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ギルドでの討伐

7 討伐の終焉

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赤黒いフレアはジャダを呑み込もうとしていた。

ひっと喉がなってレンは飛び起きた。
指先から腕から頭頂からパリパリと乾いた音を立てて魔力が全身を巡っていく。
痛い。
その痛さを感じたまま、レンは搾り出すようにして風を巻き上げた。
全身全霊を込めて風を巻き上げる。
そのままジャダの周りを叩きつけるように薙ぎ払った。

瘴気も小石も枝もがぐるぐる巻きながら上空へと延びていく。
暴風が竜巻となって吹き荒れると、ジャダの身体が残った。
呑み込もうとする黒死狼の裂けた口の中に上半身を突っ込んで、ジャダは剣を刺し貫いていた。
ジャダの背中と黒死狼の身体が風ではためく。
黒死狼から噴き上がる血の勢いは徐々に失せて、ジャダの身体を濡らしている。

黒死狼の巨体がびしゃりと大地に崩れた。
ジャダが瘴気と血を浴びて崩れ落ちる。

「ジャダ!ジャダッ‼︎」

脚に力が入らなくて。
風で身体を持ち上げられなくて。
動かない身体を指で地面に指を突き立てて這いずる。

アオニアは横たわる黒死狼を蹴り飛ばし、ジャダに金色の魔力を降り注いでポーションを振りかけた。
這いつくばるレンにいつのまにか横にいたナヴァが囁く。

「瘴気のダメージは神殿じゃないと祓えないから、先に運んでもらうね」

レンは壊れた人形のように頷くしかなかった。
気を失ったジャダの肌に瘴気の呪いが斑らに浮かんでいる。
大柄なジャダは兵が四人がかりで担架を持ち上げた。
負傷兵と報告する伝令が領都に向かう。
残った10人程の兵が、瘴気の消えた黒狼の死体を集めた。
もちろん灰になるまで焼くためだ。



魔力切れと筋肉痛にぐらぐらするレンを横抱きに持ち上げて、アオニアは歩き出す。

「とても勇気のある行動でしたね。
私はとても感動しました。」

ぐっ。
げっ。
ぎゃっ。
くぐもった声が後ろで起こる。

ツンと新鮮な血の匂いが唾液腺を刺激した。
アオニアの綺麗な指がすっと喉元に伸びたと思ったら、首に下げたギルドタグがぶちっと引きちぎられた。
振り仰ぐアオニアは神像のようで、青空色の目はキラキラと反射して凪いでいる
その凪いだ目は一片の感情も無くて、レンはブルっと震えた。

アオニアが人差し指をくるりと回すと、ギルドタグが銀色に光りながら投げ飛んだ
ナヴァの気配が足元に湧いて、強い錆の匂いが本能的に心を震わせる。

「ジャ…ジャダは…」

「安心して下さい、彼は無事に帰還して回復しますよ。
君はここで兵士と一緒に魔物に襲われたんです。
ギルドタグを見つけてジャダは泣くでしょうが、大丈夫ですよ。
すぐに折り合いをつけるでしょうから」

だって番でも伴侶でも無いんですからね。


アオニアの笑顔が怖くて、恐る恐る首を回した。
自分達の背後には誰もいなかった。
さっきまで働いていた沢山の兵はいなかった。
濡れた血の中に転がる肉塊の影に、レンはひぃと息を飲んだ。

「貴方を伴侶にしたいと願ってらっしゃる方の元にいきましょう。
きっと幸せになれなすよ。さぁ、お眠りなさい。」

ドクンドクンと脈動が頭を撃つ。
頭痛と吐き気と身体中の痛みの中で、かくんと意識がとんだ。
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