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始まっていく

70 ベルガー

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レオン・ベルガーという名前を付けたのはレリア様だ。
レオン・ベルガーのただ一人の主はレリア様だ。

ベルガーはレリア様のナニーのベルを受け継いでいた。


喃語を話す事も。
おしめが濡れても泣く事もせずに。
その人形のような顔で見上げていた赤ん坊。
そんなレリア様を覚えている。

サモエド様はベルとしての意識を遺してくれた。
おかげでレリア様と共にいた時の全ての意識が残っている。

初めてレリア様を見た時に、自分の何処かでスイッチが入った。
造られた物であったとしても"愛しい"という感情が、叩きつけるように湧き上がった。

抱き上げると、その赤ん坊の目はなんの感情も浮かばせずにじっと見上げていた。
鏡のような瞳の中に、いい子ですねぇ。
と笑いかける。

赤ん坊はまさしく鏡だ。
抱き締める者を反射する。
レリア様の表情がへにゃりと崩れて、きゃっきゃっと声を上げた時。
ベルはその小さな手に誓いのキスを贈った。

レリア様は素直に育った。
あのような(人形であろうと、あの環境は異常だと思う)屋敷の中で、いじけたり僻んだり自己嫌悪に陥らずに、姿と同じように美しく育った。
ベルガーの自慢の主だ。



その主が。


レリア様のやわ肌に余計な刺激を与えないように、絹でお体を拭う。
絹は虫の繭になる糸を織ったものだが、とても美しくて肌触りが良い。

ベルガーは入浴の世話をしていた。
……こんな朝っぱらから…

そしてあらぬところについている皮下出血の痕に、腹の中でギリギリと歯軋りをしていた。

あのクソ王子。
こんなところも、あんなところも吸い付きやがった。
レリア様に気取られ無いようにすましているが、心はめらっさと燃えている。




夜に温室で密会すると言われた時、
はあぁぁっ⁉︎と、顎が外れるかと思った。

もじもじするレリア様は、最近の恋心が丸わかりだ。

そんな二人が夜。
二人っきりで密会だとっ!
もう、ナニがどうなるかは言わずもがなだろうがっ!

しかもサモエド様がこっそりと

「今夜、城に戻せばザラド殿下は暗殺されるよ」

と、ほざく。

「夜会で人の出入りがある時にリーリアさんを仕込むだろからね。毒が使えないとわかると、モリナロルは物理的に行くだろうし。僕としてはザラド殿下が死んでも構わないんだけどさ。レリアちゃん、泣いちゃうだろうなぁ。」

物理的。
つまりグサッ‼︎
だの
ドガッ!
だのですね。

いかんです!
レリア様が泣き暮らす事は耐えられないです。

~~という訳で、ベルガーは温室の外で結界を張っていた。
温室はファーヴの魔素が爆誕で。
どれだけ抑えて結界を張っても、溢れる魔素がベルガーにも流れ込み正直お腹はいっぱいだ。

察知した魔物がふらふらとやって来る。
それを屠りながら、ベルガーはジリジリと温室の中のレリア様を案じていた。

が。


夜明け前。
二人が温室から出て来て別れを言い合った時。
あ、これ、終わった。
と思った。

もろ『後朝きぬぎぬの別れ』だった。
クリーンを掛けただろうに、二人には互いの魔力が露骨に絡みつき。
ファーヴから受けた魔素のシャワーで内側から金色に光っている。
互いを見つめる目はうっとりと甘い。


~~しょうがない。
保護対象のおまけに貴様を入れてやろう。
と、心の中でザラド王子に宣言するほどに、その魔力は溶け合って一つになっていた。


ザラド王子。
貴様はこれからるんるんで城に帰って、天国から地獄に突き落とされるんだ。
今だけだ。
幸せは今だけだからなっ‼︎
私の大事な主を奪ったんだから、たっぷり泣きやがれっ‼︎

そんなダークサイドに浸りながら、ベルガーはレリア様の世話をする。


恋ゆえか。
金色の魔素のせいか。
レリア様は匂い立つような色香を醸している。

……これは危ない。
思わず、少し認識阻害する物を、衣装に付与するベルガーだった。


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