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そして王宮

38 セルカーク  上

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セルカークは第二王子だ。
つまり、スペアだ。

選択肢も無く。
生まれた時からそう決められていた。

そして、最も身近にいる者として、第一王子を御守りしましょう!と、言われ。
物心ついた時から朝から晩まで剣を振らされて怒鳴られた。
ああしろ、こうしろと教師に怒られる意味がさっぱりわからなかった。

さらにそこそこになると、勉強が入った。

スペアだよ。
スペアって、いざという時の替えなんだよね?
と、心の中で呟く。

目の前には、
「やなこった!」
と、逃げ出した兄の空っぽな椅子があり。
青筋のたった教師が、にっこりとこっちを向いて「さあ、始めましょう。」と、
鞭を手でパシパシいわせてた。

思えば一つ上の第一王子は、天衣無縫な我儘っ子だった。
そして皺寄せがこっちへ来る。

剣にダンスに作法に勉強……。
スペアって楽な筈じゃなかったっけ?
期待はゼロパーなのに、忙しい。
スペアって、もっと放っとかれるものじゃなかったっけ?

もう、意味が理解できるけど、わからない。
わかりたくない。

よく出来ましたと言われても。
結局、スペアで臣下になるものだ。
支えましょうと言われても、本人が出来なくてどうするんだ。と、内心腹立たしく思ってた。



そんなある日。
本当に突然に。
なんの前触れも無く。
セルカークは恋をした。


王族ともなると政略結婚は当たり前で。
候補となる令嬢も、側近候補の子息も、良くお茶会に来ていた。
第一王子のロットワイナは、男の子を集めて走り回ったり。
女の子に無茶振りして泣かしたりして、それを楽しんでいる。

セルカークはスペアとして、あまり擦り寄って来られる事もなく。
いつも端のテーブルで人間模様を観察して時間を潰していた。

だいたい子供は(自分も子供だけど)背後に大人の影を背負って、お追陞をのべる。
でも、被りきれない猫が、仮面が、ほつれていく。
そのヒビが入って行くのが面白くて、セルカークは気配を殺す事を覚えた。

子供だけの世界でも、なかなかに泥々している。
黙って静かに見ていると、馬鹿らしくて笑えてくる。


そんな時、いつも綺麗な笑顔をのっけている女の子を見つけた。
婚約者候補のサフィア嬢だ。

おべっかとか、嫌味とかのどろどろと気味の悪いモノに包まれても、彼女はいつも笑顔でいる。

出来過ぎじゃない?
そう思ってちょっと突っついてみたけれど。
彼女は背筋を伸ばして笑顔を崩さなかった。

それが、貴族というより人としての矜持とかに繋がっている。と、理解する前から。

一人綺麗に微笑む、その熟れた葡萄の様な瞳の中に、自分だけが映っていたらいいのに…
と、願う様になっていた。
そして、もっと会いたい。
話したい。
と、願う様になって。

あぁ、これが恋だと確信した。
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