足元に魔法陣が湧いて召喚されたら、異世界の婚活だった件

たまとら

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ギルドでの討伐

3 境界線に立つ

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「そう、お仕事でしばらくお会い出来ないのね」

寂しいわ

アウロさんが眉を下げて視線を下げるから、心がつきんとなった。
美人の寂しそうな顔は、良心にグサリと楔を打ち込む。

嘘じゃ無い!

"岩猿を討伐した者を"という護衛の指名依頼が入って出掛ける。
ハントヴェルゲという王都から一週間ほどの領地だ。
帰って来た頃ちょうど一年だ。

アウロさんは本当に大好きだけど。
本当に本当に別れたく無いけれど。
レンには未来のビジョンが無い。
そんな自分には次回の約束は出来なかった。

アウロさんは貴族の夫人で、わざと家名も聞いてない。
貴族社会の端っこにいるジャダがツナギを取ってくれて、討伐遠征でブランクが開いても約束が出来てた。
そんな有難いジャダと別れて、どっかに流れて一人で生きてくとなったら、どう考えてももう会えないと思う。
この銀粉がさざめくラベンダー色の目も、優しい指にも会えないと思う。

そう思うと熱いものが迫ってきて、アルカイックスマイルを浮かべていても心の底はぐるぐるしていた。

ハナとは連絡をとってない。
初めて出来た友達アウロとも有耶無耶で途絶える。
ずっと一緒のジャダとも切れた時、この世界で俺は本当に一人だ。

きっと酷い顔をしてたんだと思う。
アウロさんが指先をきゅっと握った。
熱いほどの体温に、自分が冷えていたのがわかる。

「大丈夫よ」 優しい声がする。

「また会えるわ。大丈夫」 待ってるわ。ずっと待ってたんですもの。

こっちの事は何も知らない筈なのに、アウロさんが微笑むとそうだねって思えた。
アウロさんが手を握ったまま顔を覗き込んでくる。
貴族の夫人としてはお行儀悪いその姿に、侍女さん達は微笑んでいる。
アウロさんの目は"大好き"と言っていた。
燃え上がって焼き尽くす熱情の好きじゃ無く、ふわりと温かくなる慈愛の好きだ。
嬉しくてレンも大好きな気持ちを目に込める。
会えなくなるけど元気でいてね。
そう心で呟くと

「レンちゃん。人に頼るのも大事な事よ」

アウロさんが視線を絡ませたままそう言った。
約束よ。困った時は助けてって言うのよ。

そんな約束をさせられて、指切りまでさせられてレンは別れた。


ギルドの指名って初めてだ。
冒険者は採取も討伐もこなして、護衛をしてランクが上がる。
レンがCランクに上がって独り立ちする為にはこの護衛依頼がちょうど良い。
ハントヴェルゲという名を聞いて、ジャダは断ろうとした。
あの『召喚の儀』のお披露目会の後で、「番のいない異世界人」へと何度も面会を申し込んでたらしい。

異世界人と言う言葉にゾッとした。
自分ではもうあっちの世界の事は考えていなかったからだ。

ジャダは断ろうとしたが、外堀が埋められてて断れなかったらしい。
しかもそのハントヴェルゲ領の近くで濃い瘴気が噴き上がったそうだ。
強い魔物への調査と対処にランクの高い冒険者に来て欲しいと言われると、断り切れなかったらしい。ほら、基本甘いから。


「今のレンは瞳の色も違うし、バレてないと思う。
ギルドの依頼だから無体な真似はして来ないと思うが…。
いいか。大人しくして側を離れるなよ!」

しつこい程にジャダは言い聞かせた。
いつでもジャダにとってレンは保護対象だ。
離れるなよ。という言葉が心をころころとくすぐっていった。
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