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異世界の事情
2 着いたら異世界
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そのぽよんとした下ぶくれのほっぺたは柔らかそうだ。
どすこいと突撃したら、むふんと衝撃を吸収しそうなお腹はぱつぱつで。
ゆるキャラ好きな日本人のアイデンティティを揺さぶるその姿は、どう見てもムー○ンだ。
いや、ムー○ンという前世のまま、人間になった姿だ。
それがひらひらなジャボを煌めくピンズで留めて立っていた。
何故か誰も声を上げられず。
ぽかんと見上げられていたその人は、再びパンパンと手を叩く。
「はぁい。注目でぇす!
皆様無事に到着されましたねぇ。お疲れ様でしたぁ。
説明を致しますので付いて来て下さいねぇ!」
どうぞぉ。と背を向けられた。
何が何だかわからない。
とりあえず一人が立ち上がり後を追った。
次々と立ち上がり歩き出す。
……危険は無さそうだ。
ここにいても訳がわからない。
レンはハナを促して後に続いた。
模様から足を出すと、むわっと空気が変わった。
え、と止まろうとしたが皆は進んで行く。
喉の奥が痛い程の焦りと恐怖が、踏み出すごとにゆるゆると溶けていく。
「ねぇ、やっぱ異世界だよね」
「マジ!あたし、聖女なのっ?」
「やったぁ‼︎勇者なんだよなっ‼︎」
ウキウキしてくる。
周りの声が弾んでいる。
ハナの震えも治ってきた。
変だ。
レンのエマージェンシーモードが警報音を鳴らす。
レンのそれは本能に近いものだ。
それが、薄れる恐怖を警告してくる。
うふふという湧き上がる楽しい感情に警報を鳴らしてる。
ムー○ンは狭い廊下を通って近くの会議室に案内した。
入り口に受付が在って、名前や年齢、性別に出身地を書いてから着席を促される。机は皆んな前を向いていて、教卓にムー○ンが立っていた。
その背後の黒板に【welcome】【歓迎】【ようこそ】という言葉が、色とりどりのチョークで美麗に飾ってある。もう、教室じゃん。
そのムー○ンは「王宮文官の人事部のカール・リンドルムと申します。初めましてぇ!」と声を上げた。
あ、ムー○ンでは無くカールおじさんだったのか。
「まず皆様に御礼を申し上げます。
このたびは召喚に応じて頂き、誠にありがとうございます。
総勢12名をお迎え出来まして、我が国は感謝しております。
はじめに申し上げますが、ここは皆様が暮らしてこられた世界では御座いません。異世界と申すもので御座いますぅ」
キター‼︎ 異世界っ‼︎
と拳を握る人が見えた。
何故喜ぶ?
同じ様にワクワクする自分に驚いて、レンは身体をかたくした。
リーマンがしゅたっと挙手をする。
「魔王ですかっ?戦うのですかっ⁉︎」
「聖女って王子様と結婚するんですか?」
「チートは貰えるんですかっ?」
はい。はい。と挙手する人は躁状態だ。
その浮かれっぷりは恐ろしい程だ。
カールおじさんはにこにこと見守っている。
「はぁい。まずこの世界には魔王はいませぇん。
皆様は戦わなくても大丈夫でぇす。
戦いたい方は魔獣討伐も御座いますからご検討下さいね
あとご安心ください。勇者や聖女の仕事を押し付ける事は御座いません
あ、魔法は御座いますから、落胆される事はないですよぉ
魔法は、こちらへの旅の間に女神様から何か贈られたでしょうから、後で一緒に学んでいきましょうねぇ」
魔法‼︎と沸き立つ厨二病患者をソフトにいなしながら、カールおじさんはその糸目を山形にして笑いつつ、ぬるりと本題に入った。
「皆様はこちらの世界に結婚して頂くために召喚されましたぁ」
どすこいと突撃したら、むふんと衝撃を吸収しそうなお腹はぱつぱつで。
ゆるキャラ好きな日本人のアイデンティティを揺さぶるその姿は、どう見てもムー○ンだ。
いや、ムー○ンという前世のまま、人間になった姿だ。
それがひらひらなジャボを煌めくピンズで留めて立っていた。
何故か誰も声を上げられず。
ぽかんと見上げられていたその人は、再びパンパンと手を叩く。
「はぁい。注目でぇす!
皆様無事に到着されましたねぇ。お疲れ様でしたぁ。
説明を致しますので付いて来て下さいねぇ!」
どうぞぉ。と背を向けられた。
何が何だかわからない。
とりあえず一人が立ち上がり後を追った。
次々と立ち上がり歩き出す。
……危険は無さそうだ。
ここにいても訳がわからない。
レンはハナを促して後に続いた。
模様から足を出すと、むわっと空気が変わった。
え、と止まろうとしたが皆は進んで行く。
喉の奥が痛い程の焦りと恐怖が、踏み出すごとにゆるゆると溶けていく。
「ねぇ、やっぱ異世界だよね」
「マジ!あたし、聖女なのっ?」
「やったぁ‼︎勇者なんだよなっ‼︎」
ウキウキしてくる。
周りの声が弾んでいる。
ハナの震えも治ってきた。
変だ。
レンのエマージェンシーモードが警報音を鳴らす。
レンのそれは本能に近いものだ。
それが、薄れる恐怖を警告してくる。
うふふという湧き上がる楽しい感情に警報を鳴らしてる。
ムー○ンは狭い廊下を通って近くの会議室に案内した。
入り口に受付が在って、名前や年齢、性別に出身地を書いてから着席を促される。机は皆んな前を向いていて、教卓にムー○ンが立っていた。
その背後の黒板に【welcome】【歓迎】【ようこそ】という言葉が、色とりどりのチョークで美麗に飾ってある。もう、教室じゃん。
そのムー○ンは「王宮文官の人事部のカール・リンドルムと申します。初めましてぇ!」と声を上げた。
あ、ムー○ンでは無くカールおじさんだったのか。
「まず皆様に御礼を申し上げます。
このたびは召喚に応じて頂き、誠にありがとうございます。
総勢12名をお迎え出来まして、我が国は感謝しております。
はじめに申し上げますが、ここは皆様が暮らしてこられた世界では御座いません。異世界と申すもので御座いますぅ」
キター‼︎ 異世界っ‼︎
と拳を握る人が見えた。
何故喜ぶ?
同じ様にワクワクする自分に驚いて、レンは身体をかたくした。
リーマンがしゅたっと挙手をする。
「魔王ですかっ?戦うのですかっ⁉︎」
「聖女って王子様と結婚するんですか?」
「チートは貰えるんですかっ?」
はい。はい。と挙手する人は躁状態だ。
その浮かれっぷりは恐ろしい程だ。
カールおじさんはにこにこと見守っている。
「はぁい。まずこの世界には魔王はいませぇん。
皆様は戦わなくても大丈夫でぇす。
戦いたい方は魔獣討伐も御座いますからご検討下さいね
あとご安心ください。勇者や聖女の仕事を押し付ける事は御座いません
あ、魔法は御座いますから、落胆される事はないですよぉ
魔法は、こちらへの旅の間に女神様から何か贈られたでしょうから、後で一緒に学んでいきましょうねぇ」
魔法‼︎と沸き立つ厨二病患者をソフトにいなしながら、カールおじさんはその糸目を山形にして笑いつつ、ぬるりと本題に入った。
「皆様はこちらの世界に結婚して頂くために召喚されましたぁ」
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