婚約破棄に浮かれてやらかしちゃった件

イメチェンは心のリセット

「ただいま！」

帰ったルークを見て、ジブリールは悲鳴を上げた。
髪が！
あの天上の神の如き髪が！　無いっ！

見るからに自分で切りました。
という感じで、ギザギザと毛先が頭頂に立っている。
悲鳴を聞きつけた侍従達が走って来て、みんなが息を呑んだ。

「いやぁ、戦いに不利だったから切っちゃった。」

そう、三つ編みを引っ張られた。
まだ自分の技能じゃ、髪の先っぽまでカバー出来ない。
訓練所でそう言ったら、じい様にいんじゃ無いのお。って言われて短剣で刈り込んだ。

ジブリールが涙目になりながら整えてくれる。
トップから前髪まで短いベリーショート。
うなじの裾だけちょっとウルフっぽく残してくれた。
自分で切った髪はちゃんと拾ってきた。
かつらにしてもらうんだ。

新しい自分。
鏡の中の自分は、初めて見る顔だ。
だって長い髪しか見た事無かった。
追手は白金の髪目指してやって来る。
だからついでに髪も染める。

魔法で染めたら魔力が尽きた時戻っちゃうから、毛染めで染めてもらう。
本当は艶々な黒髪にしたかったけど、せいぜいアッシュグレーになった。

涙目だったジブリールが、
「あら、これは。」と、呟く。
ふかふかなメフメフみたいな子供が、鏡の中からこっちをみている。

「可愛い♡」

ハラハラ見ていた他の侍従達も頬が緩んでいる。
知らなかった。
僕ってけっこう童顔。
小動物チックに出来上がった。

じいサマが笑いながら抱っこさせろと掬いあげる。
父様達に見せてない姿に、もうご機嫌だ。
印象が違うから、これなら素のままでも気づかれないかもね。
ルークは明日からの事を考えてにやりと笑った。




全くもうっ！

役立たずばっかりだわ‼︎

エルランス領に入ろうとして叩き出される者。
入ったはいいけど、摘み出される者。
暗部とか言って偉そうにしていたのに、口ほどにも無い。
上から目線と胡散臭さがプンプンするからいけないのよっ。

王妃は上がって来る報告書に、こめかみをおさえた。

冒険者はギルドの制約で動く。
だから国や領地を自由に行き来する。
表立って人攫いなんて依頼出来ないから、裏から手を回している。
屋敷の外でルークを見ていないとか言ってるけど。そんな訳ないでしょうが！

あの子はきっつい王妃教育と学園の勉強の間にも、剣だなんだとじっとせずに訓練していた程なのよ。

新しく登録された＂ルーク＂と付く者を、手当たり次第に探させる。
ギルドの登録は極秘情報だから、王でも見れない。
だから地道に探させているけど、＂ルーク＂にあやかろうとその名前がついてる者の、多い事多い事。


仕事もしないで『真実の愛ってなんなんだろう』と、朝から晩まで苦悩している馬鹿息子王太子の尻を叩くのもウンザリだわ。

クリストファを神殿に叩き込む。
＂聖＂を付ければ、こんな子でもなんとか王妃への道はある。
とりあえず泣き言を言わない様に仕込むように命じる。

あと、私の可愛い息子。
この子王太子も、能力は高いはず。
だって私の息子だし。
今まで好き勝手させてたけど、もう対策会議で意見交換してなんとかするわよ。
猟犬に仕立て上げるくらいに仕込んでみせるわ。