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もう一人の異世界人
8 番、番とうるさい!
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リュンハイト公爵夫人は番を嫌悪していた。
"番"を免罪符に押し立てて、全てを有耶無耶にしようとする世間が大嫌いだった。
幼い頃は人並みにキラキラと美句麗句で飾られた番の物語をうっとりと夢見てたが、結局彼女に番は現れなかった。
それでも美しい彼女に言い寄る者は掃いて捨てるほどに現れる。
やがて彼女は激しい恋をした。
将来を約束し、家族同士で話し合い、結婚が秒読みになった時に男に番が現れた。
男は彼女の手を振り解くと、振り返る事もなく番に向かって走って行った。
すまんもごめんも、じゃという一言すら無く走って行った。
しかも周りは番の出会いに沸き立って祭りのように盛り上がって、彼女の心を置き去りにした。彼女は『番が現れたんだからしょうがないよね』という"番あるある"だと受け止められて同情も嘲弄もされなかったが、心の中のブリザードを誰も分かってはくれなかった。
番、番とうるさい‼︎
番がそんなに偉いのかぁ‼︎
上級貴族令嬢としてその怒りを封じながら、やがてやはり番の現れなかったリュンハイト公爵家の後継と番契約を結んで結婚した。
彼は優しく愛情深く、心の傷はすぐに癒えたが中々子供は授からなかった。
有害な魔素の溢れるこの世界は少子化で子供は貴重だ。
口さがない親族は「番なら子供が授かりやすいのに」とか「やっぱり番契約では子供は出来にくいな」とねちねちと彼女の心を抉った。
ようやくアオニアが生まれた時、彼女は安堵と解放感に脱力して涙した。
アオニアは美しく賢い子供だった。
誰もアオニアに文句を言わず、むしろ心酔して可愛がっていく。
彼女にとってこの子育て期間が心底幸福な時期だった。
大人に付いて昼の社交の始まる六歳の誕生日はとても盛大に行われた。
将来の学友となる子供とその親を招待して行われた。
金の髪と青空の瞳。そしてその美貌。
落ち着いた上品な物腰。全ての人がアオニアに夢中になった。
賞賛の声に誇らしさで風船のように膨らんだ心のまま、彼女はその陰口を聞いてしまった。
「お子様はおひとりなのね。一人っ子って可哀想だわぁ」
「番なら、もう幾人かの兄弟はいらっしゃったでしょうねぇ」
彼女はぶるぶる震えた。
番、番。またしても立ちはだかるのは番だ。
番がそんなに偉いのかっ‼︎
番じゃないのがいけないのかっ‼︎
後先見ずに盛って子供を孕み続けるなんて、獣みたいじゃないかっ‼︎
子供が沢山いれば、番よりも偉くなれるのかっ!
彼女の中の何かがぷつりと切れた。
彼女は夫に妾候補を送り込んだ。
例え妾から産まれても全て認知しますと言いながら。
夫は妻だけで良いと言ったが、彼女は止めなかった。
子供。
とにかく子供を。
そしてアオニアに精通の兆しがあった時に、ベッドに女を送り込んだ。
公爵はそこでようやく彼女のヤバさを理解した。
王宮の仕事を辞め、領地に彼女を連れて引き篭もった。
それでも時々アオニアのベッドに潜り込んむ者が現れる。
やがてアオニアに番が現れたという。
懐妊の報告をジリジリと待つ彼女に、王都の侍女から報告が届いた。
彼女は夫の隙を見て領地から飛び出すと、王都の屋敷に乗り込んだのだった。
"番"を免罪符に押し立てて、全てを有耶無耶にしようとする世間が大嫌いだった。
幼い頃は人並みにキラキラと美句麗句で飾られた番の物語をうっとりと夢見てたが、結局彼女に番は現れなかった。
それでも美しい彼女に言い寄る者は掃いて捨てるほどに現れる。
やがて彼女は激しい恋をした。
将来を約束し、家族同士で話し合い、結婚が秒読みになった時に男に番が現れた。
男は彼女の手を振り解くと、振り返る事もなく番に向かって走って行った。
すまんもごめんも、じゃという一言すら無く走って行った。
しかも周りは番の出会いに沸き立って祭りのように盛り上がって、彼女の心を置き去りにした。彼女は『番が現れたんだからしょうがないよね』という"番あるある"だと受け止められて同情も嘲弄もされなかったが、心の中のブリザードを誰も分かってはくれなかった。
番、番とうるさい‼︎
番がそんなに偉いのかぁ‼︎
上級貴族令嬢としてその怒りを封じながら、やがてやはり番の現れなかったリュンハイト公爵家の後継と番契約を結んで結婚した。
彼は優しく愛情深く、心の傷はすぐに癒えたが中々子供は授からなかった。
有害な魔素の溢れるこの世界は少子化で子供は貴重だ。
口さがない親族は「番なら子供が授かりやすいのに」とか「やっぱり番契約では子供は出来にくいな」とねちねちと彼女の心を抉った。
ようやくアオニアが生まれた時、彼女は安堵と解放感に脱力して涙した。
アオニアは美しく賢い子供だった。
誰もアオニアに文句を言わず、むしろ心酔して可愛がっていく。
彼女にとってこの子育て期間が心底幸福な時期だった。
大人に付いて昼の社交の始まる六歳の誕生日はとても盛大に行われた。
将来の学友となる子供とその親を招待して行われた。
金の髪と青空の瞳。そしてその美貌。
落ち着いた上品な物腰。全ての人がアオニアに夢中になった。
賞賛の声に誇らしさで風船のように膨らんだ心のまま、彼女はその陰口を聞いてしまった。
「お子様はおひとりなのね。一人っ子って可哀想だわぁ」
「番なら、もう幾人かの兄弟はいらっしゃったでしょうねぇ」
彼女はぶるぶる震えた。
番、番。またしても立ちはだかるのは番だ。
番がそんなに偉いのかっ‼︎
番じゃないのがいけないのかっ‼︎
後先見ずに盛って子供を孕み続けるなんて、獣みたいじゃないかっ‼︎
子供が沢山いれば、番よりも偉くなれるのかっ!
彼女の中の何かがぷつりと切れた。
彼女は夫に妾候補を送り込んだ。
例え妾から産まれても全て認知しますと言いながら。
夫は妻だけで良いと言ったが、彼女は止めなかった。
子供。
とにかく子供を。
そしてアオニアに精通の兆しがあった時に、ベッドに女を送り込んだ。
公爵はそこでようやく彼女のヤバさを理解した。
王宮の仕事を辞め、領地に彼女を連れて引き篭もった。
それでも時々アオニアのベッドに潜り込んむ者が現れる。
やがてアオニアに番が現れたという。
懐妊の報告をジリジリと待つ彼女に、王都の侍女から報告が届いた。
彼女は夫の隙を見て領地から飛び出すと、王都の屋敷に乗り込んだのだった。
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