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終結に向けて
76 タロとサフィア
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そこにはサフィアがいた。
瓦礫の山の上でふうわりと浮いている。
轟轟と炎をあげる上昇気流でドレスをはためかせ、小さな素足が薄赤く炎を映していた。
緩くカールした髪は風に乗って四方に遊んでいる。
銀色の髪に結界の蒼と炎の紅がてらてらと映って、生き物のように蠢いていた。
いつも穏やかに微笑んでいた美しい顔は、口元をきゅっとあげて、目は爛々と輝いている。
横たわるセバスティンを後ろに庇い、腰を落としたサモエドに、にっこり笑いかけた。
サフィアはドレスの裾を靡かせて目前に降りてくる。
「見て。素敵なボディでしょう。
ほら、こんなに綺麗なんだよぉ。」
美しい腕を大きく伸ばし、バレェのレヴェランスのように礼をとる。
よく見るとドレスはあちこち破れて焦げている。
煤で汚れていたが、サフィアは美しかった。
「ねぇ。これなら満足でしょう?
ねぇ。これならあなたの子供を産めるよ。」
濃い葡萄のような瞳がサモエドを絡め取る。
キラキラしたその目に身動きが取れない。
それは奥に得体の知れないモノを蠢かせて、サモエドに迫っていた。
白い素足がめきりと転がった残骸を折る。
そのまま転がる瓶や木片をめきめきと踏みしだいて近寄ってくる。
ちろちろと踊る火の上を通っても、足もドレスも煽られもしなかった。
腰を落としたサモエドに、覆い被さるように上半身を屈めにっこりと笑う。
「ねぇ。セックスしよう。早く子供を作ろう。この体、状態が良いから三人くらいいけそうだよ。一人目と二人目の違いも味わえるよ。すっごく楽しみだ。」
「‼︎」
声を発そうとしたら、ぐっという音と共に激しく咳き込んだ。
痛い。
喉が痛い。
「…タ、ロ…」
ひゅーひゅーと喉を鳴らしながらあげた掠れる音に、サフィアは大きく笑った。
「そうだよ。
これから10年ほどは、これが私のボディだ。その間にベルガーみたいな完璧な人形を作るからね。」
そのあどけない笑顔に怖気が立った。
「ど、どうして、サフィア様に…」
「あ、この人、サフィア様って言うの?
そりゃ、外見と能力だよ。
今度は女になって妊娠してみたいって言ってたでしょう。いろいろ探しちゃったぁ」
サフィアはその美しい瞳をひたりとサモエドに合わせた。
足元のセバスティンを見ていない。
そう、興味のないものは視界に入ってはいかないのだ。
「驚きだよ、この体。
自動人形よりも、抵抗が無かったんだ。するりと中に侵りこんで、直ぐに書き換えられちゃった。魔力も能力も高いからすんごく苦労するって思ったのにね。
こんな簡単な人間がいるなんて信じられないよ。しかも、ほら。」
サフィアはゆっくりと首を振った。
銀色の輝く髪が、ふわりと広がる。
そして桜貝のような指先をきゅっと広げて自分の胸元をへと当てた。
「こんなに私にフィットしてる。
操られ慣れてるんだねぇ。きっと。」
濃い葡萄色の瞳。
薄桃色の唇。
見慣れた美しい顔がにたりとした笑を浮べる。
目の淵に誘うような淫靡さを滲ませ、濃い桃色の舌がひらひらと唇を舐める。
そこにいるのは女神ではない。
娼婦のような眼差しでその女はサモエドを誘う。
「ねぇ、セックスしようよ。」
誰か。
誰か来てくれ。
心の中でサモエドは叫んだ。
瓦礫の山の上でふうわりと浮いている。
轟轟と炎をあげる上昇気流でドレスをはためかせ、小さな素足が薄赤く炎を映していた。
緩くカールした髪は風に乗って四方に遊んでいる。
銀色の髪に結界の蒼と炎の紅がてらてらと映って、生き物のように蠢いていた。
いつも穏やかに微笑んでいた美しい顔は、口元をきゅっとあげて、目は爛々と輝いている。
横たわるセバスティンを後ろに庇い、腰を落としたサモエドに、にっこり笑いかけた。
サフィアはドレスの裾を靡かせて目前に降りてくる。
「見て。素敵なボディでしょう。
ほら、こんなに綺麗なんだよぉ。」
美しい腕を大きく伸ばし、バレェのレヴェランスのように礼をとる。
よく見るとドレスはあちこち破れて焦げている。
煤で汚れていたが、サフィアは美しかった。
「ねぇ。これなら満足でしょう?
ねぇ。これならあなたの子供を産めるよ。」
濃い葡萄のような瞳がサモエドを絡め取る。
キラキラしたその目に身動きが取れない。
それは奥に得体の知れないモノを蠢かせて、サモエドに迫っていた。
白い素足がめきりと転がった残骸を折る。
そのまま転がる瓶や木片をめきめきと踏みしだいて近寄ってくる。
ちろちろと踊る火の上を通っても、足もドレスも煽られもしなかった。
腰を落としたサモエドに、覆い被さるように上半身を屈めにっこりと笑う。
「ねぇ。セックスしよう。早く子供を作ろう。この体、状態が良いから三人くらいいけそうだよ。一人目と二人目の違いも味わえるよ。すっごく楽しみだ。」
「‼︎」
声を発そうとしたら、ぐっという音と共に激しく咳き込んだ。
痛い。
喉が痛い。
「…タ、ロ…」
ひゅーひゅーと喉を鳴らしながらあげた掠れる音に、サフィアは大きく笑った。
「そうだよ。
これから10年ほどは、これが私のボディだ。その間にベルガーみたいな完璧な人形を作るからね。」
そのあどけない笑顔に怖気が立った。
「ど、どうして、サフィア様に…」
「あ、この人、サフィア様って言うの?
そりゃ、外見と能力だよ。
今度は女になって妊娠してみたいって言ってたでしょう。いろいろ探しちゃったぁ」
サフィアはその美しい瞳をひたりとサモエドに合わせた。
足元のセバスティンを見ていない。
そう、興味のないものは視界に入ってはいかないのだ。
「驚きだよ、この体。
自動人形よりも、抵抗が無かったんだ。するりと中に侵りこんで、直ぐに書き換えられちゃった。魔力も能力も高いからすんごく苦労するって思ったのにね。
こんな簡単な人間がいるなんて信じられないよ。しかも、ほら。」
サフィアはゆっくりと首を振った。
銀色の輝く髪が、ふわりと広がる。
そして桜貝のような指先をきゅっと広げて自分の胸元をへと当てた。
「こんなに私にフィットしてる。
操られ慣れてるんだねぇ。きっと。」
濃い葡萄色の瞳。
薄桃色の唇。
見慣れた美しい顔がにたりとした笑を浮べる。
目の淵に誘うような淫靡さを滲ませ、濃い桃色の舌がひらひらと唇を舐める。
そこにいるのは女神ではない。
娼婦のような眼差しでその女はサモエドを誘う。
「ねぇ、セックスしようよ。」
誰か。
誰か来てくれ。
心の中でサモエドは叫んだ。
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