足元に魔法陣が湧いて召喚されたら、異世界の婚活だった件

たまとら

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もう一人の異世界人

3 お披露目会で

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ナヴァは目の前の美しい人間が雄という種族で、自分に求婚しているのが信じられなかった。自分も雄だ。
何か勘違いしていると告げようと、目の前の顔を見た時。
もう世界は閉じていた。
そう、二人以外の世界は消えていた。

金のまつ毛に縁取られた青空の中に自分がいた。
貧相で目がギラギラして、黒いバーコードが鼻を通って両頬にある。
惨めでちっぽけな自分がその中にいた。
娘嬢様達の嫌悪しか呼ばないその姿。
隠密の技を使って壁際に潜んでいた自分の元へ一直線に来たと思ったら、彼は片膝を着いて自分に求婚してきた。
その青空は愛しい愛しいと波打っている。

誰と触れ合う事もなく、かけられる言葉は指令だけ。
そんな自分が"愛しい"というモノを理解できた事が驚きで、足元からジンジンと震えが上がってくる。
自分の技を見破ったその人を驚きで真っ直ぐ凝視し、ナヴァはそのままうっとりと自分の心に絡め取られていく。
この気持ちがなんかのか、何故なのかわからない。
ただこの美しい人間は自分の一部だという事と、必要だという事がわかった。

上級娘嬢様方の叫びが聞こえる。
それは下級の自分へ、真っ直ぐ鞭のように飛んでくる。
戸惑いと恐れと、禁忌に触れる自分に心がギチギチと歪むけれど
ナヴァは本能的にその手をとった。


お披露目会は3日続く慣わしだが、ナヴァが2日目以降現れる事は無かった。
アオニアが連れ帰ったからだ。
何処か異様な熱を帯びたお披露目会は、翌日からいつもより華美になり賑やかに行われた。
ナヴァの隠密の技は人の意識からもぽっかり気配を消したようで、誰の口にものぼらなかった。
異世界から来た娘嬢様達は、それぞれの番に請われてうっとりと旅立って行った。


アオニアは柔らかなローブにくるまったナヴァを、館に連れ帰った。

リンドルム担当官の計らいだ。
「異世界の姫君は番というモノをわかってらっしゃらないのですよぉ。
ほぉら、異世界は社会のシステムが此方とは違いますしねぇ。」
そう始めたリンドルム担当官は、ナヴァがいわばスラム出身であの女性達が貴族令嬢に当たるのだと言った。しかも身分差は驚く程だと言う。
こっちでは番になる事でその身分全てがひっくり返る。
この世界の者ならば、番とは魂で結ばれた相手だとわかっているのだが…
長く持って回った説明は、詰まる所別館に帰るとナヴァは害されるという事だ。
1分1秒でも離れ難いナヴァを攫って行って良いと言われ、アオニアは喜色で輝いた

そんな眩しさに糸目をより細くしながら、リンドルム担当官は
「ああ、それとねぇ、」ぬるっと言いにくい事を切り出した。

「此方にいらしてからナヴァ様は5センチも成長したんですよぉ」

リンドルム担当官は貴族の令嬢達の抱き人形ほどのナヴァの身体について触れた。

「傷も爛れもありましたから、回復師と再生師を派遣しました。
今は栄養状態も良くて、お肌もぷるんとしてますが……でもねぇ」

子供を成す。
そしてその為の行為は、ナヴァ様のお身体は耐えられませんよぉ。


アオニアは、内緒ですよぉというリンドルム担当官に頷いて防音の魔道具を発動した
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