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もう一人の異世界人
9 女王殺し
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蹲っていた顔を上げさせた時、リュンハイト公爵夫人の形相が変わった。
貧相な子供。しかも醜い。
なんなのその顔の罪人のような入れ墨は!
おどおどした目に今までの怒りが爆発した。
私の息子は美しい。
誰でも選び放題だ。
寝室に送った女も男も綺麗な者ばかりだったのに
そいつらを叩き出すから、息子の理想が高いと思ってたのに
それがコレ?
どうしてコレ⁉︎
形の良い夫人の紅色の唇が初めは○の字に開いた。
アオニアに似た青空の目が見開かれて、それがゆるゆると歪んでいく。
泣いてるように崩れた後、夫人の眼は吊り上がった
「どうしておまえなぞが此処にいるのよっ‼︎」
全身が瘧のようにに震えて叫びが止まらない。
脳裏が真っ赤に染まった。
おまえなぞ‼︎
おまえなぞ‼︎
身体を楽器のように反響させ、彼女は怒鳴り続けた。
ナヴァは逃げ出せなかった。
身体を鞭打つように言葉が次々と放たれる。
般若のようなオクサマはまさしく女王だった。
激しい怒りの波動が轟轟と打ち付けて、心からも体からも血が飛んだ。
きゃあ!と侍女が縮こまる。
怒りはミシミシと天井も床も軋ませて、あらゆるものを吹き飛ばす。
ナヴァの周りがギシギシと押し潰されていく。
ナヴァは目を見開いたまま、彼女の狂乱をぼんやりとみていた。
女王の結い上げられた金髪が、びゅうびゅうと翻り蜘蛛の巣のようにそそけ立つ
「おまえなぞ」
「おまえなぞ」
死ね
死ね
死んでしまえ
女王の命令が錐のように細く額を突いてくる。
死ぬ
死ぬ
死ななきゃ
女王の望みは叶えなければ
ナヴァの意識が命じる。
早く死ぬのだ。
でもナヴァは踏み出せない。
アオニアが独りになる。
アオニアが遺される。
心が泣きながら死を拒もうとする。
夫人の力がぴしぴしと頬にも額にも刻まれていく。
纏ったローブがじゃっと裂けた。
痛い。
糸となって翻る血を見ながらナヴァは呟いた。
やっぱり死ぬのかな。
一人で死ぬのかな。
アオニアを置いて死ぬ…
ぼんやりと諦めかけた時、金の光が目の前を過ぎった。
それは当ってくる風に血を咲かせながら、夫人の顔を鷲掴んだ。
ハッとする彼女の眼窩に指を突き入れる。
掌で叫び声が響かない。
部屋で荒ぶっていた風がふんと音を無くした。
見上げるナヴァの前に脚がある。
その背中がかがみこんで夫人の顔を掴んでいた。
アオニアの顔が見れない。
でも見れなくて幸せだった。
彫像のようなアオニアの顔には慈悲や憐れみという人としての感情が一切無かった。
ぐしょっ。
手を横に払うと、夫人の身体が跳んだ。
きゃあっ
侍女の甲高い叫びは途中で消えた。
顎を掴んで引き剥がしたからだ。
ぐべっ
粘稠な音がして、足元に白い歯の並ぶ口元が転げた。
ツンと鉄錆の匂いが沸き立つ。
その匂いが絡み付く中で、ナヴァは飛び込んできたアオニアを見上げていた。
貧相な子供。しかも醜い。
なんなのその顔の罪人のような入れ墨は!
おどおどした目に今までの怒りが爆発した。
私の息子は美しい。
誰でも選び放題だ。
寝室に送った女も男も綺麗な者ばかりだったのに
そいつらを叩き出すから、息子の理想が高いと思ってたのに
それがコレ?
どうしてコレ⁉︎
形の良い夫人の紅色の唇が初めは○の字に開いた。
アオニアに似た青空の目が見開かれて、それがゆるゆると歪んでいく。
泣いてるように崩れた後、夫人の眼は吊り上がった
「どうしておまえなぞが此処にいるのよっ‼︎」
全身が瘧のようにに震えて叫びが止まらない。
脳裏が真っ赤に染まった。
おまえなぞ‼︎
おまえなぞ‼︎
身体を楽器のように反響させ、彼女は怒鳴り続けた。
ナヴァは逃げ出せなかった。
身体を鞭打つように言葉が次々と放たれる。
般若のようなオクサマはまさしく女王だった。
激しい怒りの波動が轟轟と打ち付けて、心からも体からも血が飛んだ。
きゃあ!と侍女が縮こまる。
怒りはミシミシと天井も床も軋ませて、あらゆるものを吹き飛ばす。
ナヴァの周りがギシギシと押し潰されていく。
ナヴァは目を見開いたまま、彼女の狂乱をぼんやりとみていた。
女王の結い上げられた金髪が、びゅうびゅうと翻り蜘蛛の巣のようにそそけ立つ
「おまえなぞ」
「おまえなぞ」
死ね
死ね
死んでしまえ
女王の命令が錐のように細く額を突いてくる。
死ぬ
死ぬ
死ななきゃ
女王の望みは叶えなければ
ナヴァの意識が命じる。
早く死ぬのだ。
でもナヴァは踏み出せない。
アオニアが独りになる。
アオニアが遺される。
心が泣きながら死を拒もうとする。
夫人の力がぴしぴしと頬にも額にも刻まれていく。
纏ったローブがじゃっと裂けた。
痛い。
糸となって翻る血を見ながらナヴァは呟いた。
やっぱり死ぬのかな。
一人で死ぬのかな。
アオニアを置いて死ぬ…
ぼんやりと諦めかけた時、金の光が目の前を過ぎった。
それは当ってくる風に血を咲かせながら、夫人の顔を鷲掴んだ。
ハッとする彼女の眼窩に指を突き入れる。
掌で叫び声が響かない。
部屋で荒ぶっていた風がふんと音を無くした。
見上げるナヴァの前に脚がある。
その背中がかがみこんで夫人の顔を掴んでいた。
アオニアの顔が見れない。
でも見れなくて幸せだった。
彫像のようなアオニアの顔には慈悲や憐れみという人としての感情が一切無かった。
ぐしょっ。
手を横に払うと、夫人の身体が跳んだ。
きゃあっ
侍女の甲高い叫びは途中で消えた。
顎を掴んで引き剥がしたからだ。
ぐべっ
粘稠な音がして、足元に白い歯の並ぶ口元が転げた。
ツンと鉄錆の匂いが沸き立つ。
その匂いが絡み付く中で、ナヴァは飛び込んできたアオニアを見上げていた。
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