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もう一人の異世界人

6 人見知りの隠密

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隠密はナヴァの持って生まれた本能とも言える技だ。
気配を消すと、よほどのことが無いと見つける事は出来ない。

人と話す事に慣れていないナヴァは、気配を消して屋敷内を巡る事は大好きだった。
たまに執務室のアオニアをそっと見ていると、直ぐに真っ直ぐ見返される。
びくりと震えて敗北感で揺れるけれど、見つけてもらえる喜びが心の奥をこしょこしょとくすぐる。
「勿論だよ。君がいるのは魂でわかるからね」
そんな言葉が温かく揺れる。

アオニアはすぐ膝に乗せたがる。
執務中でも、ローブを深く被ったナヴァは抱っこされる。
まだ小さくて布の塊の様だけれど、アオニアはちゅっとリップ音でキスをする。

ナヴァがいると仕事が進むと笑うアオニアに、周りの文官達は頷いていた。
超絶無表情なアオニアの蕩ける笑顔は、屋敷の人を幸せにしていた。

アオニアはナヴァの隠密の能力を止めなかった。
むしろ誇らしげに嬉しげに、気付かない文官の後ろにいるナヴァを見ている。
そうやってナヴァはあらゆる所に潜り込んだ。

それはこの世界を知る事だった。
建物の構造が違う。
庭の造りが違う。
果ては街の人種と職業というシステムも目新しかった。
生まれて初めて探索という事ではなく、知識欲で歩き回った。



「だって‼︎見たでしょ、あんなヘンな顔でぇ!」

屋敷の侍女の休憩所は、感情も吹き溜るので面白い。

「お顔にバーコードがあるのは向こうの世界の方だからよ。変は失礼よ」

「だってアオニア様はあんなにお美しいのよ!
こっちに指示一つ出せない子供が番だなんて騙されてるんだわ
何か変な術とか薬とか使われてるのよ」

ナヴァは自分もそう思う、と思った。
アオニアと自分では釣り合わない。

アオニアはその伸びやかな美しさに崇める者が多い。
無表情で淡々と過ごしていたアオニアに番が出現した事を屋敷の者達は喜んだ。
ただ何人かは美貌のアオニアの隣に立つ者を夢見ていた様で、ナヴァを不満に思っているようだ。

この世界には番という結びつきがある。
本能的に人は番を求める。
魔力が多い者程、狂った様に番を探す。
だがその番に出会えるのは、地域を移動できる貴族が多い。
農民のように一つの地域で生涯を終える平民にとっての番は、憧れの伝説に近かった。
領地から王都へ働きに出て来た魔力の少ない平民にとっては『番って素敵♡』というお伽話に過ぎなかった。
そのせいで、ナヴァが番だと聞いても"ふさわしく無い"と考える者もいる。

「あたし、奥様に報告するからね!」

ナヴァは鼻息荒い侍女を感慨を込めずに見つめていた。
オクサマとは、なんだろう?
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