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屋敷の暮らし

11 誕生日 上  レリア四歳

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「おはよう、レリア。」

低く、少し掠れたベルの声がする。

「お寝坊さん。外はいい天気よ。」

笑いを含んだ声に、ゆるゆると伸びをする。
渋々と目を開けると、ベルが温かく絞ったタオルで顔を拭いてくれる。
ベルの後ろでは、メイドの人形が、脱いだ寝衣を集めたり飲み終わったカップを下げたりする。
メイドの人形は、関節に球を使っているから動きは滑らかだ。
でも少しカタカタと音が聞こえる。

ベルは全く音がしない。
母様と同じで、花の様な甘い匂いがする。
抱きつくと柔らかくて暖かい。
ベルの腕の中は気持ちがよくて幸せになれる。

レリアはベルが好きだ。
ベルがいれば大丈夫。
ベルがいれば怖くない。
自分に話しかけてくれるベルだけが、レリアの世界だった。



サモエドはだいたいレリアの誕生日にやってくる。

誕生日は特別だ。
いつもはしんとして眠っているようなこの屋敷が、高らかに笑っている様になる。
食堂もホールも花が飾られ、灯りが煌々としているだけなのに、何故かとても明るい。

~~いや、これは母様が楽しそうだからだ。
母様のにこにこと、歌い出しそうな雰囲気が、光の様に周りに反射して、ワクワクと心を揺すっていく。

いつも美しい母様は、さらにドレスアップする。
その宝石のような紫の瞳に合わせて、葡萄を意匠としたドレスを着る。
アクセサリーも母様の美しさを彩って、レリアは口を開けてその美しさに見惚れた。

そんな母様をエスコートするセバスは、背をピンと伸ばして。
もう、世界を足下に御したような顔をしている。

飾られたケーキ。
飾られたテーブル。
色とりどりのご馳走。

レリアも特別な服に着替えて、主賓としてサモエドを迎える。

サモエドは、ボサボサのダークブラウンの髪をなんとか捩じ伏せて、儀礼用のフロットコートを着ていた。
まるで大人にするように恭しくレリアに礼をとる。

「お誕生日、おめでとうございます。」

と、にこにこと言ってくれた。
サモエドの声はかなり大きいので、食堂の中に楽しい会話が響きわたる。
今は学園で教鞭をとってらっしゃるそうで。
やらかした生徒の話をして、母様を声を上げて笑わせていた。

母様の笑い声に、セバスも楽しそうだ。
セバスの笑顔をレリアはドキドキと見つめていた。




やがて誕生会はお開きになり、母様は二階に引き上げる。
レディースメイドにエスコートされ、おやすみなさいのキスを交わしながら、母様は部屋へ帰っていった。


談話室で大人はブランデーを。
レリアはミルクティーを飲みながら、キラキラした時の余韻を堪能する。


一生懸命にサモエドに対応するレリアを観察する。
じっと見つめていたセバスは、ゆっくりとグラスを置いてレリアを呼んだ。

「おまえはもう四歳を迎えた。
 もう、ナニーは必要ないな。」


レリアは真っ青になった。
ベルを取り上げられる。
ベルが廃棄される。
僕のベルが!

頭の中でベルの優しい声が聞こえる。

ベルがいなくなったら……。

誰も僕に話しかけない。

自動人形は喋らない。
喋るのはベルと母様のメイドとコンパニオンだけ。
僕は離れで暮らしているり
多分、セバスの目に入らないように。

母様は綺麗で優しいけれど、貴族だから子供と触れ合う事はない。
セバスは母様の御用をする為に、僕を歯牙にも掛けない。

ベルがいなくなったら、僕は独りぼっちだ。

嫌だ!
嫌だ!
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