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押しかけ護衛はNoとは言えない

8 兎りんごとしょっぱい現実

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ジャダは皿に鎮座している赤い耳の兎達を見た。
困惑している。
これは果物のはずだ。
何故兎になっている?
丸齧りではいけないのか?
あるいは二つに割るとか四つに切るとかは?
「どうぞ♡」と主張する兎の自己犠牲に躊躇いながらもシャクリと食べる。

果物一つに対するこのこだわりは、レンの個人的資質なのか民族的なのかわからない

レンは市場でおまけしてもらったリンゴを袋一杯に買った。
昼のガレットには煮詰めて甘酸っぱい果肉を付け合わせにしてくれた。
その一才の手抜きの無い食への追及は、感動さえ覚える。

それこそ、こんな嫁がいたらいいのに。
可愛くて気が利いて、料理上手で頑張り屋なんて最高じゃないか。
そんなレンが「弟で!」と言った時、何ががとすっと心に刺さった。痛い。

……だが、言っておかなくては。
市場のおばちゃん達のように、冒険者達は物分かりいい訳じゃ無い。
闘争本能に振り切っている奴等は、ほとんど本能で生きているのだ。
飲む打つ買うという快楽本能も目一杯だ。
そこに可愛いくて料理上手が降臨したら、吹き溜まる本能の嵐は推して知るべしだ
本能はいい聞かせて治るものじゃないからな。


「その…レン…」
「ん?」
レンはもじもじと視線を彷徨かせるジャダを見た。
「ご飯足りなかった?」
「い、いや。そうじゃ無くて…」

ジャダの琥珀色の目はウロウロと泳いでいる。
ピクシーカットのジャダの耳は、赤銅色の短い髪から突き出している。
それが赤くなって擬態するように髪と同化して、まるっきり犬耳だ。

「「……」」

何故かどぎまぎと沈黙が流れる。
なんかモヤモヤとしたいたたまれない気配に、レンはウズウズとした刺激を感じた

あ、これ… なんとなくデジャヴだ。
このどことなく公言出来ないむずむず感はあの時も感じた…。
小学校の高学年の時じいちゃんが夕食の後、ハナにもずもずと何かを告げようとして言い出せず、痩せた指をぎゅむぎゅむと握り込んでた時と同じだ。
なんとなく大っぴらに口に出しちゃいけない雰囲気で、側のレンは戸惑った。
じいちゃんが暑く無いのに汗をかいてしどろもどろに言ったのは、女の子には生理というものがあると言う話で。
隣のおばさんが教えてくれると言う話だった。

なんだろう、この感じ…

ゴホン‼︎
意を決したジャダがぐっと顔を上げた。

「聞いてると思うが、こっちの世界では同性同士で結婚するし子供も出来る」

やっぱそっち系の話だー

「うん、聞いてる。」

「レンは異世界人とわからない。」

「うん。」

「異世界人として狙われてると俺は護衛についた。
リンドルム様もレンの足取りを上手く隠してくれてる。
だがギルドに行ったらこの世界の人として狙われるだろう。」

「?」

ジャダの琥珀色の目がぎっとレンを捉えていた。
マジっすか?狙われるってナニ?
そんな弱っちそうなのが、ギルドに来るなって怒られるってこと?

「レンは綺麗で可愛くて優しくて料理が上手い。
一度でいいから付き合いたいと冒険者達がゴリ押ししてくるだろう」

「はあっ?」

「俺を防波堤として、あくまでも嫁では無く弟でいくのか?」

「え、弟で…」

そっちー!
狙ってるってそっちー?
無いわぁー
嫁は無いわぁー
やっぱり無いわあー

「わかった。俺は護衛としてレンを護ろう。
レンも一人にならないようにしてくれ。」

「いや、俺。そんな弱く無いし。ハナの相手も殴って来たし。」

だから大丈夫‼︎
むふんと力強い頷くレンを、ジャダは生温かく見ていた。
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