっきのジャリオンの様に気を緩めなかった。
周りに敵の気配が無いか探っている。
せっかくの獲物を奪われてはたまらない。
生き物はゾルを避ける。
獲物はなかなか捕まらない。
ゾルは自分でも認識しないまま探索魔法を使っていた。
体が動きやすくなって来たので、獲物を捌く。
そうと意識しないままにそれらを解体し、素材と肉に分けていた。
肉は必要だ。
動けなくならないように、食べなくては。
ジャリオンの血を口から拭って、水面に頭を突っ込んで水を飲む。
ゾルは頭をもたげた。
人里から離れて行動している。
自分は人間に受け入れられない事を知っている。
自分を見る目は一様で、それは強い拒絶だった。
『ゾル。』
おい。
オマエ。
ソレだのアレだのと呼ばれる声の中で、その声は思い出すだけで脳に染み通っていく。
自分をゾルと呼ぶ人間。
『自分を大事にして。』
そう言った人間。
あの人は何処だろう。
じりじりと急かされるものが、体の中から湧いてくる。
あの人は何処だろう。
また名前を呼んでくれるだろうか。
ゾルはじっと立ち止まる。
感覚を網のように振り上げて拡げる。
山に川に空に。
あの人の気配を求めて広げていく。
ゾルを阻むものは何も無い。
ゾルを求めてくれるものも無い。
しばらく一本の木のように立っていた。
鳥や獣の声が森に戻って来た頃、唐突にゾルは走り出していた。
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