上 下
20 / 63
押しかけ護衛はNoとは言えない

1 ハナの卒業

しおりを挟む
私、私ね
女神様に『何を望む?』って聞かれたときね
咄嗟に「幸せになりたい」って言ったの。
足元の変な絵に吸い込まれて、訳が分からなくって、死ぬかもって思ったらそう言ってた。
誰にも怖がらないで、大事にされて、笑っていたいって言ったの。

私、自分の事しか考えない馬鹿なの。

いっつも庇ってもらってたのに。
食べ物も真っ先にくれてたのに。
あの男に死ぬ程殴られても守ってくれてたのに。

私、私ね
自分の事しか考え無い、ヒキョウで馬鹿な女なんだ。

ごめんねぇ。
ごめんねぇ、レンちゃん。

私が行かないから修学旅行も我慢してたの知ってるのに。

私って酷い女だよねえ。


それなのに、レンちゃんを置いてこうとしてる。
あの人と一緒に行こうとしてるの。ごめんねぇ。



そうひくひく言って泣くハナをぎゅっと抱きしめる。
うん、馬鹿だ。馬鹿女だ。

「俺はハナが幸せになる様にって望んだ。
だからハナが幸せになりたいって自分から願うのはいっちゃん嬉しいよ。」

それがどうして分からないんだ、馬鹿ハナめ!
なりたいと前向く気持ちを後押し出来るって最高じゃん。


ぎゅっと抱き合ってると、とくんとくんと心音が聞こえて。
それが自分のと一つに重なって、一つの生き物みたいになっている。
あ、俺たち双子じゃん。
母親の胎の中から、こうしてくっ付いていたんだろうな。

蕩けるほどの安心で、泣いて汗ばんだ髪をゆるゆると梳いてやる。
母親に置いてかれた鍵の掛かったアパートで、いつもこうやってくっ付いてた。
あの頃は何も明るいものは無くて、
互いの体温だけが頼みの綱だった。
それが一切リセットされて此処に来たと思えば、未来は明るい筈だ。

「だから幸せになれよ。嫌なら絶対嫌だと言えよ。
自分なんかと諦めるなよ。
あっちもこっちも、ハナはひとりだけなんだからな。
自分で自分を大事にしろよ。あ、ついでにあの男も大事にな。」

ハナはうんうんと何度も頷いた。

出発前夜、吐き出す様にハナは泣いた。
思えば二人は離れたことが無い。
ハナは好きな男との新しい生活の期待と不安で情緒不安定になっている。

レンは泣いた目を冷やしてやる。
せっかくなら美人のままでサンドロさんに渡したい。
ハナはこんなふうにちょっと面倒くさいけど可愛い女だ。
そんなハナを守る役目は、もう終わりになるのだ。

ジャダに聞いたら、領地の人はからっと元気でおおらからしい。
送り出したら俺は身軽だ。
心配で、妬ましくて、ほっとするけど不安で…
複雑な気持ちが混ざり合う。

幼い頃のようにハナの背中をトントンしながら、"花嫁の父"ってこんな感じなんだろうなぁって思った。


それにしても…
ジャダにさん付けを拒否されて、護衛にと迫られて、きょどる俺に
「じゃ、一年と決めてはいかがですぅ?」
と、カールさんが助け船をだしてくれた。
ーー助け船だよな?

ジャダはサンドロさんの従兄弟で、領主一族なので、護衛期間が終わっても家に帰れるそうだ。
渋る俺に、
「このままだとアンパット家は異世界人への襲撃という不名誉で、大変なのですよ。ハナ様との婚姻の他に、被害を受けた方へ専属の護衛を手配したという免罪符が無いと、後々ちょっと可哀想なんですがねぇ」

それ、脅しに近い気がするぞ。
まぁ一年ならいいか。
今後のことで便宜をはかってもらうんだから、それくらいなら。

こうしてレンに押しかけ護衛が出来たのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様

佐藤 あまり
BL
 猫を助けて事故にあい、好きな小説の過去編に出てくる、罪を着せられ処刑される悪役に転生してしまった琉依。            実は猫は神様で、神が死に介入したことで、魂が消えかけていた。  そして急な転生によって前世の事故の状態を一部引き継いでしまったそうで……3日に1度吐血って、本当ですか神様っ  さらには琉依の言動から周りはある死に至る呪いにかかっていると思い━━  前途多難な異世界生活が幕をあける! ※竜公爵とありますが、顔が竜とかそういう感じては無いです。人型です。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

処理中です...