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そして王宮

32 リーリア 下

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ホールは騒ついていた。
そうでしょ、イカした胸でしょ♡
って、礼をして顔を上げたのに…。
あれ、誰もあたしを見ていない。

父さんにぐいぐい引っ張られて王様の前まで行く。
途中、目で探ったのに。
なんでよっ!
誰もあたしに見惚れてないじゃない‼︎
女神よっ。
女神が来たのよっ‼︎

王様の前で立ち止まって、何度も練習したカーテシーをする。
さぁ、あたしに声を掛けて。
口説いてくれてもいいわよん。
と、顔を上げたら、王様の視線は遥か向こうで。
明らかに心はここに無くって。
"おめでとう。"
と言うなんとも間抜けな言葉を頂いた。



「やあ、リーリア。凄く綺麗だね。」

オクタが声を掛けて掛けてくれたので、なんとか踏み留まったけど。
なんか闇落ちしそうなくらい、このホールの気配があたしに無関心。

なんなのよっ‼︎
こんな綺麗なデビューの令嬢がいるのに。
なに、ザワついてんのよっ!

見ると王様も、貴族のおばさんもおじさんも、皆んな向こうをぼんやり見ている。

肩でぐいぐい人を押してそっちへ行く。
だって許せないじゃん。

人を掻き分けて進んでいくと…

ま、眩しい。
光が反射して目を射った。

白一色のガチョウの群れのなかで、その人、金色に光ってた。
いや、光ってたと思ったの、髪だった。
いやぁ、なんでそんなに艶々…
ていうか。
いやぁ、なんでそんなに綺麗なのよ!
男よ。
男なのよね?

口をあんぐり開けて、あたしもガチョウの群れの一員になった。




ファーストダンスが始まって。
その人、黒髪のイケメンと踊ってる。
ザラドはシャルア様と。


リーリアは父親と踊る。


曲が終わって、礼をして手を離した時。
ホールはどっとどよめいた。
壇上が第二王子が降りてきて、その金髪に願ったのだ。

やだぁ。
でっかいホールがどおんと揺れて、地震がきたかとおもったわ。
ホールの人、全てがフリーズして。
曲が始まって真ん中で踊り出したのはその一組だけ。
いやぁん。
目立ってるわ。
超、悔しい!



リーリアがザラドに近づこうとした時。
鬼のような目でこっちを見ている王太子妃に気づいた。

王太子妃ミラーテはリーリアの憧れだ。
いや、下級貴族の令嬢は皆んな憧れてると思う。
だって貧乏男爵家から、王太子妃にまでなったんだもの。

リーリアはうっとりと王太子妃を見上げた。


あたしはベストセラーになった、
  "真実の愛の物語"
  ーー想いを貫いた二人ーー  も、

王太子妃様がお書きになった、
  "愛され女子になる為の10の方法" も

サイン本で持ってるわっ♡

よっぽど王太子に愛されてて監禁されてるのか、王太子妃はほとんど表に出て来ない。

ただリーリアが三才くらいの時。
近くの孤児院への表敬訪問があった。
リーリアはもちろん見に行った。
孤児院の塀を猿のように登って、王太子の一行を眺めた。

グレーや紺やきなりや黒。
そんな可愛いくない孤児院の色味の中で、その人は頭からつま先までキンキラキンに光ってた。
すんごく。
すんごく、美しかった!

『けっ!俺達の税金で飾り立てやがって!』

後ろで誰かが言ったけど。
ばっかじゃないのぉ‼︎

商人のマルコさんが言ってたよ。
お金は使わないと回らないって。
王太子妃が使えば回るって事だよね?

幼いリーリアは、宝石のドレスに飾られた姿がくっきりと脳裏に焼き付いた。

あたしもああなりたい♡



そんな憧れの王太子妃が、イライラと爪を噛みながら踊る二人を睨んでいる。

あら、波乱の予感ね。

自分の煌めくデビュタントを台無しにした金髪に、なんかひと泡ふかせられる気がするわ♡





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