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王都事変
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スーティ・オウは醒めた目でラルーナを見下ろしていた。
その感情を映さない冷ややかな目を、オベロンはじっと見ている。
「何故報せて頂けなかったのでしょう。」
「報せればその体を奪われてしまうかと。
離れたくはなかったのだ…。」
「お子様は?」
「一人。だが既に鬼籍に入っておる。」
しばらく待ってみたが、言葉は続かない。
「お子様のお名前は?」
「ロクサーヌという。」
「朝焼けの花良い名です。その方は…」
「伴侶も無く死んだ。」
「……。」
ラルーナの冷たい体は、薄桃色の花弁のような衣を着ている。
柔らかなその衣は緩やかに広がっている。
そのちらりと見えた二の腕をスーティ・オウは見逃さなかった。
「なるほど、焼いたのですね。」
「……。」
「それでは遺体を送り返せませんね。
しかも、この結界の強さ…」
「……。」
「私は二人が恋に目が眩んだのだと信じてました。だからこそ体に魔力封じの陣を入れて送り出したんですが。」
「……。」
「流石は王族。恋に迷うことは無いのですか。」
「…黙れ。」
獅子王オベロンの金色の目がぎらりと光った。
その尾がピンと立ち上がり、殺気と威圧がスーティ・オウに向かって噴き上がる。
物理的に風となって、髪をびゅうっと吹き上げるのを、スーティは目を細めて受け流した。
ふぅん。
怒るほどには心が有ったか。
「それで?姉上の体を核にして結界を張っているこの建物はなんなのですか?これだけの力が有れば王宮も、薄くすれば王都ですら覆えるでしょうに。この人を寄せ付けない魔力の固まりみたいな建物は。」
スーティ・オウは天井を見上げた。
螺旋になったこの地下には、陣が刻まれている。
それが上へと立ち上がり、天井を突き抜けてさらに上へ上へと伸びている。
邪な心を持った者どころが、護衛兵すら近寄れないほどに濃い。
「ココは、空中庭園だ。……ラルーナが作った。」
煩悶する様にオベロンは告げる。
そしてギラッと強い視線を向けた。
「ここでわしの妃を育てている。手出し無用だ。」
"わしの妃"
表情を崩さないままにスーティ・オウの内心は驚愕の叫びを上げていた。
パルスやライサンダーによれば、ここにはシルフィがいる。
街道を通りながら、国中に気配を探してた感知の網を張った。
パルスと同じ気配を探して…。
だが、何処にも無い。
この結界の建物の中だけが探れない…。
謁見を終えたスーティ・オウはいとまを告げた。
開かれる夜会。
チカチカする程に巡る沢山の貴族達。
川に浮かぶ木の葉のように思いながら、なんとか使節の役目を終えた。
魔法陣を使えば帰りは一瞬だ。
だがこの獣人達の前で、そんなものを見せたりしない。
その力を欲しがって、再び大戦が始まるかも知れない。
ちょっとだけ魔力の多い、斜陽の国。
タイタニアの印象をそう位置付けなくては。
シーシュス領の屋敷を起点にしていた。
シーシュス領の騎士たちに護衛されながら帰路につく。
表向き、シーシュスのルザの樹海にタイタニアの入り口がある。
パルスとライサンダーに再会した時。
スーティ・オウはシルフィがラルーナの依代として育てられているのかも知れないと告げた。
その感情を映さない冷ややかな目を、オベロンはじっと見ている。
「何故報せて頂けなかったのでしょう。」
「報せればその体を奪われてしまうかと。
離れたくはなかったのだ…。」
「お子様は?」
「一人。だが既に鬼籍に入っておる。」
しばらく待ってみたが、言葉は続かない。
「お子様のお名前は?」
「ロクサーヌという。」
「朝焼けの花良い名です。その方は…」
「伴侶も無く死んだ。」
「……。」
ラルーナの冷たい体は、薄桃色の花弁のような衣を着ている。
柔らかなその衣は緩やかに広がっている。
そのちらりと見えた二の腕をスーティ・オウは見逃さなかった。
「なるほど、焼いたのですね。」
「……。」
「それでは遺体を送り返せませんね。
しかも、この結界の強さ…」
「……。」
「私は二人が恋に目が眩んだのだと信じてました。だからこそ体に魔力封じの陣を入れて送り出したんですが。」
「……。」
「流石は王族。恋に迷うことは無いのですか。」
「…黙れ。」
獅子王オベロンの金色の目がぎらりと光った。
その尾がピンと立ち上がり、殺気と威圧がスーティ・オウに向かって噴き上がる。
物理的に風となって、髪をびゅうっと吹き上げるのを、スーティは目を細めて受け流した。
ふぅん。
怒るほどには心が有ったか。
「それで?姉上の体を核にして結界を張っているこの建物はなんなのですか?これだけの力が有れば王宮も、薄くすれば王都ですら覆えるでしょうに。この人を寄せ付けない魔力の固まりみたいな建物は。」
スーティ・オウは天井を見上げた。
螺旋になったこの地下には、陣が刻まれている。
それが上へと立ち上がり、天井を突き抜けてさらに上へ上へと伸びている。
邪な心を持った者どころが、護衛兵すら近寄れないほどに濃い。
「ココは、空中庭園だ。……ラルーナが作った。」
煩悶する様にオベロンは告げる。
そしてギラッと強い視線を向けた。
「ここでわしの妃を育てている。手出し無用だ。」
"わしの妃"
表情を崩さないままにスーティ・オウの内心は驚愕の叫びを上げていた。
パルスやライサンダーによれば、ここにはシルフィがいる。
街道を通りながら、国中に気配を探してた感知の網を張った。
パルスと同じ気配を探して…。
だが、何処にも無い。
この結界の建物の中だけが探れない…。
謁見を終えたスーティ・オウはいとまを告げた。
開かれる夜会。
チカチカする程に巡る沢山の貴族達。
川に浮かぶ木の葉のように思いながら、なんとか使節の役目を終えた。
魔法陣を使えば帰りは一瞬だ。
だがこの獣人達の前で、そんなものを見せたりしない。
その力を欲しがって、再び大戦が始まるかも知れない。
ちょっとだけ魔力の多い、斜陽の国。
タイタニアの印象をそう位置付けなくては。
シーシュス領の屋敷を起点にしていた。
シーシュス領の騎士たちに護衛されながら帰路につく。
表向き、シーシュスのルザの樹海にタイタニアの入り口がある。
パルスとライサンダーに再会した時。
スーティ・オウはシルフィがラルーナの依代として育てられているのかも知れないと告げた。
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